「あ、敵」

 「下がってろ、

 「ちょっと、ユウ!勝手に動かないでヨ!」



テイルズオブリバースの世界に迷い込んで早三ヶ月。
このメンバー、否、男二人は未だに仲が悪かった。





おかわりをお願いします。





 「全く、もう!毎回、毎回、嫌になっちゃうヨ」

 「ふん。勝てば良いんだよ」


バイラスとの戦闘を終えると、いつもこの会話。
何も考えずに敵を斬りに行くだけのユウに、マオが腹を立てている。
一人で突き進もうとするので、サポートをするにもやり難いのだ。

戦いに参加していないは、申し訳なく思った。


 「ごめんね。私も戦えたら、作戦が考えやすいかもしれないのに」

 「は、戦えなくてもいいの!」

 「怪我でもしたら、どうするつもりだ」


二人は仲が悪いかと思いきや、の事となると意気投合する。
他人を思いやる気持ちは一緒なのだろうと、彼女は特に気にしなかった。
実は、彼らがに好意を寄せているからだとは、全く気付いていない。


 「とにかく!もっと僕を守ってくれなきゃ困るんだよネ」

 「俺が一人で蹴散らす。それで、文句無ぇだろ」

 「チームプレイした方が、早く、安全に戦闘が終わるでしょ」

 「うるせぇな、黙れこのチっ・・・」


威勢よくマオを怒鳴りつくかと思えば、ユウは舌を噛んだらしい。
そっぽを向くと、軽く手を口に添えた。


 「うわー。『カンダが噛んだ』なんて、寒いダジャレいらないヨ」

 「こ、こういう時だけ、名字で呼ぶんじゃねぇ!」



ユウとが、初めてこの世界に迷い込んだ時。
二人を発見したマオに自己紹介をした際、『神田』という名は使わないことが決まった。
その名は、この世界では名前として存在するには、ややこしくなるからと思ったからだ。
だが、本人は反抗してきたので、マオが今のように彼の名前で遊んで、嫌がらせる必要はあった。



 「ユウ、大丈夫?ご飯は、食べれそう?」


舌を噛めば、食事の際、噛みにくくなる。
食べることが辛いと、楽しいはずがない。
同じ経験に見覚えがあるは、ユウを心配した。


 「平気だ。心配すんな」


笑顔を浮かべずとも、の頭を撫でる手つきは、優しい。
それを見ていたマオは、面白くなさそうに頬を膨らませた。
すかさず、ユウに構わずの腕に抱きついて、甘えた声を出す。


 「〜。僕、お腹空いちゃった。食材、何が残ってる?」

 「ん?色々揃ってるから、何でも作れそうだよ。何が食べたい?」

 「何でも良いのか。の手料理って美味しいから、迷っちゃうな」


褒められたことを素直に喜んだは、はにかんだ。


 「ありがとう。それなら、ますますマオの希望する料理を作りたいな」

 「そう?じゃあ・・・歯ごたえのあるものが食べたいかも」


二人の会話に入れず苛立っていたユウに、マオはちらりと目をやった。


 「ちゃんと噛んで食べないと、飲み込めないような歯ごたえのをさ」


ユウに向けられたその笑みは、どこかしら冷たさを感じる。
しかし、肝心の本人は、どうしてなのか分からず、ただ、不機嫌そうな面をし続けるしかできなかった。


 「駄目だよ、マオ。そうしたら、またユウが食べてる時に舌を噛むかもしれないよ」

 「あ、そっか。また同じ所を噛んだら、もっと痛くなるネ」


今度は何を言いたいのかを理解できたユウは、六幻を静かに取り出した。
だが、がユウの方を振り向いたので、慌てて鞘に戻す。


 「海鮮グラタンなら、平気?」

 「ああ」


が、楽しそうに料理をし始めたのをマオとユウは、静かに見守った。








三ヶ月前。

世界を混乱に招いた元凶を払い、やっと身の回りが落ち着いた時期だった。
マオは、フェニアの聖殿を訪れ、最上階で思い出にふけた。

その時、突然目の前に何かが落ちてきた。
バイラスが現れたのかと、トンファーを構える。
しかし、落ちてきたモノの正体は、二人のヒトであった。


 「部屋にいたのに、何で急に落ちるのよ」

 「おい、女。何で俺の上に乗っかってる?」


一人は、全身黒ずくめの服を身にまとった、長髪を一つに括った男。
もう一人のパジャマ姿の女は、寝そべった男の体の上に座るような体勢でいた。


敵か味方か明確でないため、マオは声をかけてみた。


 「君達、誰?」


相手は、ようやくマオの存在に気付いたのか、少々距離をとった。
男は警戒心によって離れたらしいが、女は何故か顔を赤くして男とマオを見比べている。


 「えーと、私ってば、何でここにいるの?」


口を開いた彼女に便乗して、男も喋った。


 「お前ら、アクマか?」

 「ち、違うよ!」


何故か力んだ口調で否定した女に、男は睨んだ。
怖くなったのか、彼女の顔は青ざめている。
不憫に思ったマオは、質問を繰り返した。


 「僕の名前は、マオ。君達は?」

 「え?あ、。私は、

 「か。可愛い名前だね」


ニッコリと微笑むマオに安心したのか、は笑顔でありがとうと伝えた。
そして、二人は自然と男へと目線を移す。


 「・・・神田」

 「え、『噛んだ』?何を?」


男が名乗ったとは、思わなかったマオが、聞きなおす。
その事には一人、大笑いしていた。
二人は、彼女が腹を抱えて楽しそうにしている意味が分からなかった。


 「神田君、この世界では、下の名前を教えなきゃ」

 「、どういう意味?」

 「彼は、『神田』というファミリーネームを教えたんだよ」


この三人の中で、彼女が一番今の状況を理解しているようだ。
神田は眉間に皺を寄せて、簡潔に説明するよう求めた。


 「神田君と私は、マオのいる別世界へと迷い込んだわけ」

 「俺は、簡潔に説明しろと言ったはずだ」

 「そうしたつもりなんだけど」


苦笑いするに、マオはさらに聞く。


 「とカンダは、違う世界から来たって言うけどさ。どんな所?」

 「私の世界は・・・そうだな、イノセンスもフォルスも無い世界かな」


マオも神田も、別世界ではないかと言うに疑いを持った。
そこまで自分の世界について知っている事は、変だと感じたのだ。


 「何で、そこまで詳しい?」

 「理由を言ったとしても、信じてくれないと思う」

 「答えろ」


刀を抜いた神田は、それをの喉元へと近づけた。
慌ててマオが止める。


 「止めなよ!相手は、女の子なんだヨ!」

 「それが、どうした。怪しい奴は、殺した方が良いだろ」

 「私を殺したって、この状況が変わるとは、思えないんだけど」


意外にも冷静なは、問題点を取り上げた。
その事に気付かされた神田は、仕方なく刀を下げた。


 「なら、知ってるのか?帰る方法を」

 「知らないから、一緒に探そうよ」


予想もしない返答に神田は、呆気に取られた。
しかし、マオは乗り気のようだ。


 「だったら、僕も一緒に旅をするヨ!案内ぐらいは、できるからさ」


マオは、親指を突き立てて、ウインクをした。
勝手に話を進める二人に、神田は、ついてゆけない。


 「あ、神田の名前、『ユウ』だから、そっちで呼ばない?」

 「何で、それを知ってる」

 「『ユウ』?なんだ、そっちの方が呼びやすいじゃん」

 「俺の名前をそれで呼ぶな!」

 「早速、情報集めに行こう、ユウ」

 「おい」

 「ほら、ユウ。早くしないと置いてくヨ?」

 「人の話は聞け!」



こうして、とユウをそれぞれの世界へと帰る方法を見つける旅が、始まったのだった。



だが、は戦った事がないうえに、何の能力も持っていない。
そのため、戦闘はマオとユウの二人に任された。

代わりにというのか、は家事を全て一人でこなし、精神的にも二人を支えてきた。
マオとは、さほど時間をかけずに仲が深まり、
最初は彼女に対して冷たかったユウも、いつしか心を開き、彼女に惹かれていた。




 「はい、海鮮シチューの完成」

 「わーい♪いっただっきまーす」


三人は、火を囲んでそれぞれの皿を手にしたが、思わぬ来訪を迎え入れることになった。


 「チッ。食事もろくにできねぇのか」

 「ユウ、一人で片付けてネ」


シチューをひとまず諦めて六幻を手にしたユウに、マオは全てを任せる。
ユウは、しかめっ面をするが、彼は微動だにしない。
平然との作ったシチューを口にしている。
さすがにユウの視線が鬱陶しくなったのか、理由を言った。


 「一人で蹴散らせること、できるんでしょ。がんばって」

 「この、くそチビっ」


またもや喧嘩が始まるかと、は困り果てたが、背後で聞こえたバイラスの呻き声で我に返った。


 「ちょ、二人とも!先にバイラスを倒そうよ」


が二人の間に入った瞬間、バイラスの詠唱攻撃が始まった。
彼らの一歩手前にまで迫った攻撃は、作ったばかりの食事を駄目にしていた。


戦闘に参加しないは、慌てて安全な場所へと避難した。
しかし、ユウは敵を見据えずに破壊された鍋を見つめ、一呼吸入れてから敵に斬りかかった。


 「ユウ、不機嫌そうだネ。シチュー食べれなかったのが、そんなに残念だったわけ?」


後衛で叫ぶマオに、ユウは怒鳴った。


 「うるせぇ!敵の数が多いんだ、援護しろ!」

 「はいはい。じゃあ、僕の事、ちゃんと守ってヨ」


二人の連携攻撃で、バイラスはすぐにいなくなった。
安全である事を確認してから、は二人へと歩み寄る。


 「一体、どうしたの?ユウが、一人で戦わないなんて」

 「別に。とっとと終わらせたかっただけだ」

 「絶対に裏があると思うから、聞いてるのに」


問い詰めても何も言わないので、は面白くなさそうに頬を膨らませる。
すると、マオがを呼び寄せて、耳元で囁いた。


 「の手料理を食べ損ねて、苛立ってたんだヨ」


がユウを見つめていると、照れて背を向けてしまった。
マオの言う事が本当なのだろうかと考えていれば、ユウがぼそりと呟いた。


 「腹減った」


言った途端、彼の腹の音が聞こえて、マオとは大笑いした。
赤面しつつも、とっとと作れとユウに怒鳴られたは、肩を震わせたまま準備をし始めた。









-back stage-

管理:無駄に長くなったパラレル夢。設定も細かく書く事避けてるし、意味不明かも。
マオ:長くなるなら、話を切れば良かったのに。
管理:そしたら、書き終えるか不安だったからなぁ。
ユウ:なら書くんじゃねぇ。
管理:・・・本当はね、神田がアレンを『もやし』と呼ぶから、マオを『タコ』と呼ばせようと思ったの。
マオ:うそ!?僕の髪の色だけで、そんな事しないでヨ!!
管理:この話の設定でまた書く時には、『タコ』にしとこうかな。
マオ:ていうか、をもっと絡めさせた方が良いと思うんですけど。
管理:素敵な神田&マオ絵を描いてくださった黒月様に感謝です!
ユウ:いきなり話を変えるな。ていうか、遅すぎだろ。

2006.03.23

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