enforcement
「あ、駄目かもしれない。オレを中心に世界が回り始め・・・ぱたん」
白い壁。
冷たい床。
「血の流れが止まるような感覚がします。誰か助けてくれませんか」
先が見えない廊下。
そして、静寂。
誰も彼の声など聞こえそうになかった。
「ハスタさん。勝手に病室から抜け出すから、そういう事になるんですよ?」
声を潜めた看護士が彼の顔を覗き込む。
どうやら、彼の行動は見抜かれていたらしい。
「あー、さんや。君のような天使に救われるなら、オレはどんなに喜ぶことか」
「助けませんよ、すぐには。少しは反省してもらわなければなりませんので」
「そう言わず、不甲斐ないオレを助けてよ。お礼はたーっぷりするからさ」
さすがに、人を助ける職業に就く者ならば、これくらいで勘弁してくれるはず。
そう期待したのだが、は、まさに天使のような微笑みで答えた。
「要りません」
そこで、ハスタの意識は途絶えたのだった。
次に彼が目を開けた時、彼はベッドに寝かされていた。
一応は助けられたらしい。
しかし、その体はベッドに縛り付けられていた。
「あの、さん?」
ハスタの体温を測っていたのか、彼女は体温計を見ていた。
「何でしょうか」
「どうして、オレは縛り付けられているのだろう」
「安静して頂くために、施させているんです。文句は受け付けませんよ」
記録し終わったが病室を去ろうとするので、ハスタは引き止める。
これ以上、入院生活を窮屈なものにしたくなかった。
「こんな状態じゃ、ご飯が食べられないんだポン」
「ご心配なく。今のハスタさんは食べてはいけない状態ですから、必要ありません」
容赦ない対応に傷つきながら、ハスタは退屈だと、ぼやくしかなかった。
「オレの先生は、もう安静にする必要はないと言っていました」
点滴の交換をしているに、ハスタが声をかける。
ハスタの傷が徐々に治っていき、彼は歩きまわるだけなら可能だと告げられていたのだ。
なのに、いまだにベッドに繋げられたままでいる彼は不満である。
「聞きましたよ。でも、ハスタさん、絶対に無理しますよね?」
「しません。神に誓います!・・・オレ、神様なんて信じてないけど」
「そもそも、解放したら何をするつもりですか?」
カルテを胸に抱いて、彼の話を聞く。
その質問にハスタは即答した。
「甘い物が食べたい!今のオレは糖分不足で、脳に血が回らないのデス」
「そうですか。そういえば、病院の食堂にパフェがありましたね」
何やら思案するの様子にハスタが期待する。
もしかしたら、少しくらいは許してくれるのではないかと。
彼女の笑みは、今度こそ本物なのではないかと。
「果物だけなら、食べさせてあげます」
「それだけ?もっと甘くて、体も心もとろとろ〜ってなりそうなアイスの方が食べたい」
「そうでなければ、出された食事のみを食べさせるしかありません」
きっぱりと言い放ったに我慢ならず、ハスタは暴れだした。
彼が寝ているベッドが揺れる。
「どうしてオレのやりたいようにさせてくれないんだ!オレに自由を!」
駄々をこねる子供のように喚く彼をは一言で黙らせた。
「静かになさい!」
ぴたりと動きが止まったハスタは、かなり精神的に参っている。
すっかり元気をなくした彼を不憫に思ってか、はハスタをベッドから解放した。
「パフェなんか持って帰ってきたら、何と言われようと、取り上げますからね」
解放されたハスタは、すぐさまベッドから抜け出す。
「この機を見逃さずに逃亡するべきと判断」
そう言って走り出そうとするが、一歩目から彼は転んでしまった。
「可笑しい。まるで存在しないかのようなほど、足の感覚がしないピョロよ」
「当たり前です。ずっと動かしてなかったんだから、歩けるはずもないでしょう」
にとっては、全てを見越しての解放であった。
どうしようもないハスタは仰向けになり、天井を見る。
「死んだほうが楽だなー、こりゃ」
誰もその言葉に返事してくれる者はいなかった。
- back stage -
管理人:Kさんとのメッセ中に出てきたネタを使って書いてみました。
ハスタ:何コレ。オレを苛めて楽しもうって話?
管理人:半分そうだね。もう半分は可愛い君を書こうとしたんだけど・・・忘れてた。
ハスタ:忘れたって言っちゃったよ、この人。どうして重要なところを忘れるんだりゅん。
管理人:・・・君のそのわけ分からん口調を少しでも違和感なく書けるようにするためだ!
ハスタ:オレ。オレのせいなわけ?君は、ろくでもない大人だね。
管理人:私が大人だというのなら、世界は既に滅んでるさ。
ハスタ:そうかもしれない。てなわけで、悪いものは駆除しよう。
管理人:結局、あんたは血を流したいだけだろーが!
2008.03.21
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