「オレンジの汁がどばーっと」

 「気味の悪い言い方は止めてもらいたい」


手を大きく広げてまで、大げさな喋り方をするを黙らせる。


 「それでね、どばばーっと汁が飛び散って、壁を汚したの」


しかし、彼女は黙らなかった。
幼稚な思考能力を持つの前で、テーブルを力強く叩く。
体が飛び上がるほど驚いた彼女は口を閉じた。


 「汚したなら、拭けば良いだろう」

 「したの。そしたら、壁がオレンジ色になっちゃった」


ああ、それでこの有様か。
キッチンは、まるで野生動物が荒らしていったかのようだ。

その中心には、ミキサーが置いてあった。
蓋をするのを忘れて作動させたらしい。


 「どうせ、貴様のことだ。汚れを擦ったのだろう」


ここまで酷いなら、後で壁を張り替えてもらうように言った方が早そうだ。


 「よく分かったね、ジェレミア。かしこーい」

 「貴様が考え無しなだけだ」


どうして、私はこんな女と生活を共にせねばならないんだ。

二日間だけ預かってもらいたいと言われて、仕方なく了承したが。
これのどこが、名のある貴族の娘だというのだ。
一般的な常識が無いだけならともかく、反省の色すら見せないぞ。


 「ジュースが飲みたかったのなら、今度からは買って来い」

 「買うよりも作った方が美味しいもん。だから、オレンジを買ってきたの」


でも、一度も自分で作ったことが無かったのよね。
あっけらかんとしたが笑う。


 「そういうところで、貴族の娘というのが現れなくてもいい」

 「えっと、これの蓋を閉めればオッケーなんだよね?」

 「ちょ、ちょっと待て!」


洗いもせず、皮も剥かずに直接オレンジを入れられるだけ入れるを止める。
しかし、それは遅すぎた。


 「んー?また失敗したよ。ジェレミア、これ壊れてる」


ぎゅうぎゅうに詰め込まれたオレンジのせいで、ミキサーが動かない。
キッチンがこれ以上酷い状態にならないことに安堵していたら、それは動いた。
彼女の手が蓋から離れている時に。


 「壊れてるんじゃない!詰めすぎたから動かなかったんだ!」


飛び散ってくる果汁を手で遮りながら、電源を消す。
私まで巻き添いにしたというのに、は笑った。


 「あはは、オレンジまみれ」

 「笑い事か!」


怒鳴っていることに疲れ始めてくると、は突然大人しくなる。
次は何が来るのかと身構えていると、意外にも謝罪の言葉だった。


 「ごめん。ジェレミアが怒っても仕方ないこと、してるんだよね」


やっと分かってくれたか。
ポケットからハンカチを取り出して、とりあえず彼女の顔を拭いてやる。
されるがままのが、私に気を遣いながら続けた。


 「勿体無いことしたもんね。ジェレミアが怒るのも当たり前だよ」

 「待て。何を思って、謝っている?」


自分が考えなしに行動して失敗していることに対してでは無さそうな発言に訊ねる。


 「ジェレミアの好きなオレンジを台無しにしたことを怒ってるんでしょう?」

 「断じて違う!」


どうして、私がオレンジ好きだと思うのか。
ゼロのせいで屈辱を味わってしまってからは、むしろ嫌いだ。
その果実の名すら口にしたくない。


 「皆、ジェレミアを『オレンジ』って呼んでるじゃない。よっぽどオレンジが好きなんでしょう?」


事情を知らないにも程があるだろう。
大方、私が気に入らない者がに嘘を吹き込んだに違いない。


 「好きではない。むしろ、見るのも名を聞くのも嫌なほどだ」


果汁がベタベタとして気分が悪くなる。
早くに風呂へ入れと即すが、一歩も動かない。
じっと私の顔を見ていた。


 「何が言いたい」

 「ジェレミアの照れ隠しって、すごく分かりにくい」

 「怒ってるんだ!」


誰だ、そこまで吹き込んだのは。
私の言うことを信じたかどうか怪しいは、スキップしながらバスルームへ向かった。


 「素直になった方が可愛いよ!」




ああ、その様子だと、私の言うことは全く聞いていないな。



listen to me!











-back stage-

管理:オレンジ苛め!えっと・・・第5弾。
オレ:確認しないと言えないのか。
管理:浮かんでるネタは多くても、実際に書いてるのは少ないからねー。
オレ:・・・全て、苛められるネタなのか?
管理:基本的には苛められてるかもね。
オレ:真面目に『オレンジ』ではなく『ジェレミア』として書いてくれる日は・・・
管理:くるか分からん!(笑)
オレ:『(笑)』って何だ、『(笑)』って!書く気ないだろう!

2008.08.17

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