「三十一日は学校が終わったら、仮装して一護の家に集合だ!」
勝手に盛り上がった浅野につっこんだのは、一護だけだった。
ハロウィンの夜
=前編=
「やっぱさ、帰らない?」
仮に誘われたといわれても、行く必要は無い。
とくに浅野の誘いであれば。
だけど、私の期待にたつきは背いた。
「まぁ、たまにはこういうのも、いいじゃん。」
「そうだよ、ちゃん。一緒に楽しもう?」
ニッコリと微笑みかけてくれる織姫に私は言い返すことができなかった。
そりゃ美人でスタイルの良い二人は構わないかもしれないけど・・・
私がこの格好するのも、かなり勇気がいるぞ?
一護の家に入る事を心に決めても私は二人の後ろで隠れるように歩いた。
「いらっしゃ〜い。」
満面の笑みで迎えるのは家主と浅野。
・・・家主?
一番親しみのあるたつきがスーパーマンの格好をした一護の父親に話しかけた。
「おじさんも参加してるの?」
「当たり前じゃねーか!こういうのは家族皆でやるもんだろ!」
そう言われて私たちが台所を覗けば、一護と共に黒崎の妹二人も仮装しているのを発見した。
恐るべし、黒崎家。
「しっかし、可愛いな〜。井上さん!天使だなんてピッタリだよ。」
「ケイゴ、女の子は平等に褒めなきゃ。有沢さんもキャットウーマンがはまってるね。」
浅野も水色も分かりやすい性格してるよな。
水色の場合、褒めてるかも微妙だけど。
未だに二人の後ろに隠れて過ごそうとすれば、後ろから大きな影が私たちを覆い被った。
「お、チャドも来たか。」
「ム。」
台所から料理を運んできた一護にチャドは軽く挨拶をすれば、隠れている私を見つめた。
や、やっぱり私の仮装は似合わないのか?
というより、目を合わせてしまっては挨拶をしなければならない。
「や、やぁチャド。」
「・・・似合うな、そういうのも。」
遠慮がちに声をかければ、嬉しい言葉が返ってきた。
「チャドも似合うぞ、その海賊姿。」
照れながらも答えていたら、さすがに私の存在に気づいた浅野と水色が顔を合わせに来た。
「さん、いたなら出てくれば良かったのに。」
水色は性格が現れているのか、ただ面倒なのか。耳と尻尾をそろえただけの狼男。
浅野は普段なれない自分になりたいのか、王様の仮装をしていた。
「へー、馬子にも衣装ってこういう事言うんだな。」
その王様の頭にかかと落しを食らわせた。
どうせ私には似合いませんよ!
「、あんた今スカートなんだから足は使わない方が良いよ。」
すでに料理を手にしているたつきに注意され、改めて自分の格好を見つめた。
衣装がないと言った私に急遽用意してくれた妖精の服。
制服以外でスカートを穿かない私としては、なかなか落ち着かない。
何故なら、普段穿く時より遥かに丈が短いのだ。
何やら複数の視線を感じたので顔を上げれば、倒れた浅野の前に一護とチャドが呆然と立っていた。
「なに?」
怪訝そうに聞いてみたが、二人は顔を赤くして料理に手を伸ばし始める。
何だったのだろうかと思えば、何時の間にか隣に来ていた水色が教えてくれた。
「二人とも、さんのパンツを見ちゃって興奮してるだけだから。」
「してねぇ!」
うーん。動揺するまでとは・・・
私の下着で興奮してしまうとは、悲しい人達だ。
「でも、それ以前にさんが可愛いから見とれてたんだよ。」
用意された料理を口にする時に、ありえない話はしないで欲しい。
彼の言葉を真剣に聞き入れず、感謝の言葉だけを述べておいた。
「ふーん。お前ら自分で衣装用意したのか。」
一護も面倒だったのか、魔法使いのマントを被るだけの仮装。
それに比べたら、女子はなんてはりきった服なんだろう。
「これぐらい、朝飯前に決まってるだろ。」
誇らしげに胸をはるたつきに一護は関心を持っていないようだ。
私に振り返り、問われた。
「じゃあ、その・・・の服も自分で作ったのか?」
「ううん。そんな器用な事できるわけないでしょ。」
「通販ででも買ったのか?」
「そんな面倒な事するわけないでしょ。」
じゃあ何処で誰が、と誰もが疑問を持っていると、また一人パーティに顔を出してきた。
その顔を見て、私はお箸を持ったまま彼を指した。
「石田君に作ってもらった。」
「はぁ!?」
小説にでてくる名探偵の格好をした石田君を復活した浅野は嫌がった。
「俺、こいつ呼んでないのに!」
「作ってもらっておいて、呼ばなかったら失礼だと思って。」
「どうせなら、女子を誘え!」
本人の前でホント、失礼だよな。
まぁ、石田君は気にしてないのか、もう食べ始めてるし。
別に構わないか。
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