もしかして、という不安がよぎって仕方ない。
それを信じたくないのは、俺がアイツを本気で好きになったからかもしれない。
8.お預け
自分の気持ちを伝えずに逃げていった。
俺は、どうにかしてアイツの悩みを聞きだせないか考えた。
「無駄に頭使わんとき、阿散井くん。」
「市丸隊長?」
「言う時は、言うやろ。それに、もっと考えなアカン問題もあるんやで。」
心なしか暗い顔をする隊長のおかげで、現実に戻る。
そうだ、霊感の無いがどうして虚や俺達を見れたのか。
今、考えられるのはアレしかない。
「まさか、本当にそうなんですかね」
「分からんけど、きっと近いうちにハッキリするわ」
後悔しないようにしときや。
それだけ言い残して、隊長は去って行った。
「私、もう眠るねー・・・て、ギンは?」
入れ替わりで来たは、辺りを見渡す。
こっちはこっちで、さっきのゴタゴタは無かったかのように振舞ってる。
「知らねぇよ。どっか行った。でもって、お前は昼から寝る気か?」
「ポチって口の聞き方だけは、いつまで経っても直らないよね。」
「ごめんなさい。お願いしますから、ご飯抜きの刑は止めて下さい。」
の不敵な笑みに鳥肌が立つ。
さっき、乱暴な事しちまったから、余計に怖かった。
ご飯は冷凍庫にある物を解凍して食べればいいと告げると、も部屋へ戻って行った。
は本気で市丸隊長に『二十四時間食べさせない』気でいた。
翌朝、食卓には二人分の飯が用意してあるのを見て、確信する。
「様〜。僕のご飯は?」
「あるわけないでしょ。見て分からない?」
「死神でも、お腹空くんやけど・・・」
「知ったこっちゃないわ」
昨日、無理にの事情を聞こうとした事が裏目に出たな。
やけに態度が冷たい。
他人事だと思って、自分の席に腰を下ろす。
だが、器の中身を見て絶句した。
「おい、。」
「ポチも起きてたの?おはよう。」
「様、この朝御飯は一体何なんでしょうか。」
「何なんでしょうね?」
はニコリと微笑むが、俺は笑えないでいた。
目の前には、確かに俺の飯がある。
あるが、器の中身は変だった。
茶碗には、生米。
味噌汁は、水。
おかずは、焼き鮭が生で出ている。
唯一普通に食べられるのは、添えつけられた海藻海苔一枚とたくあん一切れだ。
「ああ、思い出した。恋次ってば、昨日ちょっと暴走してたでしょ?その罰だよ。」
惚けた顔しやがって。絶対に確信犯だ。
こんなヤツ相手に、どうやって『後悔のないように』過ごせっていうんだよ。
「阿散井くん、食べへんのやったらもらうで。」
「たくあんと海苔は、絶対にやらねぇ!生米でも食ってろ!」
俺の朝食を奪おうとする市丸隊長と争っている間には食べ終わる。
食器を片付けると、そのまま部屋に戻ろうとするのを呼び止めた。
「なに、恋次?」
「い、いや。何するのか気になっただけだ。」
自分でも何で声をかけたのか分からなかった。
『後悔しないようにしときや。』
市丸隊長に言われた言葉が、頭の中に響く。
俺は、視界からの姿が消えてしまうことを恐れているようだった。
「昼は、いつも部屋で本を読んでるじゃない。それがどうしたの?」
首を傾げるをそれ以上引き止める事ができない。
どうしたものかと、懸命に頭を働かせていれば隊長が口を割った。
「なぁ、水くらい飲むのは許してくれへん?」
「えぇ?」
「『食べるな』とは言ったけど、『飲むな』とは言っとらんやろ?」
「まぁ・・・死なれちゃ困るから、それくらいは許してあげる。」
「おおきに。ほな、ポチ。水を頼むわ。」
またしても、隊長に困ったところを救われた。
ん?今、何か頼まれたのか?
「市丸隊長・・・今、何て言いました?」
「せやから、水!早よ持ってきてや」
「そんなの自分でやって下さいよ!」
人使いが荒すぎる。
早くこの任務が終わらねぇかな。
そしたら、この人の面倒はまた吉良が見るのに。
ああ、だけど。
気付かないうちに部屋に戻っていったを思い浮かべて、考え直す。
終わってしまったら、もうアイツには会えないんだよな。
「市丸隊長。」
「ん?」
どうやったら、隊長みたいにに接する事ができるんだ。
そんな風に知らん顔で喋ることなんて、俺にはできない。
「俺、耐えれそうにないです。」
霊力も無い人間が、虚や俺達の姿が見えることは稀にある。
その条件は、あっさりとしたものだ。
『死』が近い人間。
「言っても、は信じそうにないやろな。」
「信じても、そのまま受け入れそうですけどね。」
「せやな、『あ、そう』とか言って終わりそうやな。」
深刻な問題のはずなのに、相手が相手だけに真面目になりにくい。
の性格が、もうちょっと素直だったら良かったのかもしれねぇ。
「ちょっと、の所に行ってきます。」
別にこの事を話そうと思ったわけじゃない。
ただ、純粋にの顔を見たくて、声を聴きたくて部屋を訪れた。
なのに、俺を迎えたのはの書いた文字だった。
『ペット入室禁止。邪魔するな』
・・・俺達、他に何かしたか?
-back stage-
管理:恋次だと、どうしてもギャグになってしまうPart3。
恋次:しつけぇな。それは、俺のせいじゃねぇだろ。
ギン:阿散井くんのせいやって。
恋次:だから、違うって言って・・・!
管理:はい、黙ってポチ。ところで、様があまり登場してないんだけど?
ギン:それは、自分のせいやろ。
管理:チッ。恋次のせいにできないかなぁ。
恋次:おい!?
2006.09.05
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