『ねぇ。良かったら、うちに来ない?』


気のせいか、妖しい瞳のどこかに淋しさが見えた。




2.餌




 「おはよう、恋次。」


市丸隊長もも不気味なぐらいに笑顔。
そんなに見せつけたいのか、俺に。
昨晩、2人の間で何が起こったのかを知っている俺に。


 「恋次。ご主人様に挨拶は?」


あどけない顔は、どんな気持ちを隠しているのか。
俺には関係ないっていえば、関係ない。


 「おはようございます、様。」

 「よろしい。」


腕を腰において威張る態度には全く威厳を感じない。
むしろ可愛いと思ってしまった。


 「なぁ、様。今朝のご飯は何なん?」

 「ご飯・・・あぁ、餌ね。何が良いかな。」

 「おい、まさかドッグフードとか言うなよ。」

 「そうね。それも良いアイディアかも。さすが、ポチね。」


前言撤回。
こんな捻くれた奴、可愛いはずがない。
きっと、さっきは惑わされたんだ。



その日の朝はホットケーキを作ってもらった。
甘いのが大好きな俺としては、なかなか美味しかったな。
別に、が料理上手だなんて思わねぇけど。


 「私、2人の好物知らないんだよね。」


ふいに告げられた言葉に耳を傾ける。
ていうか、昨日会ったばかりで知っていたら、怖いだろ。


 「何が好きなの、2人は?」

 「そりゃ、様に決まって・・・」

 「恋次。何が好き?」


お見事。市丸隊長を完全に無視するを俺は逞しく思う。


 「甘いもんなら、何でも好きだな。」

 「女の子じゃあるまいし、却下。」


素直に自分の意見を言ったら何なんだ、こいつは。
結局、聞いた意味ねぇし。


 「聞いたのは、そっちだろ!」

 「私は甘い物が大嫌いなの!匂い嗅ぐだけで、気分が悪くなる!」

 「和菓子だったら、匂わねぇだろ!」

 「見るだけでも嫌なの!」


突然始まった怒鳴りあいを市丸隊長は止めようともせず、優雅に紅茶を飲んでいる。
イラついた俺は、市丸隊長をにらみつけた。


 「何、のんびり飲んでるんですか!」

 「なんや、ポチ。勝ち目がないからって、僕に切り替えないでくれへん?」

 「あ、私勝ったの?やったね。恋次に勝っても嬉しくないけど。」


本当に何なんだ、こいつらは。
俺を苛めて楽しいのか、あ?


 「まぁ、いいや。とりあえず、出かけるから2人とも留守番してて。」

 「どっか出かけんのか?」

 「ポチはリードでつなげておいた方がいいかな。」

 「どこへ行くんですか。」

 「すぐ近くのコンビニ。」


場所を告げたと思えば、はすぐさま出かけていってしまった。



あいつが家を出て行ってしばらくすると、市丸隊長が話しかけてきた。


 「ホンマ凝りへんな、阿散井君。」

 「市丸隊長こそ、よく黙っていられますね。」


辛いことなんかあらへんもん、と言うと床へ寝転がる。


 「そんな事より、どうするんです?何時までも、ここに居られませんよ。」

 「せやなぁ・・・どないしよ。」


その態度、絶対に何も考えてないだろ。


 「そもそも、こんな事になったのは市丸隊長のせいなんですよ。」

 「ええやん。って可愛いし、何より・・・」


急に立ち上がったかと思えば、市丸隊長は俺の耳元で囁いた。


 「抱き心地、よかったで?」


顔がいっきに赤くなるのを自分でも感じる。
なんで、この人はわざわざ俺にそれを伝えなきゃならないんだ。


 「様、おかえり〜。」


何も無かったかのような顔が出来るあなたが羨ましいです。
今の俺は、を見たら確実に体温が上昇するだろう。


 「ただいま、ギン。どうしたの、ポチ?」

 「なんや気分悪いんやて。」


誰のせいですか、誰の!


 「具合悪いのか。これ食べたら、元気だせる?」


は未だに背を向けてる俺の前に現れ、手に何かを置いた。
・・・お饅頭?


 「コンビニだから、そんな物しか買えなかったけど。」


はにかみながらも笑うに、また心拍数が上がる。
あー、やべぇ。会って間もないのに。
どうやら、俺はこいつに一目惚れのようだ。


 「ありがとよ。」


心の底から感謝している気持ちを笑って示す。


 「何時になったら習うのよ、ポチ。」

 「この際、ポチでもなんでも良いんだよ。」

 「ほなら、お言葉に甘えて。ポチポチポチポチポチ。」

 「お前は良いとは言ってねぇぞ、ギン!」


隊長に対して呼び捨てという態度に驚いたのか、市丸隊長は一瞬固まった。
でもの前でなんて呼べばいいか分からなかった俺としては、すっきりした。


 「ポチポチポチポチポチポチ。」

 「だから、止めろ!」

 「2人とも、煩い。」

 「だけどっ!」

 「恋次。その餌、取り上げちゃうよ?」


そりゃ、勘弁。
こうしてまたとの一日が過ぎようとした。




なんだか、上手い具合に手なずけられてる気がするのは・・・気のせいか?











-back stage-

ギン:阿散井君やと、純情やねぇ。
管理:ホンマやね。おかげで、路線からずれてもうた。
恋次:お前ら、俺に罪を擦り付けるつもりか。
管理:そうやけど、何。
恋次:!!大体、管理人は100%関西人じゃねぇだろ!関西弁やめろ!
管理:失敬な。心は100%吉本っ子やで!
ギン:・・・それ、関西と愛知ぐらいしか分からん話やで。

2005.09.15

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