「はい、これプレゼント!」


バカサイユでのランチタイム。
控えていたを呼んで、悟郎は小さな箱を渡した。



グレープフルーツ




 「私に……ですか?」

 「そうだよ。ちゃんと翼の許可はもらってるから安心して!」


が断る前に彼女の杞憂を解決させる。
彼女が確認をするように翼を見れば、翼は微笑み返した。


 「それでは有り難く頂戴致します」

 「うん!きっと、ちゃんも気に入るよ〜」


過去の経験からか、少しばかり不安が残る。
仕事中とはいえ、は開けてもいいか訊ねた。
悟郎と翼以外も中身が何であるか知らないようだ。
彼女がゆっくりと箱の中身を取り出すのに注目した。


 「これは……香水ですね。ですが、私は……」

 「分かってるって!キツい匂いは苦手で、しかも仕事には邪魔、でしょ?」


だから翼に許可貰ったの、と悟郎は答える。
メイドが香水をつけて仕事をすることが許されたことに驚きつつ、はまた翼を見る。
今度は目が合うと、逸らされてしまった。


 「悟郎がしつこかった……あ、いや、その程度の香りならいいかと思ってな」

 「ほらほら、翼もああ言ってるんだし!さっそく、つけてみてよ」


悟郎がの手から香水をとりあげ、彼女の手首につける。
ほのかにグレープフルーツの爽やかな香りがした。


 「あ……いい香り……」

 「でしょ〜?これなら、香水が苦手なちゃんでもポペラ平気!」

 「ええ、本物のグレープフルーツと変わらない香りですね。ありがとうございます」

 「えへへ。なくなったら、いつでも言ってね!また新しいのをプレゼントしちゃうから」


普段見せる笑顔が少し和らぎ、彼女は礼を述べる。
悟郎はそれが嬉しくて、をいつも以上に強い力で抱きしめた。


しかし、それを面白く無さそうに見ている少年がここに一人。
それに気づかないは、その後無事に仕事を終えて家へ帰った。










ふと、は人の気配を感じて、目が覚めた。
もう夜中だというのに、誰だろうか。
寝ぼけているせいか、不審人物であったことの場合が頭に浮かばないでいる。
暗闇で動く人影をしばらく見つめてから、彼女は口を開いた。


 「清春さん、ご自身の睡眠時間を削ってまでして私の睡眠を妨害するのは楽しいですか?」

 「うお!?」


どちらかというと驚いたのはの方だったが、清春は怒鳴り散らす。


 「ンだよ、ビックリさせンな!オマエは眠ってればいいンだヨ!」

 「そのためにも、清春さんには帰って頂いて……」


言い終える前に、の目に清春の手元が映る。
暗闇に慣れてきた彼女には、どう考えてもメイド服であると判断できた。


 「何をしてるんですか?」


起き上がって、彼に近づく。
清春が慌てて隠そうとするが、間に合わなかった。
そこには、バケツにつけたメイド服がある。
僅かに鼻につく匂いから、バケツの液体がグレープフルーツだと理解した。


 「人の仕事服をグレープフルーツに漬ける趣味が理解できません」

 「グレープフルーツは、もちろん果汁100%だぜ!」

 「……もしかして、このバケツ分のグレープフルーツ、ご自分で搾られたんですか?」

 「あったりめェだろ!オレ様は手を抜かねェからな!」


彼の担任がこれを聞けば、どう思うのだろうか。
あまりにも予測不能な出来事に対処しきれず、違うことに気をとられてしまった。
はもう一度聞く。


 「どうして、私の服をグレープフルーツに漬けていたのですか」

 「服に匂いをつけたら、オマエがわざわざ香水をつけなくてもいいダロ?」


名案だと清春は笑う。
それに、と彼は付け加えた。


 「悟郎みたいなヤツが二度と現れないようにもできるしなァ?」

 「……香水のことで、清春さんがそこまで苛立つとは思いませんでした」


悟郎と翼に認められていただけで、彼には歓迎されなかったのかもしれない。
そういう意味なんだとは解釈したが、そうではなかった。
昼に悟郎から貰った箱と同じ大きさの物を清春から手渡される。


 「だからァ、悟郎のはオレが持って帰って処分してやっから、オマエはこれでも使え!」


開封すると、悟郎から貰った香水と同じ物が出てくる。


 「無くなったときもオレ様に言えよ。グレープフルーツはオレ様の眷属だからな!」

 「……せめて、レパートリーや管轄という言葉をご利用下さい」


或いは、そこまで言えるほどにグレープフルーツを知り尽くしているのか。
用が済んだ清春は全く気にせず、悟郎が渡した香水を持って帰っていく。
放置されたバケツの中のメイド服を見て、は諦めた。


 「悪戯対策で色々な箇所に服を置いていて、助かったわ」


被害にあっても大丈夫であった服よりも、バケツの中の液体をどう処分するかで彼女は悩んだ。














- back stage -

管理:グレープフルーツ好きなキヨに捧げる。
清春:オレが好きなのは、ガムの味だっての!
管理:いやー、しかし、この悪戯、実はまだ抑え目ですのよ。
清春:ア?あー、確かにオレにしちゃ地味だな。
管理:最初はバカサイユでグレープフルーツ(液体)を被せようかと思ったんだ。
清春:フーン。で、何でしなかったンだよ?
管理:その後の片付けが面倒だから。
清春:やけに現実的な回答だな、おい。オマエが綺麗にするわけでもねェのにヨォ!
管理:だって……想像するだけで嫌だったんだもん……!


2008.10.07

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