take out
今日は晴れ晴れとした天気。
カフェボヌールは、週日であることも関係して人が少なかった。
店内は帰ってきた店長も交えて、話が盛り上がる。
その際、店長が進藤と一郎に質問をした。
「そういえば、ちゃんは元気?」
その人物を知らない潤は、首を傾げる。
進藤と一郎が顔を見合わせた。
「なら、しばらく来てませんよ」
一郎が答え、店長は寂しそうに受けとめた。
「どうしたんだろうねぇ、ちゃん」
「進藤さん、から連絡きてないの?」
「俺にくるわけないだろ、連絡先を教えてないのに」
「教えたよ、俺が」
いつのまに、と無言で訴える進藤の視線に動じることもない。
ちょうど会話が途切れたので、潤は三人に訊ねた。
「さんって、誰ですか?」
「ああ、彼女は・・・」
今度は頬を綻ばせた店長が答えようとすると、店のドアが開く音がした。
そっちへ視線を向けた一郎が口を開く。
「噂をすれば、だね」
「久しぶり、進ちゃん、いっくん!」
発せられた大きな声より、潤は他の事が気になった。
二人を親しげに呼んだ、その名である。
「一郎君は分かるとしても、進藤さんがあだ名を許すなんて」
「勝手に呼ばれてるんだ」
注意すれば、笑顔で暴力に走られたからな。
状況を伝える進藤はその時の事を思い出したのか、苦い顔をした。
「まぁまぁ、いいじゃないの。で、今日は何にする?」
「あ、まっちゃん。いたの?」
「いたの?」
彼女の冷たい扱いに嘆き、店長は店の隅で膝を抱え、床にのの字を書く。
悪ふざけにのった一郎も、彼の重苦しい雰囲気に耐えれず、からかうのを止めた。
「冗談だってば、店長」
「いつも騙されてるよね」
「え、あの、『まっちゃん』って?」
「こいつのあだ名。松本だから」
そういえば、そんな名前だった。
潤がそんな事を考えてるとは知らず、元気をとりもどした店長は、潤に向かって胸を張った。
「ちゃんは、すごいんだよ」
「何がですか?」
「誰がお菓子を作ったか、言い当てることができるんだ」
自分の事のように誇らしげに言った店長を本人が訂正した。
「食べることで、菓子の材料とか作り方が分かるだけなんだけどね」
「それでもすごいよ、それでその人の作り方の癖が分かっちゃうんだから」
「潤も見てれば分かるよ」
勝手に潤を呼び捨てにすると、は並べられたケーキを一覧した。
そして、一つずつ購入するケーキをあげていく。
言い終えると、彼女は店長がしたかのように誇らしげに胸を張った。
「以上、進ちゃんが作ったケーキを持ち帰りで、お願いします」
「おお!すごい、本当に言い当てた!」
目を輝かせて尊敬の眼差しを送る潤に、は機嫌を良くする。
進藤は、黙って慣れた手つきでケーキを詰める。
その間に、一郎は店長も不思議がっていた質問をぶつけてみた。
「ここ最近来てなかったけど、何かあったの?」
「あったんだよ。実はさ・・・」
「こんな所におったんか、」
新たに店に入ってきたのは、和菓子屋の看板息子、柏。
が逃げる前に抱きしめて、再会を心から喜んでいた。
「何で、うちに来てくれへんの?こんなにも会いたかったのに」
「コレが原因で、この近くをうろつけなかったのよ」
「なるほど」
彼を無視して、は会話を続けた。
眠りそうになった一郎の口には、潤によって飴が含まれている。
「これ以上酷いことは、今までされなかったけど」
「酷いって何やねん。への愛を最大限に示してるだけやのに」
「それが行き過ぎやっちゅーねん」
もう一人の看板息子、草が自分の兄をから引き離す。
彼女が無事なのを確認してから、話しかけた。
「すまんな、迷惑かけて」
「迷惑なんてかけとらんわ。なぁ、?」
「柏は、和菓子だけ作ってれば良い。ありがとね、草ちゃん」
進藤に手渡された箱を開けて、は中身を確認する。
ふと、潤は引っかかったことがあり、なぜか声を潜めて進藤に聞いた。
「弟の方は仕方ないとして、何で兄はニックネームで呼ばないんですか?」
「あいつ、嫌いなやつにあだ名をつけないんだ」
たんに、あの馬鹿を調子に乗らせないためかもしれないが。
注意しなければ聞こえない声で、付け加える。
しかし、その説明が無くとも、潤の中では問題が解決したようだ。
「は、うちのなんだから、早く帰ってくれない?」
解放されたを後ろから抱きしめて、一郎が威嚇する。
近くに寄られた草は、のけぞる。
だが、彼は勇気を振り絞って抵抗した。
「い、いつ、がお前らの物になったんや」
「が生まれてきた時から、ずっと」
「違うやろ!それは、が決めることや!」
キッと睨んだ目をに向けて、問いただす。
店長は、潤にちょっかいを出している柏を成敗しようとしていた。
「お前もなんか言ったれ!」
「うーん。進ちゃん、腕をあげたね」
家に帰るまで辛抱できなかったのか、は手掴みで購入したケーキを食べている。
その行動に呆気をとられ、しばらく双方は固まった。
一郎の腕の中で食べ続ける彼女に慣れている進藤は、フォークを渡す。
「ちゃんとコレを使って食べろ」
「平気だよ。手が汚れたら、食べてもらえば良いんだから」
「・・・食べて、もらう?」
「こんな感じにね」
そう言って、は自分の指を進藤の口の中に入れた。
ちょうど潤や店長、柏も彼らに視線を向けている時であった。
思考が停止した進藤は、彼女が舌の上で指を動かすのを黙って受け止めていた。
「ほら、綺麗になった」
指を口から取り出したが、満面の笑みで言う。
さすがの一郎も何も言葉が出てこなかった。
すると、進藤はの手首を掴み、キッチンの方へ進んでいった。
急に腕を引っ張られ、彼女が買ったケーキの詰め合わせが落ちるのも気にせずに。
店長と潤が慌てて片付けをしている横で、一郎は呟いた。
「あの二人、いつ帰ってくるかな」
-back stage-
管理:幸福喫茶、逆ハー夢の出来上がり・・・?
西川:そこで『?』は駄目でしょ。
管理:ぶー。進藤を咲月って呼ばないようにするの、苦労したんだよ。
進藤:俺のせいじゃないだろ。
管理:店長の名前は、これのおかげで覚えたけどね♪
松本:えぇ!?覚えてくれてなかったわけ、今まで?!松本南吉!南吉だよ!
管理:蒼華様以外、この作品を返品/持ち帰ったら駄目ですよ。
西川:ちなみに、この後進藤さんがに何をしたかは、この作品のタイトルが答え。
進藤:よ、余計なことを言うな!
2006.10.26
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