「この間のテストを返すぞ。」


背が足りないせいなのか、日番谷冬獅郎先生は、教壇を使おうとはしない。
部屋の隅にある机の上にテスト用紙を置いて、一人ずつ名前を読み上げていった。


 「。」


名前を呼ばれて、席を立つ。
だらしなく歩く私に、早くしろと言わんばかりに先生は睨んできた。
でも、私は眠気が残っていたみたいで、欠伸をしてしまう。
なんて、タイミングが悪いんだろう。


 「いい度胸だな、。放課後、職員室に来い。」

 「うそ!?放課後は、今日発売の漫画を買いに行くのに!」


また失敗。
そこで、黙って『はい』と言っておけば、すぐに帰してもらえたかもしれなかった。


 「ほお。どうやら、お前とは、じっくりと話し合いをしなけりゃいけねぇみたいだな。」


クラスメートが笑う中、私はテストを返してもらえずに、席へ戻った。








 「失礼します。」


時は止まることなく、職員室に行く時間。
日番谷先生がいないようにと祈ってみても、効果はなかった。
むしろ、そんな願い事を聞き入れないぞと言われている気がする。
職員室には、日番谷先生しかいなかった。


 「来たか。そこに座れ。」


先生が顎で指さした、向かいに用意されている席に座る。
すると、先生は私の顔の前に紙を突き出した。


 「私のテスト、ですか?」

 「ああ。ちょっと、聞きたいことがあってな。」


下の方に書かれている部分を指す先生の顔には、眉間の皺。
赤ペンで丸がつけられているなら、問題はないと思うのだけど。


 「ここだ、ここ。」


先生は、何に不満なのだろう。
問題を読んでみた。


『以下の絵を見て、吹き出しを埋めよ』


その下の絵は、小さな子供と少し腰をかがめた女の人が話しかけてる。
そして、私の答えを見てみた。


『You are very small.』


『あなたは、とても小さい。』


内容としては、成り立ってる。
きっと、だから丸がつけられてる。
気にかかる事は無いのでは?


 「お前、ちゃんと読んでないだろ。」

 「答えは合ってるじゃないですか。」

 「最後まで、見たか?」


今度は、紙を手にとって眺めてみる。
じっと見つめていて、ようやく先生の言う事が分かった。


さっきの文の後に、一度書いた答えを消していた跡がある。
だけど、それは完全に消されてはいなくて、何が書いてあったのかが読めた。


『You are very small, Toshirou.』


『冬獅郎、あなたは、とても小さい。』


 「どういうことだ?」

 「た、たまたま、書き終えた後に、先生の事を考えてただけですよ。」


空笑いで誤魔化してることは、バレバレ。
私は、諦めて白状するしかなかった。


 「ごめんなさい。絵を見た瞬間、それを書いてしまいました。」

 「お前な。俺が、気にしてる事、分かってるだろ?」


分かってますよ、身長がコンプレックスだということは。
だから、名前は消した。
消しきれてなかったけど。


 「先生が小さすぎて、教壇に立つと姿が見えないとしても、書くべきではありませんでした。」

 「そんなに、俺に怒られたいのか。」


すみませんでした。
先生から、どす黒いオーラがはっきりと目にできる気がします。
今日は、早く帰れないかもしれない。


 「ここまで、したんだ。俺の言う事は、全て聞き入れるよな?」

 「は、はい。」

 「なら、土曜は空けとけ。」

 「え!?その日は、友達の家に泊まりに行くんですけど。」

 「キャンセルしろ。」


私生活まで、邪魔する先生もどうかと思う。
だけど、今の私に抵抗する術は無い。
大人しく言う事を聞いた。


土曜日ということは、学校が終わってからだよね。
課題でもたくさんやらされるんだろうか。
不安が顔に出ていたのか、先生が言った。


 「授業が終わったら、いったん家に帰って着替えとけ。」

 「私服ですか?」

 「そうだ。」

 「筆記用具とかは?」

 「必要ない。」


もしかしたら、掃除でも手伝わされるのかもしれない。
だから、私服で汚れてもいい服に着替えさせられる?


 「違うぞ。」


腕を組んで考え始めた私に、先生がつっこんできた。
心の中を読まれたのかな?


 「別に、に掃除の手伝いをさせる気はない。その・・・。」


周りに誰もいないことを確かめてから、先生は指で私に近づくよう伝える。
椅子に座ったまま近づくと、先生が立って、私のおでこにキスをした。


 「土曜、忘れんなよ。」


顔を見るのが恥かしいのか、顔を見られるのが恥かしいのか。
体を机に向けた先生は、私を見ようとしなかった。


 「はーい。」

 「返事は、短く。」


笑うのをこらえて返事をすれば、相変わらず細かいことを指摘してくる。
ちょっと悪戯をしたくなって、私は答えなおした。


 「分かったよ、冬獅郎。」



彼が振り向く前に、私は急いでその場を離れた。
廊下には、冬獅郎が私の名前を叫ぶ声が広がった。









-back stage-

管:教師、冬獅郎編でござい。
冬:おい。なんで、ネタが『身長』なんだよ。
管:それ以外に、先生と生徒の壁を越えられそうな物が無いから。
冬:あるだろうが!俺だけ、思いっきり苛められてねぇか!?
管:何いばってるの?アナタにキスさせようと機会あげたのに、口じゃなくて額にしちゃってさ。
冬:う、うるせぇ!!それこそ、言わなけりゃ誰も知らなかったような事を言うな!

2006.04.05

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