「なぁ、ポッキーゲームせえへん?」


ボヌールに連れられた私は、柏が何を企んでいるのか予想もつかなかった。



cheating




 「いきなり来て、何言ってんだ、お前?」


進藤さんがすごい目つきで柏を睨みつける。
どうしたんだろう、今日は機嫌が悪いみたい。
柏は気にしないで話を続けた。


 「せやから、ポッキーゲームしよ。誰が一番、と相性ええんか調べるんや」


私の肩を抱いて、笑顔で言われても困る。
何で、ただのポッキーゲームじゃないわけ?
どうして、私が中心になってるわけ?


 「へぇ。俺に挑戦しようってわけ、あんた?」


余裕のある笑みを浮かべた一郎が、私の腕を引っ張る。
バランスを崩した私は、一郎に抱きついてしまった。


 「そうや。より長く折れなかった方が勝ちや。」


勝負の勝敗を決めるお菓子を取り出して、柏が喧嘩を売る。
この二人、ここまで仲が悪かったのか。
て、そんなこと考えてる場合じゃないよ、私?


 「ちょっと待ってよ、被害者の気持ちは無視なわけ?」

 「被害者って、誰の事や?」

 「に決まっとるやろうが」


店番から抜け出してきたのか、草が柏の頭にチョップをいれる。
そして、私と一郎の方に体を向けると、一郎に向かって指差す。


 「お前も!から手を離さんかい」


一郎に対して深い傷を負っていると聞いたことのある私は、彼に拍手した。
その勇気は称えたい。
称えたいんだけど・・・問題が一つ。


 「て、何、寝とんねん!」


重みに耐えられない私のためか、仕事をさせるためか。
進藤さんがお菓子を一郎の口につっこんだ。


 「じゃあ、この四人でゲームする?」


起きた一郎のこの一声と鳴らされたゴングによって、ゲームは始まってしまった。



<一戦目:安倍川 柏>


 「ほなら、まずは俺から」


お菓子を口に銜えた柏の顔が、近づく。
私は、思わず後ずさった。


 「照れてたら、あかん。ほれ、も噛み付き」


逃げ場が無い私は仕方なく噛み付く。
それを見た一郎がスタートの掛け声をした。


柏も、中身はともかく、外見は格好良い。
至近距離で、顔が近いのが恥かしくて、ゆっくりと進んでいった。
柏はニッコリと微笑んで私が近づくのを待つ。
これじゃあ、ゲームにならないじゃないの。


 「自分も早よ動けや!」


半分以上の丈が無くなると、草がまたチョップをいれる。
その反動で、お菓子は折れた。


 「何すんねん、阿呆!あと、もうちょいやったのに!」

 「阿呆は、こっちの台詞や!ルール違反やろうが!」

 「微妙に動いてたわ、微妙に!」


ミリメートル単位を指で表す兄を弟が殴り倒す。
ボヌールを訪れていた客は、皆その様子を呑気に笑っていた。
・・・良い人達なんだか、面白がってるだけなんだか。



<二戦目:安倍川 草>


 「はい、弟もやる」

 「ええ!?お、俺は、別に・・・」

 「やるったら、やる」


一郎に即されて、草が嫌々私の前に立つ。
なんだか可哀想に思えて、謝ってしまった。


 「のせいやない。こんなの、とっとと終わらせればええんや」


笑って頭を撫でてくれた彼に安心して、私はお菓子を口に挟んだ。
その先を銜えるよう、草に向ける。
時間をかけて端を口に含めた草の顔は真っ赤だった。

一郎の掛け声で、互いの距離が縮まっていく。
草も格好良い顔をもってるよなぁと照れながらも見てたら、不自然にお菓子が割れた。


 「あかん!もう耐えられん!」


どうやら、顔が近いのが照れくさかったらしい。
そういうところは、可愛いよね。
草は半分ぐらいのところで、自らがお菓子を折ることによってゲームを強制終了させた。



<三戦目:進藤 咲月>


 「お前らな、ここがどこか分かって遊んで・・・」

 「進藤さんもゲームに参加して」


一郎と柏に背中を押されて、私の前に立つ。
今日は機嫌が悪そうだからそっとしてあげたいんだけどな。


 「しないのか、ゲーム?」

 「あ、し、します!」


そのわりには、ゲームには乗り気?
お菓子をお互いに銜えると、一郎がスタートを告げる。
さっきの兄妹よりは、普通にゲームが始められた。
無事、半分ほど折れずにいたら、店内に元気な声が広がった。


 「遅れてすいませんっしたー!」


さっきから姿が見えないと思っていた、バイトの潤が現れた。
そっちに視線を向けてしまった私達はお菓子を折ってしまった。


 「あ、折れちゃった」


私がそう言うと、進藤さんは互いに至近距離であることに気づいたのか、顔を赤くした。
口元を押さえてばつが悪そうな顔なんて、初めて見た。


 「何やってるんですか?」


照れた進藤さんを見て、こっちも照れてしまった。
状況が分かっていない潤の声で、現実に戻された。



<最終戦:西川 一郎>


私達が何をしているのかを聞いた潤が、今度はスタートを言う係りになった。
何も考えていないかのような顔つきで食べ進む一郎に合わせて、私も進む。

お菓子が他の皆と同じぐらいの距離になる。
次はいつ折れるのかな、と気を抜いてれば、先に進めなくなっていた。


 「卑劣な手を使いよって!」

 「今すぐから離れろ!」

 「わはぁー。一郎君、大胆・・・」

 「・・・・・・」


ギャラリーが何だか騒がしいけど、何が起こったんでしょうか。
何で、正面にいるはずの一郎の顔が見えないのでしょうか。
誰か、私に現状を説明してほしい。


どうして、私は前に進めなくなってるの?


一郎の瞳が覗けるようになると、彼は私に向かってにやりと微笑んだ。
ぺろりと舌を舐める一郎が安倍川兄妹と言い争いを始める。
私は、呆然と何かを感じた唇に手を添えるしかできなかった。



<勝者:西川 一郎>


 「俺が一番、と相性いいって分かった?」

 「今のは無しやろ、無し!」

 「一気に菓子を食うやつなんて、おらんやろうが!」

 「ていうか、いい加減に仕事に戻れ。んで、お前らは、帰れ」










-back stage-

管理:優実さんから、「逆ハー・一郎オチ」でリクを頂きました。
一郎:彼女のみ持ち帰り/返品可能だから。嫌だったら、言ってね?
管理:まるで最初から嫌だと思うような作品だと言わんばかりやね。
一郎:あんまり俺が活躍してなかったから、当然でしょ。
管理:しとるやん!思いっきり色々やっとるわ!
一郎:本当に、返品したかったら自由にしてよ?
管理:おい。

2007.01.25

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