始業ベルが鳴ってから、10分遅れて更木剣八先生は、教室に来た。
今日は、早いほうだった。
「おぅ。お前ら、元気か。」
ニヤリと笑う先生に、誰も返事をしない。
彼を恐れていて、返事ができないのだ。
この先生は、普段から授業に遅れてやってくるだけではない。
地理を教えに来てるはずなのに、自分でも覚えてないらしい。
私たちに、教科書を読ませるだけの授業となっていた。
そんな適当な授業だと、自然と生徒はだらしなくなってくる。
彼が注意しても、静まらないクラスに先生が大声をあげたことがあった。
その時の、この世の者ではないような形相は、今も忘れられない。
だから、私達は、彼の言うことを黙って聞くようになった。
でも、私は、皆みたいに先生を怖いだなんて、思ったことはない。
クラスメートが怒られている時も、驚いただけで終わっていた。
「なんだぁ?やけに今日は、静かだな。。」
「は、はい!」
「今日は、何かあったか?」
突然の質問に、しばらく黙り込む。
そして、皆が何かを待っていた事を思い出した。
「先生、今日はテストをするって言ってました。」
「そうだったか?・・・じゃあ、中止な。」
本人が忘れていたみたいだ。
空気が少し和むと、先生は普段と違ったこともせず、誰かに教科書を読ませた。
「てめぇら、全員グラウンド10週だ。」
急に先生の命令が下る。
何事かと周りは騒がしくなった。
「授業が終わるまでに帰ってきたら、テスト免除してやるよ。」
その言葉で喜んだクラスは、一斉に立ち上がり、教室を出て行った―私を残して。
皆が通ったドアを見ていると、先生が声をかけてきた。
「は、行かないのか?」
「行って走っても、先生が覚えてなきゃ意味がない気がしまして。」
「言うじゃねぇか。」
くつくつと笑う姿を見て、私の言った事が正しい事を確信した。
本当に、こんな人が先生でいて良いのだろうか?
「安心しろ。は、絶対に最高の成績をやるつもりだ。」
「職権乱用はどうかと思いますけど、ありがとうございます。」
もらえるものは、もらっておけ。
勉強しなくても良い成績がもらえるなら、黙って先生の言う事を聞こう。
「ところでよ、。」
「なんですか?」
「中国の砂漠化ってのは、危険なのか?」
ああ、良かった。今、『中国はどこか』と聞かれるのかと不安がよぎった。
とは言っても、私も自分達に影響を少なからず及ぼすという事ぐらいしか知らなかった。
だから、適当に誤魔化しておく。
「危険らしいですね。」
「そうか・・・ところでよ、。」
次は何を聞いてくるんだろう?
「中国って、どこだ?」
「・・・先生って、やっぱり教師に向いてない。」
地図を取り出したら、間違いなくアジア以外の地域を指しそうだ、この先生。
だけど、先生は私の発言を気にもせず、グラウンドに目をやる。
その先には、先ほどまで教室にいたクラスメート達がいた。
「先生、本当にテスト免除する気ある?」
「一応は、やらなきゃなんねぇんだ。免除は無しだ。」
先生の言葉を信じて走ってる生徒が、哀れに思える。
同時に、自分は外へ行かなくて良かったと、喜んだ。
会話が途切れて、教室の中が静かになる。
何だか、その時間が勿体無い気がして、何か話題をふってみた。
「更木先生。」
「なんだ?」
「何で、私は良い成績がもらえるんでしょうか。」
グラウンドから目を離し、先生は教えてくれた。
「イイ女だからだ。」
ニヤリと笑う先生に近づけば、先生の腕の中に閉じ込められた。
-back stage-
管理:剣ちゃん、地理と全く関係ありません!
剣八:俺がそんな馬鹿に見えるのか、テメェは。
管理:だって、迷子になりやすいみたいだし。
剣八:アレは、やちるのせいだ。
管理:じゃあ、コンゴは何処にある?
剣八:そんな地域名があるのかも知らねぇ。
管理:それは、やちるのせい?
剣八:俺が現世について、知ってるわけねぇだろ。
2006.05.09
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