時は18世紀の仏蘭西。
今夜は、世界でも有名な貴族家で舞踏会が行われる。

 
はじめは無関心だったある女も、そこで運命の相手に出会った。
そしてどちらが誘うわけでもなく、二人は片時も離れずに踊っていた。


しかし、時間とは残酷なもので。
楽しいひと時はすぐに終わりへと近づいた。


 「嗚呼。ここで貴方の手を離してしまったら、二度と会えない気がするの。
  どうか私を二度と放さないで下さい」


嘆く女に男は優しく微笑みながら言葉を返した。


 「放したり致しません。たとえこの手を離しても、貴女の心は必ずや放しはしません。
  この口づけに誓いましょう」


男は女に甘いキスをした。








この口づけを貴女に








・・・これをやらなきゃならないのか、私は。


演劇部の友人に渡された台本を見て、嫌になってきた。


今回、演劇部が披露する劇のヒロイン役として自分が選ばれたのは、正直驚いた。
特に演技をしたことないんだけどなぁ。
中学のとき、臨時で脇役として登場したぐらいだった。


 「だけど、こんなくさ〜いセリフ・・・吐けない」


少女マンガでありそうな『悲しい運命が待ち受ける、恋する乙女』の気持ち。
確かに、話を全体的に見たら、このシーンは魅力のうちの一つだろう。
劇を見る側ならば。


 「誰よ、こんなの考えたのは」


 「何をだい?」


声の主を見つけると、私は早速文句をぶつけた。


 「遅い」

 「ごめん。でも、が待ってるなんて、知らなかったんだけど?」

 「私も早々に帰る予定だったわよ」

 「じゃあ、なんで?」

 「雨竜に伝言を頼まれた。劇の服の質問の答えだって」

 「ああ。了承してくれたのかな」

 「さぁ。『いいよ』だって」

 「ありがとう」


雨竜は、私の席の前に腰を下ろした。
あー、こりゃまだしばらく帰れないな。


 「さっきからブツブツ言ってたのは、これか」


雑に机に放って置いてある台本を手に取る。


 「私がヒロインなんて、考えられないけどね」

 「そんなことないよ。何せを推薦したのは僕だからね」

 「雨竜が?どうして?」

 「演技の才能があると思ったからに決まってるだろ」


ごく平凡な女子学生だと思ってた私としては、嬉しい言葉。
それでも、愛の告白のシーンはやりたくない気持ちが勝る。


 「でも、相手役が誰かも分からない状態で、このセリフを言わなきゃならないのは嫌」

 「相手役が分からない?」

 「それどころか、他の役を演じる人達の名前も載ってないのよ」


何故だか自分だけ、何かから隠されている気がする。
誰だって、そう思ってしまうものだ。


 「。とりあえず、言ってみてよ」

 「え?」

 「その台詞。もちろん、感情を込めてね」


雨竜が何を思ってるのか分からない。
だけど、台本を手渡されてしまっては仕方がない。
覚悟を決めて、口を開いた。


 『嗚呼。ここで貴方の手を離してしまったら、二度と会えない気がするの。
  どうか私を二度と放さないで下さい』


切なげに見つめた私を雨竜は優しく微笑み返した。


 『放したり致しません。たとえこの手を離しても、貴女の心は必ずや放しはしません。
  この口付けに誓いましょう』


台本も見ずに淡々と次の台詞を口にする雨竜を吃驚して見た瞬間に。
雨竜は本当に唇にキスをした。


 「・・・雨竜?」

 「まだ気づかないのかい?僕が脚本をしたんだ」

 「うそ!?じゃあ、役者を隠してたのも・・・」

 「いや、それは僕じゃない。恐らく、演劇部の皆がやった事だ」


正直いって、脚本が雨竜によって書かれたんなら、内容も納得できる。
こんな台詞吐ける人、滅多にいないもんね。


 「て、そうじゃなくて!なんで、キスしたのよ!」

 「いけなかった?」

 「悪くないけど!」

 「ならいいじゃないか」

 「でも!」

 「好きなんだ、の事」

 「急に告白されても、困るし」

 「じゃあ、どうして欲しいんだ」


そんなこと、私が知りたいよ。
突然の出来事で頭の中が整理できない。
とりあえず、最初から気になっていた事を聞いてみよう。


 「相手役は誰よ」

 「僕だよ」


答えを聞いて、胸をなでおろす自分がいた。
フリとはいえ、キスシーンは知らない人と演じたくない。


 「安心した?」

 「一応ね。雨竜だったら、緊張しなくていいや」

 「それは、僕が相手だったらキスがあってもいいという事かい?」

 「お好きなように解釈してください」


台本を鞄に片付けて、席を立つと私は帰ろうとした。


 「本番は、もっと熱烈なキスをプレゼントするよ」


後ろから聞こえた声に私は振り向かず、バカと呟いて教室から出て行った。






<おまけ>

 「そういや、なんで舞台設定が18世紀のフランスなわけ?」

 「決まってるじゃないか。舞踏会を出すためだよ」

 「・・・ダンスパーティ好きなの?」

 「いや。でも、その方が衣装を作り甲斐があるだろう」

 「ああ、なるほど(ふりふりレースのドレスか)」

 「それに、に似合うと思ったから、着せたかったんだ」

 「・・・でも、私、舞台で着るんだよね?可愛い彼女を観客に見せつけるの?」

 「・・・(それは考えてなかったな)・・・」







-back stage-

雨竜:初リクが僕だなんて、嬉しいね。
管理:私も嬉しいよ。初キリリク小説!
雨竜:その割には、リク内容と若干外れてないか?
管理:え・・・
雨竜:僕とクラスメイトの設定で、甘い夢なんだろ。
管理:確かに。『クラスメイト』でなくても良くなってしまった!?
雨竜:キリリクをくれた、あいか。満足してなかったら、ちゃんと言ってくれよ。
管理:この作品は、リクして頂いた、あいか様のみお持ち帰り/返品可能です!

2005.09.12

ぶらうざでお戻り下さいませ。