it's for you
誰にも邪魔をされることの無い、久しぶりの休日。
しかし、非日常的な事に慣れてしまった俺は、念の為に朝早くから目を覚ましていた。
とは言っても、何もすることが無い。
仕方ないから、下の階へ下りて朝ご飯でも食べることにした。
すると、遅れて起きた妹のも食卓につく。
は、可愛い。
あの谷口と国木田も認めた美少女だ、決して俺が妹馬鹿なわけではない。
性格は・・・長門に似てるかもしれない。
もう一人いる妹とは、対照的だ。
だからといって、に愛想が無いわけじゃない。
少なくとも、俺には懐いてくれている。
俺が何処かへ行こうとすれば、は俺を引き止める。
だが、素直に行って欲しくないとは言えないんだ。
変わりにすぐ帰ってくるよう、飲み物が欲しいとか言って誤魔化す。
そんなだから、俺は多少面倒な事を頼まれても、妹を可愛いく思える。
ハルヒも少しは見習って欲しいところだ。
ああ、そうだ。他にもアイツとは違う所があったな。
は、一つだけ素直に自分の気持ちを表すことがある。
食事をする時に座る席だ。
他の家族が誰も座ってさえいなけりゃ、必ず俺の隣に座る。
今朝は、何でか向かいに腰を下ろしたけどな。
「おはよう、」
挨拶をするが、返事はない。
こういうのは、の機嫌が悪いときに起こる。
そう、俺が彼女の機嫌を損ねた時に。
「何かあったのか?」
「別に、キョンには関係ない」
そっけない返事は、あきらかに俺を責めていた。
だが、俺には心当たりが無い。
とりあえず、先に謝っておこう。
「悪かった」
「何で怒っているのか分からないくせに」
「・・・すまん」
「キョンの馬鹿。大嫌い」
『大嫌い。』
そこまで言われて、俺の心は傷つく。
思い出せ、自分。俺は、何を忘れたんだ?
でなきゃ、一生に口を聞いてもらえないかもしれないぞ。
なかなか思い出さない俺に腹が立ったのか、はポツリと言葉を零した。
「先週、キョンは僕と約束をしたんだ」
「約束?」
聞き返すが、それ以上は喋らない。
先週、か。
何があったのか、頭の中で振り返ってみる。
「あ、そうか。お前の買い物に付き合うって約束したんだったな」
「知らない」
拗ねてるは、否定をしない。
そうか、これに対しては怒っていたのか。
昨日の放課後、の買い物に付き合うと言ったのに、俺がすっぽかしたんだ。
元凶は、いつものごとくハルヒにある。
アイツの突発的な行動に振り回されて帰るのが遅くなったうえに、俺は疲れてベッドに一直線。
に謝ることすらしていなかった。
「本当に悪い。今からでも間に合うか?」
「知らない。別に、今日は何の予定も無いけど」
よし、何とか機嫌を直してもらえそうだ。
食べたら一緒に出かけたい、と頼めば、は頬を少し赤らめて黙々とおかずに手をつけた。
「キョン、こっちに来て」
に連れられて入ってきたのは、何故か服屋。
しかも、男物の。
胸の内が、ざわめく。
「これ、キョンは好き?」
どうする、俺。
これは、もしかしなくても、誰かへのプレゼントを選ばされてるのか?
に男はいないと思ったんだが、何処の誰かが俺の妹に手を出していたようだ。
気に食わないので、俺も好きだと思ったそのシャツを断固拒否した。
「それは、どうかと」
「あ、一樹さんだ」
一樹さん?
の男だろうか、と妹が目を向ける方向を探す。
そこには、俺達の姿を捉えた古泉が手を振っていた。
ああ、そういえば、アイツの名前って、一樹だったか。
じゃなくて。何時の間に人の妹と知り合ってやがったんだ、あの超能力者。
「こんにちは、さん。兄妹仲良く買い物ですか?」
「僕は、キョンがお願いするから一緒に来ただけ」
「相変わらず、素直じゃありませんね」
相変わらずって何だ、相変わらずって。
ここ最近知った仲じゃないような口をきくな。
「いいえ。彼女と知り合ったのは、つい最近の事ですよ」
笑顔で答える古泉は、俺の言いたい事が分かってるんだろうな。
状況についていけない俺を楽しく見てるコイツが、鬱陶しい。
「そういえば、キョンは一樹さんと親友だったっけ」
「古泉。お前、に何を吹き込んだ」
「事実を述べただけですよ」
嘘吐きめ、俺がいつお前の親友になったんだ?
俺が古泉を嫌っているというわけではない。
ただ、勝手に人の妹と盛り上がってたのが、気に食わないんだ。
「ちょうど良いや、一樹さん。このシャツ、どう思います?」
「ああ、彼に贈る物を選んでるって言ってましたね。良いと思いますよ。ねえ?」
「俺に聞くな。ていうか、。お前、誰にそのシャツを贈る気だ?」
ああ、苛立ってきた。
とりあえず、古泉がプレゼントを贈る相手でなくてホッとしてるけどな。
は俺の質問には答えないで、そのシャツと一緒にレジへ向かった。
言いたくないのか。
俺も、妹離れをするように心がけた方が良いのかもしれない。
そうしたら、または俺に懐いてくれるかも、なんて淡い期待を抱く。
「大丈夫ですよ。さんは、まだ貴方の事が大好きで仕方ありませんから」
「根拠は?」
「貴方にも、すぐ分かりますよ」
では、僕はこれで。
が買い物を済ます前に帰った古泉を見届けてから、の手にする袋を見つめる。
「な、何?僕が誰にプレゼントしようと、関係ないでしょ」
関係ないと言われれば、関係ないが。
それでも、気になるから聞いてしまう。
「誰に贈るんだ?」
「や、約束を忘れるようなキョンには、教えない!」
相手の顔を思い浮かべてるのか、の顔はタコみたいに真っ赤になる。
なんだか羨ましいな、にそこまで想われてるヤツが。
諦めて、店から出る。
後ろからついてきていたに声をかけられて、俺は振り向いた。
その俺の手に、さっき買ったばかりの袋が渡される。
何のつもりなのかと思って顔を上げれば、は戸惑いながらも口を開いた。
「やっぱ、それキョンにあげる」
「は?これは、誰かにやるんじゃなかったのか?」
「キョンの方が似合うと思うし、服のデザインも好きだと思うから、あげる」
それだけの理由で俺にくれるなら、そこまで恥かしがることでもないだろう。
が照れている様子を見て、俺はようやく古泉の言っていた意味が分かった。
だが、素直に受け止めるのもつまらないから、少し遊んでみる。
「最初から素直に言えば、もっと楽なのにな」
「だ、だから、僕はキョンにあげようと思って買ったわけじゃ」
「俺へのプレゼントだろ?」
「違う!絶対に、違うから!たまたまなんだ!」
反応が可愛いから、もっとからかいたいが、それを抑える。
これ以上やって、また『大嫌い』と言われたら、俺が辛い。
「ありがとな。これのお礼に、何か奢ってやるよ」
「・・・そこまでキョンが言うなら、甘い物が食べたい」
頭を撫でれば、が大人しくなる。
ペットみたいなものだな、と思った事は一生口にしないでおこう。
その代わり、どこかの店で落ち着いたら、今度は俺から誘ってみるか。
その時はもちろん、このプレゼントされたシャツを着るのを忘れないようにしよう。
-back stage-
管理人:妹の設定って、何歳が良いのか分からず。とりあえず、臨機応変にできるようしてみました。
キョン:これで、実は『5歳児』とか幼稚な設定でリクされたと知ったら、どうするんだ。
管理人:・・・その時は書き直す。
キョン:それしかないか。
管理人:そんなわけで、持ち帰り/返品は風流様のみ可能です。
キョン:にしても、アイツがいないだけで、ちゃんとした話になるな。
管理人:同感。団長がいないだけで、こんなにもギャグもドタバタも無い話になるとは。
キョン:それだけ、アイツの存在が強いってことか。
2006.11.10
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