見かけも中身も、私たちと変わらない石田雨竜先生。


それもそのはずで、彼は現役高校生だ。
何故か私の数学を教えにきている。


本人は臨時教師になった経緯は教えてくれなかったが、
給料が高校生から考えれば高いと喜んでいたことを私は覚えている。



 「石田せんせ。ここが分かりません。」



教員免許を持っていない彼が授業を行うのは、許されない。
現在、数学の授業は自習という形をとっていた。


だから、彼を先生と呼ぶ必要はない。
でも、彼をそう呼ぶ度に照れる姿が可愛くて、やめられなかった。



 「さん。いつになったら、先生と呼ばなくて良い事に気が付くんだい?」

 「いいでしょ、別に。教えてもらってるのは、変わらないんだから。」


教科書を先生の前に置いて、見てもらう。
ただの計算間違えから解けていなかった答えを訂正してくれる。
彼が私の顔も見ずに説明するのを私は聞いていなかった。


 「さん、聞いてた?」

 「ううん。」


私が、正直に答えるのも、いつものことだ。


 「さんてさ。」

 「はい?」

 「勉強する気、ある?」


失礼な事を言うなぁ、先生も。
相手が先生だからこそ、勉強する気になってるというのに。


 「無かったら、質問をしませんよ。」

 「質問をしていても聞いてないから、言ってるんだ。」


どうして、この人は理屈っぽくなければならないんだろう。
この問いにも正直に答えなければならないかもしれない。


 「先生と話すために、勉強は頑張ってます。」


笑顔で言ったら、冷ややかな目で切り捨てられた。


 「くだらないな。そんな事で頑張るくらいなら、違うことに力を注いだらどうだい?」


先生こそ、ここは素直に喜ぶべきところだと思います。
そう言いたい気持ちを抑えて、ひきつった笑みで話を続けた。


 「今の、私が先生の事を好きだと言ってるようなものだったんですけど。」

 「とりあえず、次の問題が解けてから聞くことにするよ。」


本当に、この人は素直でない。
教科書を返してもらい、私は一度自分の席へと戻った。








問題が難しすぎて解けない。
全く進まない。

あれこれと公式を当てはめてみるけど、何も進展がみられない。


 「分からない。ていうか、もう放棄したい。」


周りを見渡せば、ある生徒は自習をし、ある生徒は漫画や小説を読んでいた。
こんなクラスに座って出ているだけで、給料が入るとは羨ましい。


再び教科書を手にして、クラスの前へ出向く。
何故か、先生は何かを縫っていた。


 「石田せんせ。何やってるの?」

 「な、急に声をかけるな!」

 「何を作ってるの?」


恥かしがるなら、こんな場所で縫わなければ良いのに。
彼は、鞄に縫っていたものをしまうと、何事もなかったかのように振舞った。


 「君には、関係ない。それで、問題は解けたのかい?」


気になる。
すごく気になる。

目で訴えてみたけど、先生は無視して教科書を手にした。


 「何だ、解けてないじゃないか。」

 「解けないから、聞きにきたんです。それで、何を作ってたんですか?」

 「これは、問3の応用だ。そして、僕はそれ以外の質問に答えるつもりはない。」


どこまで捻くれた性格をしているんだ、この人は。


 「教えてくれたっていいじゃん、雨竜のケチ。」

 「ケチとは何だ、ケチとは。あと、僕の名を呼ぶな。」

 「じゃあ、石田先生。」

 「だから、先生も嫌だと言ったはずだろう。」


私に、どうしろというのですか。
これじゃあ会話が先に進まない。
ここは、私が大人になることにした。


 「問3の応用って言いますけど、この方法で解いてみましたよ?」


ノートに書いた答えを差し出すと、それを見た先生がため息を吐く。


 「ここ。計算が違う。」


指摘された所を見直せば、確かに違った。
そこから計算をしなおして、問題を解く。
答えがでた。


 「ありがとうございます。」


深々とお辞儀をしてみる。
当然だ、と言い放つ先生を置いて離れようとすると、声をかけられた。


 「さんは、猫が好きかい?」

 「ええ、まぁ。嫌いじゃないですよ。」


すると、さっきしまった縫い物を取り出して、私に見せてきた。


 「この猫のぬいぐるみが完成するのと、君が問題を一つ解くのと。どっちが早いと思う?」

 「先生が、そのぬいぐるみを私にくれるのなら、私の方が早いですよ。」


ニヤリと微笑み返すと、石田先生は、目にも見えないスピードでぬいぐるみを作りあげた。


 「残念だったね。欲しければ、問題を全部解いてからあげるよ。」


そんな得意技があったなんてズルイ、と心の中で呟く。
だけど、そのぬいぐるみを手に入れるため、私は黙々と教科書の問題を問い続けた。













-back stage-

管理:何だかギャグ傾向になったな。
雨竜:僕は、こんなに大人気なくない。
管理:ぷっ。どうだか。
雨竜:何なんだ、その笑いは!失礼だぞ。
管理:りありぃ?
雨竜:変に英語を平仮名で表記するな・・・それに、この話は数学だ。
管理:気にしなーい、気にしなーい♪
雨竜:・・・はぁ・・・

2006.05.12

ブラウザでお戻りくださいませ。