自分の心の内を伝えるのは、なかなか難しい。
でも、言ってみたら体が軽くなった。
7.鳴いちゃだめ
ピザの宅配を受け取り、ギンの目の前で恋次と二人、美味しそうに食べる。
恨めしそうに見る彼には、話をしてもらう事にした。
「で、僕達は『死神』いうて・・・」
適当に相槌を打ちながら、また一切れ口にする。
慌てることなく、のんびり食べることで、さらにギンを苛立たせる。
最後の一切れを手にする頃には、ギンの話も終わっていた。
彼らは別世界から、悪い霊を退治しにきた『死神』らしい。
そして、今回もその霊を退治するためにこの世界へやってきた。
私は、霊感なんて持ってないから、どうやってギンと恋次の姿が見えるのか不思議に思った。
だけど、その前に、少しギンで遊ぶことにする。
「最後の一切れ、欲しい?」
「欲しいです、様。」
やけに素直な彼の答えに、一瞬身を引いてしまう。
何か企んでそうだ、と恋次に意見を求めるかのように見つめれば、同意した感じの目つきで返された。
「あげない。」
「ひどいわぁ、聞いておいて。」
あげないとは言ったものの、私はもう満腹。
「恋次。あーん。」
「あ?」
ぽかーんと口を開けたところで、ピザを食べさせる。
微笑んで、恋人同士がしそうな質問をした。
「美味しい?」
「あ、ああ。」
頬を赤く染めて、そっぽを向く恋次が可愛いらしい。
思わず笑うと、笑うな、と恋次が怒鳴ってきた。
「さて。話を戻すとして、どうして私には貴方達の姿が見えるの?」
今ですら、外に出ても霊を見る事は無い。
霊感が無いと信じている私は、疑問をぶつけてみた。
「それが、僕らがここに来た理由でもあるんよ。」
ギンは、微笑んだまま答える。
話が見えないので、そのまま喋らせることにした。
「せやけど、その前に。数日前に会った虚について聞いてもええ?」
「どうぞ。」
「は、あの虚を僕達と会う前から知ってたんやろ?」
「そうよ。」
「どうやって会ったん?」
「秘密。」
私は、全てを伝えると約束はしてないもんね。
茶化してみれば、ギンは目を見開いた。
「冗談ぬきで頼むわ。」
初めて彼が怒る姿を見た。
だけど、どうしても教えなければならないのか、なんて反抗的になる自分がいる。
そんな事を聞くなんて、プライベートの侵害じゃないの?
「あのペットとは、貴方達に会う一週間前に出会ったの。」
「それで?」
「私のペットになってもらった。終わり。」
その話はしたくないと言うかわりに、ソーダを飲む。
肩をすくめたギンは、私の隣に座りなおした。
「それやったら、質問を変えるわ。なんで、あんな怪物をペットにしたん?」
貴方達を拾った理由と同じよ。
思わず口に出してしまいそうになるのを止めた。
これを言ってしまったら、私は二人を苦しめるだけだと分かっていたから。
夜に相手をしてもらっている時点で、迷惑をかけてるしね。
「言えないよ。」
ギンが、また肩をすくめる。
恋次は、何でか辛そうに私を見つめていた。
「ええ加減、吐き出せばええのに。」
「そんな器用な人間じゃないの、私は。」
「だろうな。だけど、お前はいつまでそうしてるつもりなんだ?」
真っ直ぐ私の目を見る恋次から、体が勝手に目を外す。
でも、恋次は私の肩を掴んで逃がさなかった。
「自分の気持ちを正直に吐き出すのも、大切だと思うぞ。」
「放っておいてよ。貴方達に迷惑はかけてない。」
顔を背けて答える。
すると、恋次は私の顎を掴んで舌を口に入れてきた。
ギンの前なのにと思って懸命に離れようとするけど、頭と腰を抑えられて身動きがとれない。
唾液が口から溢れ出るのも気にせず、恋次は口づけを続けた。
ギンが、彼の頭を叩くことで制するまで。
「ずるいわ、阿散井君だけイイ思いして。」
「隊長・・・柄は勘弁して下さい、痛いです。」
「痛くないと、ポチは学ばんやろ?」
目が笑ってないよ、ギン。
助かったのか微妙な気分にさせられる笑みを見せられ、私は一旦その場を離れた。
二人から離れて、キッチンで深呼吸をする。
息を吸って。吐いて。
泣き出しそうになっていた気持ちを落ち着かせる。
悟られてしまったのだろう。
私が彼らを拾った理由を。
だからこそ、きちんと口にしてもらいたかったのかもしれない。
だけど、長い間自分の気持ちを吐き出すことをしなかった私には、それは難しい。
言ってしまえば、その気持ちに押しつぶされそうになりそうで怖いのだ。
寂しい。
寂しい。
独りは嫌だ。
それを口にしてしまえたら、どれだけ楽なんだろう。
落ち着いたはずの心が、乱れる。
頬を伝う感覚を指で確かめてしまったら、もう終わりの気がしてならない。
まだ、泣いたらダメだ。
自分にそう言い聞かせて、二人が待っている部屋に戻った。
-back stage-
管理:また様と虚の関係を先延ばしにしてみちゃいました。
ギン:粘るなぁ、なかなか。
恋次:先延ばしし過ぎだろ、これは。
管理:でも気付けば、もう3回分しか連載が残ってない!
ギン:そのわりには、随分と時間かかった連載やね。
管理:・・・え?
恋次:どれどれ・・・うわ、もう1年経つぞ?
管理:!?や、やば、電光石火で載せていくよ!
ギン:何や急に慌ただしくなったわ。
2006.08.06
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