ジェリーの観察日記・壱
「、もう8時だ。起きた方が良いんじゃないか」
やけに声を近くに感じたが、目を覚ます。
自分の体に覆い被るようにベッドの上にいた男に驚きもせず、寝返りをうった。
「あと少しだけ・・・」
「昨日は、それで寝坊したと騒いでいただろう。今、起き上がるべきだ」
真面目なところは、変わっていない。
は文句を言いながら、体を起こした。
そこに、インターホンが鳴る。
ぴくりと耳を動かしたジェリーが聞いた。
「今の音は?」
「誰かが玄関に来た音よ。オレンジ、誰が来たか教えて」
言われるがままに、ジェリーはドアを開けに行く。
彼に迎えられた方は、困った顔をしていた。
「なんだ、ギルバートじゃない。どうしたの?」
寝室から顔を出していたが姿を現す。
彼女がまだ起きたばかりの様子であることより、ギルバートは目の前の男を指して言った。
「これは、何だ」
「ジェリー。なかなか可愛いでしょ?」
「大の男が猫耳と尻尾を生やしていることがか?」
「そう言うだろうから、『彼』の記憶は消してるってば」
「問題は、そこじゃない」
ギルバートの知るジェレミア・ゴットバルトは、ここにいない。
初めて見ると思っているジェリーは、興味深そうに彼の顔を見つめていた。
その真っ直ぐな視線に耐えられず、ギルバートは目を逸らす。
「全く。今度の実験も低俗なことだったか」
「失礼ね、どこが低俗よ。人体に影響が無ければ、コーネリア様に服用する事もできるのよ?」
さぞかし可愛らしくなるでしょうね。
猫耳を生やして甘える姿を勝手に思い浮かべてしまったギルバートは、顔を赤くした。
まんまとの言葉に乗せられた彼が、早く用件を済ませて帰ることにする。
「頼まれていた、彼の服だ」
大き目の紙袋をに差し出す。
中身を確認した彼女は口先を尖らせた。
「これだけしか提供してくれないの?」
「十分だろう。あとは、飼い主の貴様が用意しろ」
さらに搾り取ろうとする彼女の思惑は上手くいかない。
諦めて、はその袋をジェリーに渡した。
「白のワイシャツに黒いズボン。シンプル且つ無難ね」
「これをどうすれば良いんだ、?」
「貴方の服よ、部屋に置いておきなさい」
クローゼットに片付ければ良いから。
彼女の言葉に従うジェリーをギルバートが呼び止めた。
「その服に着替えて来い。いつまでも拘束された時のままの服を着る必要も無いだろう」
「お前が何を言っているかは分からないが、私は以外の人間の言う事は聞かない」
親切で言っているつもりだったが、ジェリーには迷惑だったようだ。
が宥めて、着替えるよう命じると、大人しく部屋に入っていった。
「あれが、本当に、あのジェレミア卿か?」
ギルバートが一句一句、慎重に口にする。
何を心配しているのか分からないは、平然と答えた。
「そうよ。あのキザで自信家なことで有名なジェレミア・ゴットバルトだけど?」
「記憶が戻ったら、大変なことになりそうだな」
彼の性格を知っているなら、何故恐れが無いのかとギルバートは不思議がる。
しかし、は一言で片付けた。
「その時は、その時よ」
「はぁ。楽観的というか、考え無しというか・・・らしいな」
「それは、褒められたと思っておくわ」
微笑まれてしまっては、もう何も言えない。
ギルバートは、また一つため息をしてから仕事場へ向かうことにした。
「一時間の遅刻を伝えておくから、それまでには仕事に就くんだな」
「ありがと、ギルバート。そういう優しいところ、愛してる」
心にも無いことを言うな。
そう言い残して、彼は去った。
一方、は時間に余裕ができたことにより、朝御飯を考え始める。
踵を翻せば、そこには不機嫌そうなジェリーが立っていた。
「おお。さすが顔が良いだけあって、格好良くなったわね」
シャツをズボンの中に入れる生真面目さは抜けないみたいだけど。
笑いながら、彼女は彼のシャツをズボンから出す。
相手の好みを押し付けられたというのに、ジェリーはされるがままだった。
さすがに第二ボタンまで外したも気味が悪くなる。
「どうしたの、オレンジ?服、気に入らない?」
「それなら、最初から着ない」
「そりゃ、そうだ」
ならば、何故黙ってるのか。
思考を巡らせていると、その原因を教える気の無いジェリーは、背を向けた。
「トーストは、何味だ?」
「ブルーベリーで」
自分で作らなければ食事が出ないことに慣れてしまい、料理担当としてもジェリーは役にたっている。
には嬉しいことだらけであった。
彼を実験体に選んで正解だったと喜んでいた。
「今日は、スクランブルエッグがいいなぁ」
そんな彼女の我侭をどうしてか聞き入れる彼に食事は任せて、は着替えることにした。
-back stage-
管理:嘘っぱちなオレンジ君連載。
オレ:だから、自分から嘘だと言うな。
管理:人に言われる前に言っておけば、文句も言えまい。
オレ:貴様・・・性格、直した方が良いぞ。
管理:この話の君みたいには、なれんね。
オレ:私だって、なりたくてなってるわけじゃない!
2007.04.12
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