追跡







とん、と岩の上を一つずつ乗り移りながら、は待ち合わせ場所へと急ぐ。
こういう時に、乗り物がないのは、不便だ。


 「遅刻だよ、完璧に!普賢、怒ってるだろうなぁ。」


数時間前に会うはずであった普賢の事を考えると、気持ちが焦った。
急に用事が入り、連絡のつけようがなかったので、もしかしたら普賢はまだ待っているかもしれない。


太公望にでも交渉をして、黄巾力士でも盗ってくれば良かったと後悔する。
だが、普賢の待っている場所は、もう肉眼で確認できる所まで来ていた。
その時、脳内に普賢の声が響いた。


 『。』


彼にしては珍しく、不機嫌そうな声色。
こんな幻聴がしてしまうなんて、よっぽど自分は普賢を恐れているのかと呆れた。
普段からからかわれて遊ばれてるとしては、怖がっても可笑しくはないのだが。


声を無視して、岩の上を走るように飛び移る。
何時間も待っている彼の元へ、いち早くたどり着けるように。


 『。』


また幻聴だ、とは耳を傾けない。


 『。聞こえてるんでしょ?』


ちょっと痺れを切らした感じで、普賢の声は言った。
足を止めようとしたが、空中にいた事を思い出すと、は慌てて岩の一つへ舞い降りた。


 「普賢?」

 『やっと聞いてくれた。』


答えてみれば、安心した普賢が返事をする。
しかし、にしてみれば、どうして声が聞こえるのかが分からなかった。


 「近くにいるの?」

 『そうかもね。見回してみたら?』


言われて、はその場でぐるりと辺りを見渡す。
しかし、周りには空に浮かんだ岩と雲しか目に入らなかった。


 「いないじゃない。」

 『・・・、もしかして、今その場で回った?』


その言い方からして、この近くには居ないらしい。
しかし、は念入りにもう一度見回した。


 「普賢が、そう言ったんじゃない。」

 『ぷっ・・・あははっ。』


少し機嫌が悪くなってきたの声に、普賢は可笑しそうに笑う。
彼女の機嫌は、さらに悪くなった。


 「な、急にどうしたの?」

 『ってさ、絶対に「三回まわって、ワンと吠えろ」とか言われたら、しそうだよね。』

 「し、しないわよ!・・・多分。」


頬を膨らませて抗議しようとしたが、彼女は自信が無かった。
くすくすと笑いが止まらない普賢は機嫌が直ったのか、に早く来るよう急かした。








 「今日は、随分と足手まといをくらったみたいだね。」


言われた通り、急いで普賢の元へたどり着けば、この言葉。
一体、どうやって分かったのか、とは不思議に思った。
不思議といえば、と先ほどの事を思い出す。


 「さっき、どうやって話しかけてきたの?」

 「ああ。これだよ。」


普賢は、端に置いていた宝貝を手にした。
それで何ができるのか、は首を傾げる。


 「それで話しかけてきたの?」

 「そうだよ。これで・・・」

 「あ、説明はいいよ。聞いても分からないと思うし。」

 「そう?」


宝貝を片付けて、普賢は椅子に座り込む。
彼が茶を出す様子がないので、は聞いた。


 「客にお茶も出さないわけ?」

 「何時間も僕を待たせたのは、誰だっけ?」


笑顔で言い返されては、反抗ができない。
は、茶を淹れて差し出した。


 「今日は、誰が呼び出したの?」


茶を一口含んでから、普賢が聞く。
は、最初は言うのを躊躇ったが、彼の笑みに押されて答えた。


 「太乙。」

 「それだけ?」


太乙だけなら、こんなにも遅刻する事は無い。
は、観念して他に彼女を引き止めた人物の名をあげた。


 「・・・楊ゼン。」

 「他には?」


普賢の笑顔は、まだ尽きない。
この男はどこまで知ってるのだ、とは自分の頬が引きつるのを感じる。


 「玉鼎真人。」

 「まだ、いるでしょ?」


本当に、どこまで知っているのだ。
笑みがどうやって絶えないのか、疑問に思いつつ心の中で嘆いた。
しかし、はそれ以上は口にしなかった。


すると、それに気付いた普賢の笑みが深くなる。
それを見たの笑みは、さらに引きつる。


 「が僕に隠し事なんて、できるはずないよね?」

 「それよか、何で分かるのかが、私は気になるなぁ。」

 「宝貝で、誰が何処にいるか調べられるんだよ。」


どれだけハイテクな宝貝を持ってるのか、というツッコミがしたくともできない。
じわじわと歩み寄ってくる普賢を避けようにも、気付けばの背は壁に当たっていた。


 「皆への報復は後回しにして。には、遅刻した分、その体で相手してもらうよ。」


そう言って、彼女の額にキスをするのは、彼なりの優しさ・・・という事では無い。
逃げ場が無いを諦めさせるだけだ。

見事にその策にかかったは、仕方なく普賢に抱きついた。












-back stage-

管理:緑錐様からの、40000キリリク作品です。
普賢:彼女のみ持ち帰り可能だよ。気に入ってもらえるといいね。
管理:リクは「黒普賢」でしたが・・・お気に召されなかったら、返品して下さい。
普賢:そうそう。貴女が満足できるまで書かせれば良いから。
管理:ところで、普賢の宝貝は本当に人を追跡できるわけ?
普賢:クス。そんな事、知って・・・どうするつもり?
管理:・・・・・・。

2006.06.02

ブラウザでお戻り下さいませ。