「運命って、信じる?」
放課後になっても帰らないに声をかけてしまったことを雨竜は少し後悔した。
帰らないのか、という質問に対して、そのような答えが返ってくるとは予想しなかった。
「何だい、急に。まるで運命としか思えないようなことが起こったみたいだね」
「ううん、それは起きてないんだけどさ」
大した悩みでも無さそうだが、しばらく話し込みそうだ。
雨竜は観念して彼女の隣に腰をかけた。
手にしていた鞄もかけなおす。
「この世には偶然というものはなく、必然しかないって言うじゃない?」
「ああ。誰かがそんなことを言っていたかもしれないね」
「ていうことはさ、運命の相手がいるのも当たり前な気がしてくるのよ」
「運命が必然だと言うなら、そうかもしれないな」
聞く気がないのか、雨竜はの隣で教科書を開く。
どうやら、今日出された宿題に手をつける気らしい。
「ちょっと。人の話を聞くっていうのに、何よ、その態度?」
「君の話が終わるまでに宿題が終われば、見せてあげてもいいけど」
「そ、そう?なら、やってていいよ」
写す気を隠さないのもどうかと呆れたが、彼はつっこまないでおいた。
隣の席になってしまってから、ずっとは雨竜に頼っていたので今更である。
「それでさ、私の運命の相手はどこかなぁって考え始めたの」
「そう」
「小指に結ばれてる、赤い糸がどこに繋がってるかを調べるのが、やっぱり手っ取り早いかと」
「へえ、その赤い糸が君には見えるのか?」
期待もせずに相槌を入れる。
は落ち込み、机に伏した。
「見えない」
「だと思ったよ」
黙々と教科書を見る雨竜の態度がつまらなくて、は怒鳴った。
「何よ、雨竜だったら馬鹿にしないで話を聞いてくれると思ったのに」
「その根拠は?」
「キザなところがあるから」
そんな理由で話しかけられても、聞かされる側は困るのではないだろうか。
しかし、雨竜にとって注目すべき点は、そこではない。
「失礼だな、僕は気障なんかじゃない」
「気障でしょ。あげていくとキリがないからしないけど、色々と気障な言動してるから」
まあ、今は関係ない話か。
そう言って、は話を戻す。
雨竜は宿題に手をつけた。
いつのまにか、教室には二人以外、誰もいない。
「赤い糸って、一応は糸なわけだし。運命の相手と結ばれてるなら、そう離れてない気はする」
「長ければ長い分、切れやすくなるから、ということか」
「そういうこと。ね、そしたら、随分と範囲が狭くなるでしょ?」
嬉しそうなに雨竜も小さく笑った。
秘かにへの想いを募らせる雨竜にとっては、少々複雑ではあるが。
「だから、もっと考えてみたわけ。もしかしたら、運命の相手はこのクラスの人かもしれないって」
「誰なんだい?」
緊張してか、雨竜の声が僅かに震えている。
だが、彼女はそれに気づかず、笑顔で言った。
「えーとね、候補は・・・」
「ちょっと待て!候補って何だ、候補って!複数いるのか!?」
「そりゃ、このクラスの男子って考えたら、結構いるじゃない」
そういう基準で選んでるのも可笑しいのだが。
一通り、彼女が結ばれていても良いと名乗っていった中には、雨竜の名が存在しなかった。
目の前に本人がいるから、という可愛らしい理由では無さそうだ。
「あ、でも、意外と黒崎君と赤い糸が結ばれてたりして」
「黒崎?さん、接点なんてあった?」
すっかり宿題に手がつけられないことも忘れて、雨竜が訊ねる。
は腕を組んで唸る。
そして、思い出したかのように話し始めた。
「そういえば、入学式で黒崎君が助けてくれたことがあったんだよ」
「だから結ばれてるかもしれないって?」
「それを黒崎君も覚えてくれてたみたいだから、可能性があるかも」
無愛想な感じだけど、実は優しいよね、彼って。
にこにこしながら、彼女は話し続ける。
雨竜は鞄をあさるが、は運命の相手に夢中で気にしていない。
「うん、黒崎君と赤い糸が結ばれてたら、素敵かもしれない」
「そう。ところで、さん」
「ん?」
注意が雨竜に向けられてから、彼はの左腕を引っ張り、彼女を近づかせる。
そして、彼の左手はの頬に触れた。
「ん!?」
何か言おうにも、彼女は今、自分の身に起きている事に驚いて口が開かなかった。
だが、口を開けたとしても、実際には無理だったろう。
まさに、その口が塞がれているのだから。
「その赤い糸、引き千切ってもいいかい?」
「その代わり、新しいのを結んでおくよ」
彼がの左手を見えるように顔の前に持ってくる。
そこには、結ぶつけられた赤い糸が雨竜の小指と繋がっていた。
「い、いつのまに・・・」
「君が僕の前で他の男の話をしている間にさ」
雨竜は動かせない右手の代わりに、左手でソーイングセットを持った。
「やっぱり気障だよ、雨竜君」
「何を言っても、君は受け入れるしかないんだ。僕が君の運命の相手なんだからね」
-back stage-
管理:うわわ、やっぱりこういう雨竜になってしまった!
雨竜:『こういう』だなんて、嫌そうに言うな!
管理:そうだね、これが君の本来の姿なんだもんね。
雨竜:そんなに嫌なのか、この僕が。
管理:いーや、今のは遊んでただけ。嫌いだったら、書かないよ。
雨竜:・・・!も、もういい。
管理:この作品はあいか様のみ持ち帰り/返品可能です。
2008.01.26
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