初めてのlove letter



 「おはよう、ショウちゃん!」


職員室に入ってきたが元気に挨拶をする。
彼の後輩がここにいれば、『ショウちゃんって呼ぶな!』と騒がしかったことだろう。


 「おはようございます、さん」

 「えへへ。今日も届けに来ました、私の思い!」


渡された手紙を受け取り、彼は念を押す。


 「私とあなたの関係は理解していますよね?」

 「分かってるよ。だから、告白も3年生になってからしてるじゃない」

 「あれは・・・今思い出しても信じられないことです」






あの問題児とされるB6と唯一仲が良い女生徒の、
彼女もまた問題を起こすことはあるが、正義を重んじて悪者に悪戯をするだけ。
ゆえに、生徒も教師も何も言わないどころか、支援する者がいるくらいである。


そんな彼女がいるクラスの担任を今年受けもつことになった、二階堂衝。
新しい一年が始まる日のHRで、それは起こった。


 「先生、終わる前に一ついいかな」

 「さん。何か問題でも?」


大したことではないだろうと思っていた二階堂は軽く受け止める。
彼女は立ち上がると、彼を見つめて言った。


 「私、ショウちゃんのことが好きなの」

 「・・・そうですか、ありがとうございます」

 「あ、真剣にとってない!一大決心の告白なのに!」


しかし、クラスメートもそれを本気だと捉えてない。
何かの見世物の一つかと思われていることに不満を持ち、は宣言した。


 「これより先、ショウちゃんに手をだす女は、私が許さないんだからね!」

 「本気・・・ですか、さん?」


生徒の前で威勢を張る彼女に確認をとる。
もしそうだとしても、彼は気持ちに答えることはできない。
そのことを読まれたのか、は先手を打った。


 「マジだよ、ショウちゃん。1年の時から、ずっと好きだった」


笑顔で答える彼女が続ける。


 「答えは先生と生徒の関係が終わってからでいい。それまでは、アタックし続けるけどね」


だから、ちゃんと一人の女として見て欲しいと告げた彼女の言葉を聞き、ようやく周りが騒いだのだった。








 「あの時が懐かしいね〜。私ってば、初々しくて」

 「あれのどこが初々しいんですか。むしろ、勇ましかったですよ」


恥ずかしがる人間ならば、クラスメートの前で堂々と告白など難しい。
呆れた二階堂に、はふくれっ面を浮かべる。


 「今も十分、初々しいの!毎日、こうしてラブレター贈るまめさを褒めてよ」

 「下手すれば、ストーカーの迷惑な好意ですけどね」


やはり、彼女はあのB6と対等に接することができるほどの器の人間である。
誰もがそう納得させられる出来事でもあった。


あの告白の次の日から、彼女は二階堂が忘れないようにと、毎日想いを綴った手紙を送っていた。
内容的には、どちらかというとラブレターよりも日記のようなものだが。


 「ショウちゃんの意地悪。まあ、いいや。とりあえず、捨てないで読んでね!」


自分の用事を済ませると、彼女は先に教室へ向かう。
健気な彼女がいなくなると、二階堂はため息を吐いた。
全てを見ていた衣笠がくすりと笑う。


 「衣笠先生。笑い事ではありませんよ」

 「すみません。ですが、貴方も罪深い方ですね〜」


言っている意味が分からず、彼は顔を顰めた。


 「手紙というのは、返事を書くべきものですよ。相手の気持ちを受け取るだけでは失礼じゃないですか?」

 「しかし、私と彼女の立場を考えますと・・・」

 「おや?彼女は一個人として、貴方に送ってるんです。教師と先生という立場は関係ありません」


その解釈は果たして受け入れて良いものかどうか悩んでしまい、二階堂はいい顔をしない。
小さく笑うと、衣笠が変わらぬ笑みで彼の背中を押した。


 「教師としては生徒に言えないことも、一個人なら可能ですよね〜」













 「何をやっているんだか、私は・・・」


今日もらった手紙を横に置き、二階堂は便箋を机の上に置いた。
自分でも不思議な行動をしていることを驚きながら、彼は秘めた想いを綴る。
それは、一度書き始めると止まらなかった。
彼にとってもまた、彼女は特別な存在であったことを痛感させられる。


 「教師と生徒でなければ、か」


締めくくりをどうしようかと考えた途端、手が動かない。
それまでは、今まで送られてきた手紙の内容への返事を書いていただけだった。


 「私の、思い・・・それを伝えても、状況は何も変わらないというのに」


口にしてから、気づく。
も同じなのだと。


 「そういうことなら、ますます返事をしないことは無礼ですね」


微笑しながら、手紙を書き終える。
彼女が卒業までに抑えられない気持ちを手紙に託すように、彼もまたその想いを手紙に籠めた。














 「おはようございます、さん」


次の日。職員室へ駆け込んできたに、二階堂は先に声をかける。
彼女は何かを言いたそうにしていたが、息が切れて話せない。
そんなを見て、彼はふっと笑みを零した。


 「今日も手紙を届けに来たんですか?」

 「そ、それもそうだけど・・・私の机に入ってた、あの手紙・・・」


それ以上は口にしては駄目だと、目で制す。
黙った彼女の耳元でこっそりと囁いた。


 「卒業をしたら、覚悟しておいて下さい」













-あとがき-

ビタミンへの愛ゆえに、自分のサイトでは扱ってない分野に手をつけてしまいました。
これをきっかけに、もっと色々なキャラでビタミン摂取(書いて)いきたいです。
素敵な企画に参加させて頂き、誠にありがとうございます!

2008.05 提出

- 追記 -
管理人:……うん、この頃は若かったね、私。
二階堂:感傷に浸るほど時間は経っていませんが。
管理人:いやー、それでも懐かしくなるもんよ。これ、初めてのビタミン夢だもの!
二階堂:はぁ……その後から、あまり私を扱わなくなってる気がしますが?
管理人:ギクッ。そ、そんなことないさ?
二階堂:ほお。では、次は私の作品を書いて下さることを期待していますよ。
管理人:……判強制かよ。

2008.07.23

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