毎日の日常に小さな幸せを。
そんな幸せを提供するカフェボヌールに一人の客が来た。
特別なメニュー
「いらっしゃいませー」
元気よく店内に響かせ、バイトの高村潤は客を迎えた。
「潤!会いたかったよ!」
どうやら客は店員の顔見知りのようで、潤に抱きついた。
他の店員である進藤咲月と西川一郎は、一体相手とはどんな関係なのかが気になる。
「え?!来てくれたんだ!」
「当たり前でしょ。可愛い潤に会いたかったんだもん」
二人の間で盛り上がろうとする時、進藤が潤に注意をかけた。
そこで潤は彼女の紹介をしていないことに気づき、二人に体を向けた。
「えっと、この人はさん。私の学校の先輩です」
「先輩っていうのは無しだ、て言ったでしょ」
「あ、そっか。ごめん」
「いいよ、別に。気にしてないから」
紹介された二人から見れば、潤はに遊ばれてるんだなと理解できた。
人見知りをしない一郎が彼女に声をかける。
「。今、何年生?」
「うーん・・・3年生?」
「私に確認とらなくていいから!」
「じゃあ、3年生」
一年生である潤とどのように出会ったのか興味がある。
そんなことが顔に書いてあったのか、と潤はお互いに補いながら説明した。
「私が学校で迷子になってた時、潤が助けてくれたの」
「は最近、引っ越してきたんだよね」
「そしたら、また違う日に迷っちゃって」
「何でそんなに迷うのか不思議だったな」
「それでまた会って、また教えてもらって。んで、また迷子になった」
「その時、初めてが漢字を読めない事を知ったんだ」
「あ、私、日本語喋れるけど、読むのはひらがなでも怪しいの」
「迷うわけだよね、漢字で書かれてる教室なんて読みようがないんだから」
この二人の説明で内容を理解できるには、相当二人の事を知っていないと無理そうな説明だ。
しかし、聞いていた側はもう慣れっこだったので話が通じた。
「ふーん。って帰国子女なんだ」
「うん。すごく中途半端な時期に帰ってきちゃった」
「今から受験勉強だもんね。がんばって!」
「ありがとう、潤。だけど、もうなるようになれ、だよ」
に対しては抵抗が少ないのか、進藤も会話に加わってきた。
「お前、ひらがなも危ういって言ったな」
「はい」
「カタカナもか?」
「そうですね・・・『カタカナ』が今、頭に浮かんでこなかったし」
不思議と進藤に対してのみ敬語になるを無視して、今度は潤に問いかける。
「とりあえず、客なら座らせてやれ」
「あ、はい!」
空いていたテーブルに潤は案内し、メニューを渡すと進藤のもとへ戻った。
「ただいま、帰りました!」
「・・・お前、馬鹿だろ」
憎まれ口を叩かれるのは何時もの事だが、今日は雰囲気が違っていた。
「はい?」
「あいつ、字が読めないんだろ」
言われてみればそうであったと思い出した頃には、時すでに遅し。
は一人、席で頭を抱えていた。
潤は慌てて彼女の元へ行こうとすると、先に一郎が動いた。
「、困ってるね」
「え・・・困ってなんかないよ?」
「意地張らなくてもいいよ?」
「・・・ちょっと、思い出せないだけだから」
字が読めない事を恥だと思っているのか、素直に教えてほしいと言えないだった。
しかし、最後の言葉で一郎は珍しく笑顔になり、は思わず見とれてしまう。
「じゃあ、青汁ムースの青海苔ケーキなんて、どう?」
「・・・遊んでるでしょ?」
「あ、分かる?」
「分かるわよ、それぐらい!」
「だったら、炭のケーキ」
「炭・・・また微妙な」
今日、炭での商品が色々と出ている為、本当にあるのかどうか判断がつかない。
困り果てたを助けるべく、潤は一郎を追いやって、正しいメニューを彼女に伝えた。
「やけに楽しそうだったな」
笑いあってる二人の様子を遠くから見ている一郎に進藤は声をかけた。
一郎は間を置いてから、首をかしげた。
「やきもち?」
「誰が誰にだ」
「進藤さんがに」
「答えなくて良い」
誰がお前をとられるかどうかを心配するんだ、と呆れる。
注文をとり終えたのか、潤が帰ってきた。
「苺のショートケーキを一つです」
一郎は潤が他の客を迎えられる状態になったのを確認し、進藤に休憩を請う。
「さっき休憩したばっかだろうが」
「うん。ちょっと、やりたい事があって」
目線の先には、がいた。
その様子で意味が分かったのか、進藤は許可をだした。
「そういうわけだ、ヘマすんなよ、お前」
「む、失礼な。しませんよ」
「するから、言ってる」
店内がいつもの雰囲気になると、十分ほどで一郎は店に戻ってきた。
だが、彼はすぐに仕事に戻らずにのテーブルへ向かった。
「はい」
ちょうどケーキが届き、食べようとしたの前に一枚の紙が手渡された。
その紙に書かれた文字を見て、は吃驚した。
「これをわざわざ?」
「読めなきゃ不便でしょ。しばらくはメニュー変わらないし、よかったら使って」
日本語の下に英訳された文字を見つめた後、は暖かい笑みを浮かべた。
今度は、一郎が見とれる番だった。
「ありがとう」
たった一言に心拍数が舞い上がる。
しかし幸せな気分は自然と笑い返すことが出来た。
「どういたしまして」
何だか良い雰囲気の二人に歩み寄ろうとする潤を進藤は頑張って行かせないようとしていた。
-back stage-
管理:突発的に書きたくなった、花とゆめ連載中の『幸福喫茶3丁目』の一郎夢。
一郎:なんで、俺なわけ?
管理:21号(12話)を読めば分かるわい!
一郎:そんなにショックだったんだ。
管理:あぁ、そうさ!悲しかったんだ!だからその想いをここにー!
一郎:グゥ。
管理:・・・熱い想いも彼には通じず。泣
2005.10.09
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