「へえ。なかなか、いい景色じゃない」


何も知らず、何も知ろうとしなかった結果が、目の前に在る。


 「ねえ、貴方もそう思わない?」


青白い顔をした少年は、黙って俯く。
あの日の過ちを思い出し、目の前で消えた命を忘れられないでいた。


 「そう。貴方も気に入ってるのね、この景色」

 「そんなことっ」

 「気に入ってるんでしょう?」


アクゼリュスの在った場所を上空から見ているは、とても楽しそうだ。
悦に入っているほどに。
このような悲惨な姿を見て、どうして笑っていられるのだろうか。


 「俺は、滅ぼしたかったわけじゃない」

 「でも、結果的に滅ぼした」

 「そんなこと、分かってる!だから、俺は」

 「罪を償いたい?とんだ愚見ね」


少年の仲間がいない隙にアルビオールを奪ったは、鼻で笑う。
その態度にノエルが腹を立て、動こうとすれば、突き出された短剣が彼女の動きを止めた。


 「貴女は運転していればいいと言ったはずよ?」

 「止めろ!ノエルに手は出すな!」

 「先に命を投げ出したのは、彼女じゃない」


無駄な殺生は端からする気がないようだ。
ルークに言われたとおり、はノエルから目を離した。
ホッとするも、まだ気は抜けない。
外の景色を見ないようにして、彼は質問した。


 「おまえは、何が言いたいんだ?」

 「呆れた。貴方、あの時から成長してないのね」


少しは落ち着いたみたいなのに。
特に残念がることもなく、は外を眺める。


 「まあ、この景色に対しての感情は変わってるかもしれないけど」

 「当たり前だろ!俺のせいで、亡くなった人達が大勢いるのに、平気なわけない!」

 「平気なものよ。そうしなきゃ生きていけない立場ならね」


貴方の友達は、そう考えるわよ。
くすりと微笑むを見たルークは突然、何かに惹き込まれる。
彼女から目を離せなくなっていた。


 「だけどね、それなら楽しんだ方が良いに決まってるでしょう?」


すっとルークに顔を近づかせ、彼の頬に手を添える。


 「貴方は、それだけの力を持っている。それは魅力的なことよ」


彼女の親指が、彼の唇をなぞる。


 「もっと人を殺しなさい。そして、感じなさい。人を殺す時の感覚を」


触れる程度の口づけをし、ルークの目を見つめる。


 「もっと人が死ぬ時の悲鳴を聞きなさい。身震いするほどの経験を積みなさい」


今度は、長い間、唇を重ねる。
再びが見つめた時には、彼の目に光は無くなっていた。


 「そうして、暗い、暗い世界へと堕ちていくの。この街のように」


彼女の舌が、彼の口の中に入る。
彼の心を蝕む毒を気づかぬうちに取り込んでいく。


 「人を殺すことでしか、生きていることを感じないくらいに」


その冷笑から、目を逸らすことができない。
ルークはに心を委ねることに抵抗を感じなくなっていた。


 「ルークさん!」


危険を感じたノエルの叫び声を耳にし、ルークは慌てて下がった。


 「あら、残念。いい遊び道具になりそうだったのに」

 「遠慮する。ジェイドも相手できないような女、俺だって関わりたくねえよ」

 「ジェイドは照れ屋だから、特別なの」


今まで見せていた表情が全て無くなり、彼女の顔から感情が消えた。
ノエルに近くで着陸するよう命じ、は大人しく帰ろうとする。


 「待てよ!」


どうしてか声をかけてしまったルークは、自分でも訳が分からず、次の言葉が見つからずにいる。
そんな彼を見たは、初めて彼に向けて柔らかい笑みを浮かべた。


 「大丈夫よ。貴方は生かしてあげるから、また会えるわ」


危険な目にあってばかりだというのに、その言葉に安堵したことに気づかない、愚かなルーク。
彼女がかけた呪(まじな)いは、まだ解けていない。
それどころか、ますます強まっているだけだった。





言霊








- back stage -

管理人:ジェイドを殺めたいヒロイン設定で、またもや。
ルーク:しかもこれ、続編っぽくねーか?
管理人:ぽいねぇ。「呪い」の。
ルーク:最初は、そんな流れじゃなかっただろ!?
管理人:だねぇ。でも、話が途中で変わっちゃうのは、いつものことさ。
ルーク:だったら、せめて攻略本無しでも手軽に書けるようにしろよ。
管理人:に、人間、ど忘れすることだってあるもんよ?
ルーク:だからって、ギンジさんを覚えてるのに、ノエルを忘れるなよな。

2009.03.15

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