雨 時々 晴れ



雨ですか。


は、窓から止みそうに無い雨を恨んだ。


今日の予定は、彼女の愛する人との花見。
この日のために購入した新しい服を着て、愛情込めて作った弁当を手に出かけた。


だが。



 「まさか、一歩足を外に踏み出した瞬間、雨だなんて」



天気予報は、晴れ時々曇り。
降水確率は、午前0%、午後20%。


朝からの約束は、キャンセルになった。



 「私って、実は雨女?」


自嘲気味に笑ったは、相変わらず窓の外を見つめる。
今日のために買った服を着たまま。
今日食べようと用意した弁当をテーブルに置いたまま。


この不満は、いつしか自分の恋人へと向けられた。


 「大体、何よ?『今日は雨だから、中止にしようか』って電話で言ってきてさ。
  花見は無理でも、会うことぐらいは出来るじゃない」


一度喋り始めたら、もう止まらない。
誰もいない部屋の中で、彼女は延々と愚痴をこぼした。



 「ほんと、雨竜ってば、最低最悪な乙女心も分からない馬鹿男なんだから」

 「どうやら、僕は必要ないみたいだな」


開かれたドアの所に、罵った人物が腕を後ろに回して立っていて、は吃驚した。
彼女は、家族に彼が来ても家に入れないように伝えていたのだ。


 「誰が、裏切ったの」

 「家族全員が、君の行動に呆れていたよ」


素直になれない可愛げの無い子だってね。
付け加えられた彼の言葉に、彼女は傍にあったクッションを投げつけた。
顔面にぶつけられた雨竜は、冷静に右腕だけ出して眼鏡をかけなおした。


 「どうして、来たの」

 「家の中で花見をしようと思ってね」


隠していた左腕を見せると、彼は綺麗に咲いた花がついた、桜の枝を手にしていた。
自分の事を想っていてくれた雨竜が愛おしくて、は嬉しがった。
しかし、先ほどまで罵っていた事を思い出すと、彼女は素直に喜べなかった。


 「わざわざ木から切り離したの?酷いね」

 「君の目は節穴かい?本物じゃないに決まってるじゃないか」

 「え?」


枝を手渡され、花びらに手を触れてみた。
造花でしか感じられない肌触りに驚く。


 「本物みたい」

 「僕が作ったんだ、当たり前だろう」


床に座り込むと、雨竜はに向かって微笑んだ。


 「さて、花見を楽しむとするか」


今日、花見ができないと悟った後、彼が懸命にこの桜を作る姿が目に浮かぶ。
そう思ったは、言葉にはしなかったが、雨竜に感謝した。


 「あたし、今日は頑張ってお弁当を作ったんだよ」

 「え、の手料理?」

 「他に誰がいるって言うの」

 「そ、そうか・・・それは、楽しみだな」


紅潮した頬を隠すために、雨竜は眼鏡に手をかける。
彼もまた、が自分と同じように想っていてくれた事を喜んだ。


 「ほら、あーん」

 「あ、あーん?」



ぎこちない二人だけの花見は、まだ始まったばかり・・・









-back stage-

管理:3万打お礼フリー小説・雨竜篇。
雨竜:僕の腕の良さが表れる、素晴らしい作品だな。
管理:・・・そ、そう?
雨竜:なんで、そこで身を引く?
管理:貴方から、そんな言葉がでるとは思わなくて。
雨竜:失礼な。

2006.04.19

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