when to cry
-chapter 10-



タルタロスへ訪れた際、は乾も共に来ていた事に驚いた。

「乾も仲間になったの?」
「うん。だから、これからもよろしく、

手を差し伸べられ、彼女は疑いもせずに握手をしようとした。
だが、乾は彼女の手首を引っ張り、耳元で囁く。

「色々と覚悟しておいてよ」

少年の顔が、急に大人びえては仰天する。
しかし、それも束の間の事で、彼は美鶴に呼ばれると子供の笑顔に戻っていた。

「どうかした?」

呆然と乾を見つめるを心配して、ゆかりが声をかける。
視線をそらさずに彼女は小さな声で言った。

「幾つであっても、男なんだなぁと関心した」
「腕を引っ張られた事を気にしたわけ?あれは不意打ちだから仕方ないでしょ」
「いや、力の話じゃなくて」

掴まれた腕を見つめて、物思いにふける。
何が言いたいのか分からないゆかりは、どうしようもなかった。








「おはようございます、さん。遅かったですね」

9月2日。
ロビーでは、制服姿のアイギスを二年生が囲んでいる。
は、それに加わった。

「アイちゃんも学校に行くの?」
「はい。皆さんと行動を共にするであります」
「似合ってるね、制服」
「ありがとうございます」

大して驚かない彼女に順平がつっこんだ。

「それだけ?もっと、こう『ええ!何で学校行くの?』とかないわけ?」
「無駄よ、順平。多分、今のはまだ頭が起きてないのよ」
「失礼ね。ちゃんと起きてるってば」
ちゃん、足元がふらついてる」

こけそうになったをリーダーが支える。
こんな役割ばかりだとため息を吐く彼など気にせず、は重い瞼を懸命に開けようとしていた。

「あー、とりあえず、は俺が連れてくわ」

寄りかかっているの肩を抱いて、順平が寮を出ようとする。
そこに乾が現れた。

「順平さん、彼女から手を離して下さい。馬鹿がうつります」
「へ?」

気を許した隙に乾はから手を離させ、彼女の手の甲を思い切り抓った。

「起きて、。学校に行く時間だよ」
「んー。」

なんとか一人で立てるようになったに満足すると、乾は胸を張った。

「こんなもんです」
「すごい、天田君!」
と知り合って間もないのに、もう操れてる」
「すげーな、おい」

拍手の喝采で機嫌を良くした乾は、寮を出るまでの手を握って離さなかった。







放課後、寮へ直接帰っていたは、ラウンジでくつろいでいた。
その彼女を指して震えているのは、真次郎だった。

「アキ!何で、こいつがここに居る?!」
「なんだ、シンジ。を知ってるのか?」
「当たり前でしょ、アキ。私は、モデルで活躍してるんだから」
「ああ、そうか。本人が目の前にいて驚いているのか」

そういう事じゃねえと真次郎が叫びそうになったが、の何も言うなというオーラが見えて、黙り込む。
彼女はにこやかに微笑んでいるので、気づいている者はいなさそうだ。
あいつらの仲間じゃなかったのか?不思議に思いながらも、真次郎は考え始めた。

「シンジって言うんだ。もしかして、新しい仲間なの、アキ?」
「まあな。復帰した、と言った方があってるんだろうが」

勝手に話が盛り上がる二人の横で、動揺が隠せない真次郎を見かねたはシンジを呼んだ。
耳を近寄らせて、小声で話す。

「余計な事は言わないでよ。でなきゃ、あなたの寿命をアキにバラすから」

普段は気が抜けてるように見えても、はストレガと過ごしていた人間だ。
彼らが、真次郎について調べてあることを耳にした事がある。
真次郎が明彦と親しい間柄である事も知っていた。
そして、彼が優しい人間だということも承知している。
それゆえに、彼女は彼の弱点も見極めていた。

「別に知られたって構わねえ。お前の方が、知られたくねえんだろ?」

怖気もせずに言われた事には顔を強張らせる。
相手の方が彼女の弱点を見切っていた。

何やらただならぬ雰囲気に、今度は明彦がついていけなかった。

「お前ら、知り合いだったのか?」
「お互いに名前も知らない仲だけどね」
「名乗る必要も無かったからな」

平然と答えた二人が仲よさげに見えた明彦は、胸が痛んだ。
しかし、彼はそれがどうしてなのかが分からなかった。

「一応、挨拶しておこうか。、よろしく」
「荒垣真次郎。あんま馴れ合ってくるなよ」
「あ、冷たい、あーくん。前まで優しかったのに」
「『あーくん』は何だ、『あーくん』は」
「荒垣だから、あーくん。可愛いね」
「無表情で気味悪いこと言うな。せめて、シンジにしとけ」
「というより、。それは前に俺につけようとしたあだ名じゃないか?」

アキも乾も『あーくん』を嫌がるから、シンジにつけようと思ったのに。
文句たれるが、自分の知る彼女に戻っていて明彦は安心した。
その時、ちょうど寮に帰ってきた乾が会話に混じった。

、何やってるの?」
「おかえり、乾。新しい仲間のシンジだって」
「そう・・・天田乾です、よろしく」
「荒垣真次郎だ」

重い空気が流れるが、乾は真次郎に挨拶だけするとの手を引いてカウンターの方へ向かおうとした。
だが、乾がの手を握ったのを見た明彦が、の空いている手をとる。
引っ張られて動けなくなった二人は、不思議そうに明彦を見た。

「どうかした、アキ?」

沈黙に耐えられなくなったが聞いてみる。
問われてから自分のやった事に気づくと、明彦は謝って手を離した。

その隙を乾は見逃さず、カウンターへ移動する。
は引っ張られて行った。


何故、自分が彼女をひきとめたのかが分からない明彦は、自分の手を見つめる。
それをつまらなさそうに真次郎が見届けていた。







-back stage-

管理:天田少年は絶対にシンジに「はじめまして」は言ってないと思う。で、やっとこさ逆ハーっぽくなった!
伊織:それにつれて、俺とリーダーの出番少なくなってきてね?
山岸:彼なんて、結構「どうでもいい人」になってきてるし。
管理:おかしいな、主人公も好きなんだけど、私。
岳羽:アンタの好みなんて知ったこっちゃないわよ。もっと考えて出してあげたら?
美鶴:あと、私たち女子の出番もな。
管理:(コロマルは良いのか?)

2007.01.31

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