when to cry
-chapter 14-
誰もいない体育館。
は一人、遺影を見つめていた。
教壇に上がって、真正面に座り込む。
目の前の台に頭を休めると、少し湿っていた。
「アキが来てたのかな」
真次郎が殺され、は寮に帰らず一人、町を彷徨っていた。
とても人に会いたい気分では無かった。
過去を思い出してしまうのを懸命に忘れようとさせるので必死だったのだ。
捨てられた自分にたくさんの愛を注いでくれた、養父母。
彼等との旅行を楽しみにしていたは、事故という名の死神に親を奪われた。
その後、は死神に取り付かれたかのように死に出くわした。
親戚や友人だけではない。
赤の他人の死まで立ち会う事が多かった。
もう人が死ぬところなんて、見たくない。
悲しみが癒えぬが、人と深く関わろうとしなくなったのは、この時からだった。
一人暮らしを始め、三年前にペルソナを得てストレガやシンジと出会っても、彼女は相変わらずだった。
が少しでも人に触れようとし始めたのは、特別課外活動部に入ってからだ。
突然そう思えたキッカケは、彼女の中で本人も知らないうちに良い方向に進んでいるはずだった。
だが、が死に触れるには、まだ早すぎた。
やっと心を開こうとした時だった。
仲間が責めようとも、彼女はあの夜、過去の深い悲しみに囚われていて、何もできなかったのだ。
少し落ち着いた彼女が学校を訪れれば、回りは授業中。
制服に着替えてもいないので、最後に真次郎に会っておこうと考え、は直接体育館へ来ていた。
「これで、良かったんだよね。シンジ」
焦点を合わせていない目は、涙を浮かべる様子が無い。
「ごめんね、涙は使い切っちゃって流せないんだ」
ポツリ、ポツリと話しかける。
は明彦が体育館に戻ってきたことに気付かずにいた。
「昔から、人が死ぬところばっか見てきたから。感覚も麻痺しちゃった」
の背に声をかけようか迷った明彦は、その場に立ちつくす。
少しでも彼女が発する言葉を受け止めようとした。
「家族も友達も。大切な人は、皆、私の目の前で死んじゃった」
ゆっくりと頭を起こした彼女は、遺影を儚げな笑みで見つめた。
「シンジともっと生きたかったな・・・」
しかし、立ち上がる時には、笑顔を浮かべることができた。
大切な思い出として、心に残すことができるようになっていた。
「これを大事にして、生きようと思うよ」
ペンダントを握り締めて笑顔で言う。
そして、教壇を降りようと振り向けば、明彦が申し訳無さそうにして居た。
驚いたが、先に喋った。
「アキも別れを言いに来たの?」
「いや。それは、さっき済ませた。もう一度だけシンジの顔を見ようと戻ったんだ」
「そっか。私の話は聞いた?」
「悪い。聞くつもりは無かったんだが・・・」
「あ、いいの、いいの。気にしなくて結構」
明るく応じるに安心した明彦は、自然とペンダントに目がいった。
「それは、どうしたんだ?」
「これ?昨日、シンジに買ってもらっちゃった」
「そうか。大切にしなきゃいけないな」
「当たり前でしょ!」
笑顔で体育館の入り口まで走ると、は明彦に向かって叫んだ。
「アキも早く来る!今日は授業サボるんだから」
「お、お前!そんな事を堂々と大声で言うな!ここが、どこだか分かってるのか?!」
「気にしない、気にしない!」
「こっちが、気にしてるんだ!」
元気に振舞う彼女にほっとしながらも、明彦は少しだけ周りの目を気にしながら後を追った。
「ただいま」
「ちゃん!大変なの、天田君が、天田君が!」
心が落ち着き、仕事から帰ってきて寮の扉を開くに、風花が飛びついた。
慌ただしいメンバーに何事かと思ったは、美鶴と顔を見合す。
風花を落ち着かせると、美鶴が冷静に状況を伝えた。
「天田が、どこかへ行ってしまったみたいなんだ」
「それが大変なの?」
「大変なの!だって、昨日、荒垣先輩が天田君を庇って亡くなっちゃって・・・」
「だから、何?」
「ちゃんは、心配じゃないの!?現場で何が起こったかを知ってるのに!」
動揺している風花は、あの現場に居ながらも何もしていなかったを責めた。
他の仲間も、あとからが風花のペルソナに認知されていたことは伝えられていたので何も言わない。
だが、の冷たい目つきに風花は体を震わせる。
彼女が初めて見せる表情に、周りも口を出せずにいた。
「人を殺めるのがどういう事か。それを考える時間が欲しいんでしょ。
これは、乾の問題だよ。私達が騒ぎ立てる必要は無い」
は、驚愕している彼女を安心させるかのように優しく微笑んだ。
「二日ぐらいは、そっとしておいてあげようよ。一応、私も気にかけとくからさ」
影時間でなくとも、コロマルの嗅覚で見つけ出すこともできるでしょ。
それからでも遅くは無いよ。
そう言うと、彼女は部屋へ上がっていった。
「知らなかったぜ・・・あいつ、あんな目をするんだな」
「ホント。荒垣先輩達をあえて助けなかった可能性もありかも。なんか、近寄りがたくなっちゃったなぁ」
順平とゆかりの発言に明彦が注意しようとする前に、ガンッとけたたましい音が鳴った。
「リ、リーダー?」
普段は温厚な彼がコーヒーテーブルを蹴って、二人を睨む。
そして、彼も部屋へ戻っていった。
生きることを彼なりに決めた乾は、次の日には帰ってきた。
皆が暖かく彼を歓迎する中、冷静になっていたは違う事を考えていた。
「どうしたんだよ、。黙りこくっちゃってさ」
昨日の事も気にせず、順平が話しかけた。
腕を組んで唸る彼女に乾も心配する。
「僕がいないのが、そんなに寂しかった?」
「んなわけあるかよ。が、お子ちゃまを相手にするわけないだろ?」
「順平さんは黙っててください」
彼らの気兼ねない会話が聞こえたは、思わず吹きだす。
それを見た二人は、喜んだ。
「お、やっぱ笑顔が可愛いぜ、は」
「順平さんには、ストレガの子がいるでしょう。僕のを口説かないで下さい」
「いつのまに、お前のになったんだよ」
「じゅんぺー。それより、試験勉強してるの?」
「は、相変わらず現実を思い出させるようなこと言うなよな」
肩をすくめた順平を慰める者もでず、ラウンジはいつもの雰囲気に戻った。
その後、は今までの満月の夜に現れるシャドウのデータを風花から聞き出そうとした。
しかし、真次郎を救わなかったことをいまだに気にしているのか、無視される。
仕方なく、彼女は美鶴に頼むことにしてデータを見ることにした。
「どこかで、見たことあるんだよな」
魔術師、女教皇、女帝、皇帝。
大物とされる12体のシャドウのアルカナを並べていく。
その順番をは見覚えがあった。
それが何であったかが思い出せず、昼休みだというのに食事もしていなかった。
そこに、隣で騒いでいる女子の声を耳にする。
「もう占いに頼るしかないよ」
占い?
その言葉に反応したが、2年F組の教室へ走った。
順平とリーダーの前に姿を現し、少し息を切らせながら喋る。
「リーダー。魔術のノート、見せて」
「なんか分かんねぇところでも、あったのか?」
「まあ、そんなところ」
順平の相手をしている間に、彼はノートを取り出す。
それを受け取ると、はページを捲った。
以前、風花に聞いた事があった。
夏期講習中に魔術でタロット占いについて学んだと。
その時の話で、12体のシャドウのアルカナと同じ順番であったことをノートで確認する。
しかし、それでは始まりである”愚者”のシャドウは現れていない。
またも道が塞がってしまったは、唸った。
「愚者のシャドウなんて、聞いた事無いしなぁ」
「よく分かんねぇけど、愚者のペルソナなら一応いるじゃん」
愚者のペルソナ。
そういえば、と順平の発言で気になった事をリーダーに尋ねた。
「そういや、リーダーって、最初は何のペルソナを持ってたわけ?」
複数のペルソナを持つ彼の最初の姿をは知らない。
彼は、オルフェウスだと答えると、彼女は彼の肩を掴んできた。
「それ、本当?」
「ちょっと。彼から手を離してよ、」
売店から帰ってきたゆかりが彼女を睨みつける。
だが、は離さず、ゆかりにも質問をした。
「4月の満月の夜、何が起こったか教えてくれない?」
「別にいいけど・・・場所、変えよっか」
教室では、彼らの関係が気になるのか、聞き耳を立てようとする生徒が多い。
それに気づいたは、ゆかりの指示に従った。
異常な事態が、起きているのかもしれない。
自室に篭って、は考えに耽る。
ただの偶然かもしれない。
そう思っても、彼女は気になって仕方なかった。
授業で聞いた、愚者から始まるカードの並び。
十三番目は、『死神』――――『精神の死』だ。
『精神の死』と聞いて、真っ先に浮かぶのは『無気力症』。
人の精神が抜かれ、自分の意思を持てなくなる現象だ。
それと何かしら関連するのかもしれないと考えた。
もし、11月に倒すシャドウが『刑死者』だとしたら。
影時間は消えるどころか、問題が悪化するのではないのか。
そんな不安が消えなくて、は落ち着かなかった。
テストが終わったら、調べてみるか。
部屋に入ってきたアイギスから皆が眠りについたことを聞くと、も眠る準備をした。
-back stage-
管理:やっとこさ、ここまで話が進みました!
岳羽:それでも、大分話を省いてはいるわよ。
山岸:これじゃあ、感情移入できないって言われても、仕方ないよね。
管理:ぐぅ。地道に間章を更新していく、さ。
桐条:それでも補えないと思うが・・・まあ、やってみれば良い。
管理:なんか、皆さん冷たくなってませんか!?
2007.10.15
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