ありがとう



女禍との戦いの後、仙人界は人間界から離れて過ごすようになった。
しかし、は怒られることを承知で人間界に遊びに行く。
今日もそうだった。


 「やっぱ人間界は静かで落ち着くー。」


人が寄り付かない、高い丘の上では寝転がった。
今の仙人界は、まだ完璧に世界が成り立っていない故にいざこざが絶えない。
人間界の田舎で過ごす方が落ち着くのだ。


だが、彼女が人間界に遊びに来るのはそれだけではなかった。


 「伏羲は何処にいるのかね。」


も彼が生きていると信じている人の一人。
仙人界では居難いだろうから、人間界でひっそりと暮らしていることは検討がつく。
だから毎度下界へ降りるが、気配を感じない。


 「・・・と、いうことを口にすれば出てくるかなぁと。」


視野には入っていないが、人の気配がするので付け加えた。


 「出てきちまったな。」


『太公望』としての口調ではなく、『王天君』としての口調だ。
は嬉しさで思わず微笑んでしまった。


 「逃げても無駄だよ。私にはかなわないでしょ?」

 「そう思ったことはねぇがな。」


隣に腰をかける『王天君』は『伏羲』の体。
本来ならば性格も『太公望』と同じだったのだろうと考えれば、
は一瞬だけ彼に無理をさせているのではないかと胸が痛んだ。


 「なんで『王天君』なわけ?」

 「相手がだからに決まってるだろ。」

 「・・・無理しなくてもいいのに。」

 「俺に太公望みたいな喋り方をしろっつーなら、するぞ。」


伏羲の姿で王天君の口調は違和感があったが、王天君に話しかけるのに太公望の口調も違和感がある。
は彼の厚意に感謝した。


 「この会話って、太公望にも聞こえてるんだろうね。」

 「まぁな。」

 「そっか。じゃあ、手早く済ませた方がいいね。」

 「・・・する必要は無ぇ。」


王天君は太公望の魂魄を別の空間へと移すと、『伏羲』の姿が『王天君』の姿へ変わった。
じわりと目が涙で潤うのをは気のせいだと思い込んだ。


 「便利なんだね、王天君のその力。」

 「今更、俺のすごさに気づいたのか。」


珍しく笑う王天君をはじっと見つめる。
まるで、もう二度とこの笑顔に会えないような気持ちで。


 「は本当に馬鹿だな。」

 「王天君が性悪なだけだよ。」

 「それ、関係ねぇだろ。」

 「あ、否定はしないんだ?」

 「・・・少し、黙ってろ。」


乱暴に口を塞がれ、互いの舌が絡み合う。
はされるがままの状態だった。



 「うーん。伏羲の姿での方がいいかも。」


長い口づけの後、文句を言う。


 「何でだ。」

 「その口のピアスが邪魔なの。」

 「おい。俺を全否定かよ。」

 「全否定はしてないでしょ。」

 「してる。これだって、俺の体の一部だ。」

 「気持ち悪いね、ニョキニョキとピアスが出てくるなんて。」


あえて解釈を別にとったの顔は青ざめた。
せっかく勇気を振り絞ったのに冷たいの態度に、王天君は立ち上がる。


 「行っちゃうの。」

 「誰かさんに機嫌を悪くさせられたからな。」

 「次はいつ会えるかな。」

 「さぁな・・・どうせ、すぐだろ。」


王天君は、空間移動をする前にへ振り返った。
だが、なかなか言葉が口に出てこない。
それを察したは優しく微笑み、代わりに口にした。

 
 「『ありがとう』?」



返事もなしに帰った彼の後姿をは笑って見送った。
そして、誰もいなくなった空間で呟いた。



 「ありがとう。」











-back stage-

管理:私的、ED後の『伏羲』。
王天:なんなんだ、これ。
管理:何って、貴方ですが?
王天:・・・これが俺なわけ・・・
管理:ある。(と言ってしまえば良いのだ)もったいないよ、『王天君』がいなくなったら!
王天:そ、そりゃどーも。(何時になったら俺は『王奕』に戻れるんだ?)

2005.10.13

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