仙人界に浮いてる岩の一つに、普賢とは背中合わせに座っていた。
「ねえ、普賢?」
何時も時を過ごすのが、このような窮屈な場所だとも飽きる。
「たまにはさ、のんびりしたいんだけど。」
「してるじゃない、今も。」
「そうだけど・・・お茶でも飲んでゆっくりしたいのよ。」
「つまり?」
「普賢の所に遊びに行かせて。」
ちゃんと読みましょう
乗り気でなかった普賢から、遊びに行く許可をもらって一週間。
今、は彼の元へと急いでいた。
「ごめん、普賢!寝坊しちゃった。」
息が切れながらも、懸命に弁解するを普賢は笑顔で迎え入れた。
「構わないよ。は朝が弱いことを知ってるんだから。」
だったら朝早くから家に来いと言わないで欲しい、とは心の中で思いつつ黙っておいた。
それを言えば、普賢が家に入れてくれなくなる事を分かっていたからだ。
ちゃんと迎えてくれるよう、彼にリクエストされた着物を身にまとった事も水の泡となってしまう。
「じゃあ、今日はのんびり過ごそうか。」
普賢に連れられ、は部屋へ入ろうとすれば目を見開いた。
「ねえ、普賢。そんなに家で一日過ごすのが嫌だった?」
「そんなわけないじゃない。どうしたの、急に?」
は目の前で笑っている恋人を見て、違和感を感じた。
部屋の入り口には看板がたてられていた。
『ここではきものを脱いで下さい』
「言葉って、色々な意味があって面白いよね。」
だからその笑顔が怖いんです。
再び声には出さずに心の中で叫んだ。
「普賢は、どっちの意味だと思う?」
ひきつった笑顔で聞いてみれば。
「どっちでも。が思う方が正しいかもね。」
本心ではそんな事思っていないだろう返答をもらった。
改めて、は看板の文字を読み取る。
『ここではきものを脱いで下さい』
この場合、『ここで履物を脱いで下さい』なのか。
はたまた、『ここでは着物を脱いで下さい』なのか。
言葉とは、本当に意味がたくさんある。
語の区切り方次第で伝えたいことが変わるのだから。
としては、もちろん『履物』と読みたいところ。
しかし、彼女の今日の服装からも考えられるのは、『着物』。
少なくとも、普賢はそれ以外に答えを出させないつもりだ。
「どっちだと思う?」
答えを急かされては仕方ない。
は覚悟を決め、看板の文字を読み上げた。
「『ここで履物を脱いで下さい』。」
相手の次の行動が読み取れないは、じっと普賢の笑みを睨む。
「残念でした。、ちゃんと読んだ?」
看板に顔を近づかせる普賢に合わせ、はもう一度看板を見つめた。
すると、遠くからでは見えなかった重要な部分が小さく記入されていた。
『ここでは、きものを脱いで下さい』
「ずるい!」
語句の間に読点が入っているとは思わなかったは喚く。
すなわち、それは彼女が選びたくなかった答えへと導いているわけで。
「自分で脱ぎたい?それとも脱がしてあげようか?」
何時の間にやらの腰に腕を回した普賢は聞き入れない。
「どっちも嫌。」
「恥かしがらなくても良いのに。」
クスクスと笑う普賢を受け入れる他には道が無かった。
は今日、彼には色々と気をつけなければならない事を学んだ。
-back stage-
管理:相互リンクをして下さった天宮月さんへの贈り物です。
普賢:彼女のみ持ち帰り/返品が可能だよ。
管理:いやぁ、しかし黒いね。
普賢:君のせいだけどね。本来ならば、僕は優しいから。
管理:・・・(何も言うまい)。こんな私ですが、よろしくお願いします。
2005.10.23
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