when to cry
-chapter 4-



7月14日。
は、特別課外活動部に参加することを決めた後から、モデルの仕事を前より多く引き受けていた。
本人曰く、小遣い稼ぎらしい。
しかし、そのバイトのおかげで彼女は作戦日だけでなく、ふいに行われる集まりにもあまり参加していなかった。
そして、今回も――――。

「試験休みに屋久島旅行?」
「そうなんスよ!もちろん、先輩も行きますよね?」
「出発の前の日は埋まってるけど、その後は真っ白よ」

昨夜、幾月が提案した旅行の話を順平は嬉しそうに彼女に伝える。
場所は、学校の屋上だった。

「よっしゃー!ああ、先輩の水着姿も見れるなんて、俺、生きてて良かったー!」
「水着?持ってないから、貰いに行くかな」

テスト期間中のせいで学校に人がいないせいか、順平は周りを気にせず叫んだ。
そんな彼などお構い無しに、は準備の為に必要な物を考え出す。
ふと不思議に思った順平は、彼女の言葉を繰り返した。

「貰いに行く?買うんじゃなくって?」
「そう、貰いに行くの」
「誰に?」
「デザイナーの友達に。私、服はいつもそこから貰ってるの」

服にお金をかけたことなんて、一度も無いのよ。
胸を張って告げたの言葉は、順平にとっては衝撃的だった。
何故なら、彼女が身につけるものは、学生では手がつけられないような値段のブランド品。
それが、友達だという理由だけで無料で貰えるのだ。
何故、自分は友達に恵まれなかったのかを彼は心底悔しがった。

「そういや、今テスト期間だよね。じゅんぺー、大丈夫?」
「ははは。先輩は学年二位ですもんね、心配なくて羨ましいなぁ」
「いやいや、私も古文には参ってるのよ?」

困ってるわりには、中間は全部95点以上じゃないですか。
真に参っている人にとっては、信じがたい言葉だった。









「お帰りなさいませ、お嬢様」

屋久島の別荘に辿り着き、皆は色々な事に対して驚きを隠せずにいた。

「メイドさんって、本当にいたんだ」

感心した順平の隣でも頷く。

「あれが本物か。研究して帰ろうかな」
「何の研究ですか、何の」

すかさず会話を聞いていたゆかりがつっこむ。
だが、はメイドに注意を向けていた。
その間に美鶴の父親が現れ、彼らを通り過ぎていく。
その彼が身にまとっていた匂いで、は顔を顰めた。

「美鶴、美鶴」

彼が去っていった後、は美鶴の腕をひっぱって、周りに聞かれないよう声を潜めた。

「たとえ、美鶴の父親が私たちを集めて話をしたいと言っても、私は参加しないからね」
「急にどうしたんだ?そんな事」
「私、煙草の臭いってダメなのよ。吸ってなくても、臭いが身についてたらダメ」
「相変わらず我が儘だな、は。構わないが、父上は煙草ではなく葉巻を吸っている」

変なところで細かい彼女に感謝すると、海へ行こうと言う順平の誘いを受けて、皆は水着に着替えることにした。









「て、あれ?先輩は、どうしたんすか?」

一通り三人の女子の水着姿を堪能すると、順平は不安がった。
気まぐれな彼女のことだ、まさか海には来ないと言ったのではないかと思ったのだ。
ゆかりの後ろに立っていた風花がそれに答えた。

先輩なら、日焼け止めを塗ってから来るって言ってたよ」
「ふーん。そんなの、俺っちがいくらでも塗ってあげるのに」
「アンタが言うと、どうやっても変態にしか聞こえないんだってば」

ゆかりの冷たい言葉に順平は悲しそうに項垂れる。
この会話は、日常茶飯事だと身にしみているメンバーは、何も言わない。

「背中に日焼け止めが濡れないよー」

情けない声を出して皆に近づいたのは、黒のビキニを着ただった。
その引き締まった身体と大胆な水着に、海にいる人の視線のほとんどが彼女に釘付けになる。

「せ、先輩、イイっす!すげーイイっすよ!」
「そう?私は、ワンピースじゃなくて残念だったんだけど。ありがと、じゅんぺー」

一番に反応した順平はすでに興奮している。
風花とゆかりはすごい、と声をもらすだけ。
美鶴は彼女の派手さにはついてゆけないと頭を抱え、リーダーは黙っての姿を見つめていた。
その視線に気付いたは、彼に訊ねる。

「似合うかな、リーダー?」

少し照れた顔で聞いてきた彼女に彼は無言で頷く。
その感想に胸をなでおろすと、は明彦が彼女を見ていない事に気付いた。
背を向けて深呼吸を整えている明彦に声をかければ、顔を真っ赤にした明彦が振り向いた。

「な、何だ?」
「いや、具合でも悪いのかなぁと思って」
「具合は悪くない。ただ・・・」
「ただ?」
「その、水着・・・少し派手じゃないか?」

前にも直視できなくて困ったことがあったな。
言いながら、明彦は七夕の夜を振り返っていた。
言われた側は、あまり自覚していないらしく、首を傾げるだけだった。

「似合わない?」
「に、似合わないとは言ってないだろ!」

顔に熱がありすぎて頭から湯気が出ていそうな明彦の答えに、は機嫌を良くした。
それを聞くと、再び他のメンバーに近寄る。

「リーダー!私の背中に日焼け止めを塗ってくれない?」

声のトーンが上がっているが、彼に声をかける。
その発言に、皆が驚いた。
そして、一斉にそれを止める声が上がる。

先輩!それなら、あたしが塗りますから!」
「それなら、俺がどんな所にも塗ってあげますって!」
「お、男の子に塗ってもらうのはどうかと思います」
「日焼け止めぐらい、私達で塗りあえばいいだろう」
「アイツに塗らせるなんて何を考えてるんだ、お前は!」

しかし、彼女はそんな声は聞かずに日焼け止めを彼に手渡す。
心配そうにメンバーの顔をうかがう彼だったが、はすでに背を向けていた。
皆だけでなく、その砂浜にいた人々全員の視線を痛いほどに感じる。
その中で、彼は耐えての背に日焼け止めを塗った。








その日の晩、美鶴の父親に呼ばれたメンバーは、一室に集まっていた。
だが、は美鶴に宣告したとおり、その場には居なかった。
会合の後、空気が重くて何があったのか不思議には思っていたが。
解散した後、懸命に場を盛り上げようとした順平から話を聞きだして、納得がいった。

「ゆかりの父親も研究に関わってたんだ」
「そうなんスよ。それで、ゆかりッチと桐条先輩の関係がぎこちなくなってて」
「せっかくの旅行なのに、楽しめそうにないねぇ」
先輩まで、そんな事言わないで下さいよ」

珍しく元気の無い順平を気遣って、は話しを少しずらす事にした。

「恋バナとかしたかったのになぁ」
「え!?先輩、好きな人いるんスか?!」

案の定、順平は食いついてくる。
その素直な反応を楽しんでいると、美鶴が現れた。

「二人とも、いつまで起きているつもりなんだ?」
「休息は取れるうちに取っておいた方が良い、て言いに来たの?」
「あ、桐条先輩。今、先輩に好きな人がいるかどうかを聞いてるところなんスよ」

帰ってきた答えからして、順平はまだ眠る気が無いようだ。
それを注意しようかと思ったが、美鶴は彼の発言が気になった。

の好きな人?」
「教えてくれないんスよ、先輩」
「いや、その前にいないから。好きな人なんて」
「へ?でも、先輩、真田サンと仲良くしてますよね?」

てっきり付き合ってるのかと勘違いするほどの仲の良さじゃないですか。
順平が続けた言葉に、は否定した。

「じゅんぺーやリーダーとも仲良くしてるじゃない」
「確かに、伊織とはよく二人きりで話してるようだし、彼とは日焼け止めを塗ってもらった仲だな」

彼女の言う事を美鶴が肯定した。
だが、順平は面白くなさそうだ。

「うーん。先輩と真田サンのツーショット、イケると思うんだけどなぁ」
「アキは、私に興味ないと思うよ」

断言するに、順平は何か根拠でもあるのかと頭を捻る。
恋愛に疎い美鶴は、黙っての言葉を待った。

「この間も、平気そうに私の濡れた髪を拭いてくれてたし、妹とでも思ってるのかも」
「いつそんな事があったんスか?」
「七夕にホテルで会った時」
「その行動は、昔の名残かもしれないな」

美鶴の意味深な発言に対して、二人は興味津々に問い詰める。
しかし、口を滑らせたと思った美鶴は、二人に眠りにつくよう命令した。










-back stage-
管理:大切な所では登場しないのが、うちのヒロイン。
伊織:それって、かなり迷惑な性格してるように思えるよなぁ。
岳羽:ていうか、そうでしょ。
管理:ヒロインに非は無いよ!私が原作の台詞メモしてないから書いてないのよ!
桐条:それはそれで、問題だな。
真田:話が飛び飛びになってる原因だぞ。
管理:アイギスとの出会いもスキップする予定なんだけど。
風花:・・・さすがに、大事なシーンは関わるようにした方が良いんじゃ・・・

2006.11.9

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