季節を伝える風
暖かい春の風を感じながら歩いていた二人は、その途中、ある物が気になった。
「もう春だね」
左側にある店を見て、は呟いた。
「もう春だな」
右側にある店を見て、一角も答える。
互いに顔を背けていたかと思えば、同時に振り返った。
「じゃんけんぽん!」
はパー。一角はグー。
勝者は、。
「四つ、お願いね」
嬉しそうに手を振って見送る彼女を背に、一角は和菓子屋へ入っていった。
「ほらよ」
購入したものを放り投げた一角に、は頬を膨らませた。
「中身の心配をしてよね」
「んなこと心配する必要が無ぇだろ」
お前が投げられたものを掴めないはずがないと言われ、は渋々引き下がった。
「一角も買うんでしょ、あれ」
「ああ」
「待っててあげるから、早く行ってきて」
「言われなくても、分かってるっての」
一角は頭を掻きながら、今度は向かいの店に入る。
彼が店を出ると、は一角へ近づいていった。
瓶を一本、手にして現れたことが、気になったのだ。
「一升買ってきたの?」
「直接、口から飲めば良いだろ」
「ダメ。おちょこを使いなさい」
は、さっきまで一角がいた店に入り、猪口を一つ購入した。
「問題は、どこで休むかだな」
「やっぱり、桜の木がある所が良いよね」
「だったら、あそこへ行くぞ」
迷い無く、二人は人気のない、桜が一本だけ立っている草原へと向かった。
誰もいない事をいい事に、一角は、木の下で寝転がる。
その横には足を伸ばした態勢で座り込んだ。
そして、二人は買ってきたものを早速口にした。
「春といえば、桜餅だよね」
「春といえば、この酒だよな」
そう言うと、は桜餅を、一角は酒の入った猪口を交換した。
一口で桜餅を食べた一角を見て、大食いめとが罵る。
一口で酒を飲み干したを見て、女なんだからもっと上品に飲めと一角が罵る。
しばらく間をあけて、同時に言葉を発した。
「一角には、関係ないでしょ」
「には、関係ねぇだろ」
また静かになった後には、草原いっぱいに広がる笑い声。
その楽しそうな二人が可笑しく思えたのだろうか。
風で揺れる桜の花の音もまた、笑っているかのように聞こえた。
「桜餅、もう一つ食べる?」
「酒は、もう良いのか?」
誰もいない、草原の中にある、桜の木の下。
幸せな時間を与えるかのように、桜の花は風に揺られる。
その風を感じながら、二人は春ののどかな雰囲気に酔い痴れた。
-back stage-
管理:3万打記念フリー夢小説、一角へん。
一角:随分とまた、ほのぼのとしてるな。
管理:ヒロインには、とことん虐めてもらおうと思ったはずだったのにね。
一角:・・・は?
管理:一角は、花を愛でるイメージ無かったんで、こんな過ごし方にしてみました。
一角:ちょっと待て。さっき、なんて言いやがった?
管理:短いながらも、読んで頂きありがとうございます!
2006.04.10
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