when to cry
-chapter 9-
についての報告書を見て、リーダーは思考を廻らせた。
彼女の情報は不確かな事が多く、数ページにわたる報告書に読むところは少なかった。
これで、何をどう判断すれば良いんだか。
持っていた報告書を机に置いて、彼はベッドに座ってから仰向けに寝転がった。
気になる点は、他にもあった。
以前、彼女が寝言で口にした『ジン』という名は、報告書に載っていない。
が働き始めてからの交流関係が、途絶えてしまってるのだ。
親戚の名にも入っていなかった、この人物は何なのか。
悩んでいると、部屋がノックされる。
アイギスが祭りに誘ってきたので、彼はそれ以上考えるのを止めた。
「俺は行かないぞ、夏祭りには」
「何で?楽しそうじゃない」
寮にいた人は、皆、何処かしらへ出かけて留守にしている。
そんな中、は明彦を祭りに誘っていた。
「行きたくないんだ。美鶴達と行けば良かっただろ」
「私は、アキと一緒に行きたいの。アキが行かないなら、意味が無いの」
他の人が聞いていれば、誤解を招きそうな言い方だ。
だが、ここにはそれをつっこむ人がいなかった。
明彦はグローブを磨き続ける。
「なら、お前も行かなければいい。祭り以外なら、付き合ってやるぞ」
「祭りに行く為に、浴衣を着たのにー!」
またしても友人からもらったという、個性的な浴衣を身につけたが喚いた。
せめて彼女の浴衣が普通であれば、明彦もここまで嫌とは言わなかったかもしれない。
「アキのバカ!」
「馬鹿で結構」
平然と答えてみせたが、の悲しそうな顔を見て明彦は心が痛んだ。
ここで行っては、負け。
それを分かっているのに、明彦は耐えられなくなった。
「はぁ。今回だけだぞ」
「本当に一緒に行ってくれる?」
「ああ、行くさ。だが、俺は浴衣なんて着ないからな」
「え、駄目?」
「・・・用意してあったのか、俺の分も」
明彦は冗談で言ったつもりだったが、は本気だったようだ。
先に言っておいて良かったと安心し、貴重品だけを持つと二人で寮を出かけた。
神社につくと、は並んでいる屋台に目を輝かせていた。
好き勝手に金を使わないよう気をつけておくか、と思いながらも明彦は穏やかな笑みで彼女を見守っている。
その事には気付かず、は楽しそうに彼に話しかけた。
「屋台が色々ある!何から食べていこうか?」
「そうだな。祭りといえば、焼きそばやわた飴だろ。」
「じゃあ、焼きそばを最初に食べよう!」
急かすに手を引っ張られて、明彦は苦笑する。
祭りが楽しいと感じるのは、何年ぶりだろうか。
ふと楽しかった過去を思い出し、彼は立ち止まった。
脳裏には、妹の姿が浮かぶ。
「アキ?もしかして、具合でも悪い?」
手を振りほどかれ、心配したが顔を覗き込む。
いらぬ心配をかけた事を謝ると、明彦は微笑んだ。
「焼きそば、食べるんだろ?早く行くか」
「大丈夫?」
「平気だ。そうだ、何なら焼きそばの早食いでも競い合うか?」
挑戦的な笑みを浮かべる彼は、普段の調子を取り戻していた。
は笑って、それに答える。
「じゃあ、負けた方がわた飴をご馳走ね」
自然と手を握り合っていた二人は、焼きそばの屋台を探すべく人混みにのまれた。
夏祭りも終えた、次の晩。
蒸し暑さに負けたは、アイスを買いに寮を出ていた。
その帰り道、帰宅中のリーダーと出くわす。
何気ない会話で一緒に寮へ向かっていると、リーダーが口を開いた。
「ジンって、誰?」
出てくるとは思わなかった名前に、が驚く。
彼はの反応を見る。
それに気づき、彼女は話を流そうとした。
「どうしたの、急に?リーダーまで、私から恋バナを聞こうとでもしてるわけ?」
寝言でその名前を聞いたから、気になった。
彼が素直に答えると、は胸をなでおろす。
特に情報をもって聞いてきたわけではなかったからだ。
「ジンは、私の友達だよ。街でブラブラしてた時に知り合ったの」
それ以上は、言いたくない。
口にせずとも、笑顔で友達だと言われてしまったリーダーは、黙るしかなかった。
「特製ラーメン、一つ」
夏休みも終わりに近づく頃。
は、はがくれに来ていた。
注文をすると、ニット帽を被った少年の隣に腰をかける。
彼は一瞬だけ彼女の姿を目に入れたが、自分のラーメンを食べ続けた。
「久しぶりに会うのに、挨拶もしてくれないの?」
「お前と話すことはねえよ」
それだけ言うと、彼はラーメンを啜った。
仕方なく、は静かにラーメンができるのを待つ。
彼女がラーメンを食べ始めると、今度は相手から話しかけてきた。
「お前、その格好でよく出歩けるな」
言われたは、自分の服を見てから質問を返す。
黄色のキャミソールに白の短パンとミュール。
そして、髪を一つに結んだ格好が変なのか、理解できなかった。
「暑いんだもん、仕方ないじゃない。私には、貴方の方が理解できない」
「・・・あいつ等も苦労するわけだ」
「何よ、私がいつタカヤ達に迷惑をかけたって言うの?」
「すぐ知らねえ男について行くって聞いたぞ」
そんな格好をしてりゃ、変な事考える野郎が集まるのも当たり前だ。
彼がラーメンを啜る。
は言い返せなくて、同じようにラーメンを啜った。
「それで?俺に会いにきたって事は、何か愚痴でも言いに来たんじゃねえのか?」
と長い時間を過ごしてきた彼は、スープを飲み終えるとの顔を見た。
彼女はそんな彼に感謝した。
いつも、彼は人の微妙な心境の変化に気づいてくれる。
は悲しげに微笑んだ。
「貴方は、死なないでね」
「突然、何を言い出すかと思えば」
「幸せに死んで欲しいから言ってるの」
「てことは、死んでもいいんじゃねえか」
軽く話を流せるような雰囲気ではなかった。
器に目線を向けているを彼は観察する。
彼は、最近、ストレガが彼に敵宣言をした事を思い出した。
彼らと共に行動しているも、もしも彼が桐条側につけば敵同士となる。
彼女はそれを恐れているのだろうか。
「どうせ、アレの副作用で長くもたねえさ」
「だったら、後悔しないように生きて」
真っ直ぐに見つめるの目から逸らしたくなった彼は、くだらねえ、と言い捨て席立った。
しかし、彼女の周りの男が変な目でを見ているのが気になって店から出れない。
「おい」
「・・・何?」
「早く出るぞ」
それは、今日一日、一緒に過ごせると解釈したは嬉しそうに頷いた。
自分の領収書を取って席を立つと、先にレジで待っていた彼の隣へ駆け寄った。
-back stage-
管理:夏休み第4弾、明彦とシンジ。これで一通りやった、よね?
岳羽:主人公くんとは書かないの?
管理:・・・彼は彼で忙しそうだし、デートは無理かなぁと。
桐条:書かないんだな。
管理:か、絡めたから良いじゃん!
アイ:ところで、彼女はどんな『浴衣』を着ていたでありますか?
管理:そりゃもう、強烈なデザインすぎて書き記せないほど。
山岸:そ、それは・・・すごそうですね。
2007.01.15
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