「なんだか、具合が悪い気がする。」


ぼそりと誰に言うのでもなく言葉にすると、私は保健室へ行った。



保健室には、山田先生がいた。
またサボりに来たんですか、と厭きれられた。
だけど、意識がなんだかはっきりしなくて、ベッドに寝転がったら、さすがに心配された。


 「熱あるじゃないですか、さん!」

 「そうなの?じゃあ、帰ろうかな。」


帰ったらすぐに寝てください、と先生から早退の許可を得ると、私は真っ直ぐ家に向かった。
そして、家にいたお母さんに挨拶もせず、ベッドに倒れこむ。
その瞬間、私は意識が飛んだ。




ふと、何か暖かいものを頭に感じた。
お母さんが、私の頭を撫でているのかもしれない。
優しい仕草が、心地良い。
目を開けるほどの元気もなく、手に何かを掴むと、私はまた深い眠りへとついた。








気がつけば、辺りは静まり返っていた。
もう夜なのか。
そっと重い瞼をあげると、室内は暗闇に包まれていた。


どれだけ眠っていたのか思っていると、部屋の中で何かが動いた。
驚いて、動いたものへと視線を動かせば、それは喋った。


 「おや、さん。お目覚めですか?」


聞きなれたその声は、この部屋では聞けないはずだ。
夢でも見てるのかと思った私は、不安げに彼の名を呼んでみた。


 「浦原・・・先生?」

 「そうっスよ。お加減は、どうです?」

 「頭は、すっきりしてると思います。」

 「それは、良かった。」


ニッコリと微笑む先生は、本物みたい。
都合の良い夢を見るものだと、失笑した。


 「さん?」

 「何でもないです。ただ、先生が、ここにいるのが可笑しくて。」

 「さんは・・・夢だと思うんですか?」

 「だって、夢でしょう?」


笑っていると、先生の大きな手が私の頭を撫で始めた。
その感触は、寝ている時に感じた暖かさと同じ。


 「本当に、先生がここにいるの?」

 「ええ。さんの事が心配で、来ちゃいました。」


まさか、と未だに信じられなかった時、お母さんが部屋に入ってきた。
だけど、お母さんの姿は先生の体によって遮られてしまった。


 「浦原先生、本当にすみません、うちの子が。」

 「いいえ。人間、誰でも病気の時は、弱くなるものですから。」

 「でも、本当に良いんですか?先生を置いて、出かけるだなんて。」

 「構いませんよ。今行かなければならないんでしょう?ちゃんと留守番をしておきます。」

 「そうですか?では、お言葉に甘えて。」

 「どうぞ、いってらっしゃい。」


扉が閉まると、先生は肩をすくめた。


 「これで、もう少し貴女の傍にいられますね。」

 「い、良いですよ。少ししたらお母さんも帰ってくるだろうし、私は一人で大丈夫です。」

 「そうですか?では、この手を離してもらっても構いません?」


ここ、と指差す所を目で追えば、あたしの手が先生の服を掴んでいた。
さっき撫でられてた時に掴んでしまったんだ。

手を離そうかと思ったけど、頑張って伸ばした手をまだ離したくなくて。
私は、謝罪を述べた。


 「謝らなくても良いっスよ。」

 「そうじゃなくて、その・・・」

 「分かってますから。」


まだ先生を帰したくない気持ちでいっぱいな私の頭を撫でられる。
意識が朦朧として、再び眠れそうだ。
だけど、ここで眠ってしまえば、もう先生に会えない気がして一生懸命こらえた。


 「大丈夫ですって。アタシはどこにも行きませんから。」


先生の服を掴んでいたはずの手が、彼の手を握らせる。
熱を持った私には、冷たくて気持ちよかった。





そのまま夢も見ないほどに熟睡した後、手を握れば握り返されて、私は元気良く朝の挨拶をした。









-back stage-

管理:喜助先生、泊まっちゃったよ?
喜助:アタシが、さんに何かするはずないでしょう。
管理:(どうだか)
喜助:まぁ、キスぐらいは、してたかもしれませんねぇ。
管理:してたんじゃん!
喜助:いやだなぁ、冗談ですよ。冗談♪

2006.4.22

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