決意




今朝も出勤する為に靴の紐を結ぶ彼の背を見つめる。



いよいよ戦争が始まるというのに、彼は足が速いから、相変わらず自宅から出勤。
他の兵士は野営してひたすら歩くしかない事と比べたら、大分贅沢をしている。


それでも時々不安になる。
彼が天然道士というものだからって、必ずしも戦争を生き抜くことなんてできない。


所詮は人間。
心臓を止められたら、どうしようもない。



 「どうかした、?」


あどけない笑みで聞いた武吉はすでに行く準備を終えていた。
帰ってこれるか保障がないなら、今のうちに聞いておくのも手かもしれない。


 「すっかり、あの道士の言いなりになっちゃったよね。」

 「お師匠様のこと?」

 「命の恩人だか知らないけどさ。いい駒として動いてる気がする。」


今までずっとずっと言いたかった言葉を吐き出す。
太公望という人物が現れてから、武吉は今まであの人の言いなりだ。
これからも、死ぬまで変わらないだろう。


 「前にも言ったじゃないか。あの人はすごい人だよ。」

 「そりゃすごいだろうね、仙人界の人なんだから。」

 「そういう意味だけじゃなくて。」


このままじゃ遅刻しちゃうな、と彼がぼやいたのが聞こえてしまった。
そんなに私と話をするのは嫌なわけ?


 「早く死にに行けばいいのよ。」


八つ当たりする私も最低だ。
滅多に怒らない武吉も黙ってはいなかった。


 「何でそんな事を言うわけ?」

 「武吉が恩義に報いたりするからよ。相手は利用するだけ利用してるんじゃない。」

 「違う!お師匠様には僕が無理を言って傍においてもらってるんだ!」

 「それも策略の一つでしょうが。」


鼻で笑えば、顔の横で何かが掠めた。
その直後に耳の近くで壁が壊れる音がする。


 「いくらでも、それ以上言ったら許さないよ。」


手を離すと、パラパラと壁の破片が落ちる音が耳に入る。
盗み見をすれば、壁には穴ができていた。


 「これは僕が決めたことだ。」


彼が何故あの道士についていこうと決めたのかは理解できないけど。


 「じゃあ、仕方ないか。」


武吉が決めたことを応援してあげるのが、私ができる唯一のこと。


 「いってらっしゃい。遅刻しちゃうよ。」


また微笑んでくれた彼を私は笑顔で見送った。







-back stage-

管:がんばってみた武吉夢。
武:うわー、なんか怖いなぁ。
管:男らしいっしょ?
武:僕らしくない気がするし、お題に沿ってない気もするけど、まぁいいか。
管:・・・さりげに痛いところつっこんでくるなよ。

2005.01.07

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