ジェリーの観察日記・弐
ふと思ったことを口にしようと、ジェリーは振り返った。
片手にフライパンを持って調理している途中なのだから、十分に注意しなければならない。
その彼は今、面白がったロイドから貰ったフリルのエプロンをつけていた。
睡眠時間が少なかったのか、起きてからずっと欠伸しかしない。
彼女はキッチンの傍にあるダイニングテーブルに腰をかけていた。
「」
「んー。ああ、おはようの挨拶がまだだった?」
そう言うと、彼女は立ち上がってジェリーに近寄る。
反射的に屈んだジェリーは頭を撫でてもらいながらも、訂正した。
「それは、もうしてもらった」
「そう。だったら、どうしたの?」
真っ直ぐに立っていられないを見かねて、ジェリーは火を消す。
その体を支えてあげながら、を椅子に座らせた。
しかし、彼女は眠たそうにするだけ。
ただでさえは答えをはぐらかし易いというのに、彼は質問にきちんと返してくれるか不安になる。
「何故、私はここにいるのだ?」
さすがに、もそのような質問がくるとは思っていなかったらしい。
少し眠気が飛んだ彼女は、意外にも素直に答えた。
「面白そうだったからよ」
だが、それが相手にとっても真面目に捉えられる発言であるとは言い難い。
「真面目に聞いていたのだが」
「あら、すっかり信用無いのね、私って」
は笑いながらも、起き上がっているのが疲れて、テーブルに伏せる。
遊ぶ気力も無さそうなの様子を見て、彼は彼女の言葉を信じることにした。
生活に不満があるのだろうと考えたが、質問を返す。
「オレンジは、自給自足の生活がしたくなった?」
「そういうわけではない。ただ・・・」
「ただ?」
戸惑う彼に、は不思議がる。
「この耳と尾は、私以外はつけていない。それが気になっただけだ」
「ああ、それ。それはね、私の趣味」
今度こそ正気とは思えない回答。
何も言えないジェリーを放って、は続けた。
「やっぱ、賢いのね、オレンジって。ここに貴方がいることと、耳としっぽに関連はあるわよ」
「い、一体、どんな関連が」
「それより、朝御飯、まだ?そろそろ食べないと、遅刻しちゃう」
しっぽをギュッと掴んで、ジェリーを驚かせる。
主人に命令されては、彼はご飯を準備するしかない。
仕方なく作業に戻った彼の後姿を見つめながら、は呟いた。
「解毒剤、作っておいた方が良いのかしら」
いつ完成するかも分からないものを考え始めているうちに、彼女はいつのまにか眠っていた。
「」
やけに静かであることに不安がり、ジェリーは再び振り返る。
眠るの姿をとらえ、彼は手を止めた。
「今日は絶対に仕事へ行かなくてはいけない日では?」
優しく彼女を起こしてあげるが、彼女は言い放った。
「寝る」
「だが、仕事は」
「頭痛い」
「寝ていないからだろう」
「ダルい」
「それも、寝ていないからだ」
立ち上がらせようと彼女の腕を掴むと、ジェリーは異変に気づいた。
先程、頭を撫でてもらっていた時よりも体が熱い。
体温計を出してくると、それで彼女の体温を測った。
「37.2度か。風邪の可能性があるな」
の体温が普段は低いことから、体に負担がかかるのは理解できた。
しかし、交流が多くなった彼女の知人や職場の人間からは、今日の仕事の大切さを知らされている。
どうすべきか、ジェリーは悩んだ。
「お願い、オレンジ」
彼の考えていることが分かっているのか、は寝たまま頼む。
その姿を見て、ジェリーは先程のの素直さにも納得がいった。
「がいなくてもどうにかならないか、聞いてみよう」
度々遅刻をする彼女にかかる電話のおかげで、どこにかければ良いかジェリーは把握している。
顔が熱ってきたをベッドで休めてから、彼は彼女のために動いた。
「なぁんてね」
ベッドの中で、が笑みを浮かべる。
彼女は、風邪などひいていなかった。
「騙されやすいのね、あの人。おかげでズル休みできたけど」
体温は普通に戻っている。
布団を蹴飛ばして、は大の字になった。
「あ、アレをいれたら、解毒になるかしら」
ふと浮かんだ、解毒剤の作り方を考え始める。
すると、眠気がすっかり飛んでしまい、彼女は研究をしたくなってきた。
だが、今の状況では何もできない。
ここで動いたら、ジェリーが大層怒るであろう。
「ああ、風邪のふりだなんて、しなければ良かった」
-back stage-
管理:甘い話で行くかと思いきや、やっぱ違う終わり方で。
オレ:相当、演技が上手いうえに細工までもできるのか。
管理:すごいよねー、この人。
オレ:自分が書いているのだろう。
管理:じゃあ、次は目指せ、甘要素?
オレ:私に聞くな!
2007.09.07
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