when to cry
-chapter 13-
ノックと一緒には扉を開けた。
ベッドで寝ていた彼が体を起こすのを止めると、手にしたお盆を掲げる。
「リーダーが風邪ひいたって聞いて、お粥作ってきたよ」
椅子を勝手にベッドの脇に動かして、それに座る。
彼は食べる為に体を起こす。
皿を受け取ろうとすると、がレンゲで粥を掬い、息をかけた。
「はい、あーん」
たじろぐ彼にが笑った。
「大丈夫、味は悪くないから」
そういう意味で驚いたわけでないのだが、彼女は気づかない。
彼は腹を空かしていたので、何も言わずにそれを口にした。
「美味しい?」
微笑した彼の顔を見て、は安心した。
お盆を彼の膝の上に乗せ、あとは彼自身で食べるようにした。
「ちょっとやってみたかっただけなの。薬、取ってくるね」
粥と一緒に残された彼が少し残念そうにしていた事は、は知るよしもなかった。
「もうすぐ10月4日か」
季節が変わり、制服が冬服に変わった10月1日。
浮かばれない顔で、乾は携帯の画面を確認する。
椅子に座っている彼をが頭上から覗き込んだ。
「なんだか、元気ないね」
「うわ!?な、なんだ、か。ビックリさせないでよ」
「ごめん。それで、何を考えてるわけ?」
「別に」
素っ気無い態度が珍しくて、は隣に腰を下ろす。
すると、乾は席を立った。
「宿題、してくる」
それ以上追求する事もできなくて、は彼が置いていった雑誌に目を通した。
10月4日。
は嫌な予感がして、普段より早く目覚めた。
ギリギリまで眠る彼女としては、30分早く起きたのを自分でも驚いていた。
制服に着替えると同時に、ドアが叩かれる。
扉を開いた先には、真次郎が立っていた。
「朝早くにどうかした?」
「俺にとっちゃ、がこの時間に起きてたのが驚きだな」
「こういう時もあるの。で、用は?」
「今日、学校サボれるか?」
唐突な質問に動じることもなく、は私服を用意し始めた。
「口で言え、口で」
「着替えるから待ってて」
気にせずブラウスを脱いだに、真次郎は顔を少し赤くして部屋を出て行った。
「どこに行く?あ、いきなりラーメンは無理だからね」
「この時間じゃ開いてねえよ」
朝から店に入れるのは、喫茶店ぐらいだ。
二人はポロニアンモールに行く事にした。
「そういや、お前。前に、後悔しないよう生きろって言ったな」
「くだらねぇとか言って答えなかったよね、シンジは」
この店の名物、フェロモン珈琲を飲みながらの会話。
真次郎は夏にした話をふった。
「後悔とかは分からねえが・・・少しは、楽しんでるぞ」
「それは、よかった」
「のおかげで、それなりに楽しかった」
「ふうん。ところで、今日は何日?」
以前、答えようともしなかった質問に答えた真次郎。
今朝の悪い予感が当たりそうで怖かったは、話を変えた。
だが、それも内容は明るいとは言えない。
「10月4日」
「今日は、何の日?」
「・・・どういう意味だ」
睨みつけるような視線でを見る。
彼女は目を逸らさなかった。
「乾が、やけに今日を気にしていたから。シンジは知ってるかと思って」
「さぁな。本人に聞けばいいじゃねえか」
「本人は答えてくれなかった」
「なら、深追いすんな」
喉を潤すが、は真剣な目つきでシンジを見つめる。
彼は、彼女が全てを知ってるかのように錯覚した。
「そろそろ店も開く時間だろ。行きてえ場所は?」
そんな彼ができるのは、の気を紛らわそうとすることだけだった。
「あ、ちょっと待って」
ポロニアンモールにある店をぶらついていると、はアクセサリー屋のディスプレイを覗いた。
面白そうに目を向けた先を真次郎も見る。
そこには、斧のペンダントがあった。
「アクセサリーが斧の形をしてるなんて、珍しいね」
「こんなのつけて、どうすんだ?」
「それは、分からないけど・・・斧といえば、シンジだよね」
笑って去ろうとするを呼び止めると、彼は一人店内へ入った。
しばらくしてから、小さな袋を手にして出てきた。
「今日、付き合わせた詫びだ」
「私も楽しんでるから、謝らなくて良いのに」
「これを俺だと思って大事にしとけ」
袋から取り出したネックレスのチェーンには、先ほどのペンダント。
真次郎はの後ろに回ると、器用にそれを着けた。
「い、いいよ、いらない!」
「黙って受け取ってろ」
切なげにそのペンダントを手にしたは、不安が募る。
今夜は満月。
何か大変な事が、影時間に起こるのだろうか。
「ありがとう」
「ああ」
暗い考えが浮かんだは、深呼吸をする。
気を取り直すと、とびっきりの笑顔でもう一度言った。
「シンジだと思って、大事にする」
「なら、いきなり汚すなよ」
モールを出ようとする彼の後を追って叫んだ。
「ラーメンは、もうちょっと後に食べようよー!」
一日遊び回り、外は日が暮れ始めている。
寮へ帰る道の途中で、が歩くのを止めた。
「ごめん、シンジ。先に帰ってくれる?」
「討伐に参加しなかったら、怒鳴られるんじゃねえのか」
「急に仕事が入ったって言っておいてよ」
笑みを絶やさないを叱るわけでもなく、シンジは答えた。
「俺の言う事を聞くなら、言っておいてやる」
「それで、手を打ちましょう」
すると、真次郎は腰に手を回して耳元で呟いた。
「そのネックレス、絶対に失くすんじゃねえぞ」
これで会うのが最後なんだ。
直感的には思った。
嫌な予感があたらなければいい。
そう願い続けながら、抱き返した。
「失くしたら、このペンダントの斧が私を成敗しそうだね」
「ふん。そんな面倒な事、誰がするか」
いつもと変わらない会話。
離れた二人は、笑っていた。
「じゃあ、またね」
「ああ。あとで」
別れの言葉は互いに口にせず、それぞれの道を歩んだ。
槍を手にした少年とニット帽を被った少年。
は、彼らが影時間に会っているのを近くにあるビルの窓から見ていた。
そこにタカヤが乱入したと同時に、彼女は後ろに声をかけた。
「何の用、ジン」
「行かへんのか?あいつ等、殺されるで」
爆薬を手にして立つジンに振り向いたは、諦めたように笑った。
「行けないんだよ。これは、介入しちゃいけない問題だから」
「介入、ね。お前、どこまで知っとったんや?」
「何にも。シンジがペルソナを使わなくなったのと、乾の母親が死んだのが同じ日ってぐらいしか」
「十分やないか」
「予想でしか無かったよ」
乾の母親は、二年前の10月4日、シンジによって殺された。
裏付けるものもないそれは、推理ともいえないものだ。
しかし、気になったは彼らの後をつけた。
そこにストレガが介入してくるとは思わなかったが。
「今朝、普段より30分も早く目が覚めたんだよ」
「へえ。そら、珍しいな」
「嫌な予感は、これの事なのかな」
銃声を耳にする。
は、何が起こっているのかを確認する為の勇気が出てこなかった。
足が震えて、振り向けないでいた。
「どうして、私は死臭がする人を好きになりやすいんだか」
「今なら、まだ間に合うで」
「無理だよ。これが、シンジのしたい事なんだから」
二つ目の銃声が鳴り響く。
仲間を心配して駆けつけるメンバーの声が近づいてきた。
「阿呆やな、は」
「どうせ、死は訪れるもの。なら、死に方を選ばせるのも悪くないでしょ」
「納得してるんやったら、ええけど」
メンバーが辿り着き、タカヤが身を引く。
それを目にしたジンも一歩下がった。
「これで分かったやろ。俺らは、敵同士。仲良うできひんのや」
「だから、私は敵だとは思わないから」
「の仲間は、そうは思わへん」
「私が勝手に思ってればいいだけだよ」
乾の叫び声が聞こえる。
苦笑したジンは、去っていった。
そして、も仲間に見つかる前に、他の場所へ移った。
-back stage-
管理:グッバイ、シンジ(泣)
岳羽:うわー。知ってて助けないって、すごいわ。
桐条:ゲーム沿いとはいえ、ここは助けるべきだろう。
アイ:それか、彼女も知らなかったという事にすべきであります。
管理:シンジの「これで、いいんだ」を大事にしたの!
山岸:彼の生き様をあえて見守った、ていうことかな?
管理:ヒロインの死へのトラウマも影響してるんだけどね。
2007.06.14
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