お願いだから、嘘だと言って。
どうしてくれよう、この男。
「ご懐妊、おめでとうございます」
「・・・は?」
貧血で倒れた原因にしちゃ、悪ふざけも良いところだ。
この医者が言ったことを受け入れたくなくて、体が勝手に拒否反応を示す。
「妊娠三ヶ月です。おめでとうございます」
「いえ、私はそれを聞きたいわけではありません」
「あの方との間にできたお子さんですから、やんちゃそうですね」
「ジェイドに嘘を吐くよう言われましたか、先生?」
真面目な顔をして問いただせば、医者は笑った。
いや、笑うようなことじゃないんだってば。
こんな医者の相手をしてる暇があれば、仕事の続きをする方が良いかも。
諦めて医務室を出て行ったら、ジェイドが私を待っていた。
「気分はどうですか?」
「最悪です・・・本当に、大佐は何の関係も無いんですか?」
「何のことです?」
微笑んで誤魔化さないで欲しい。
この人のことだから、私が何を言われたか分かってるだろうに。
人の反応を見て楽しむ性格を直せといっても、直らないだろうな。
「もう、良いです。仕事に戻ります」
「その前に陛下に会って下さい。貴女が倒れたと聞いて、落ち着かないんです」
「今、あの人に会ったら殴り倒しそうなんですけど」
「私は止めませんよ」
見てはいますけどね。
この状況を愉快そうに見守る人を連れて、私は陛下の元へ向かった。
ジェイドが居なくなると、仕事をサボって寝室に戻った。
そう部下の一人から聞いて、私はその寝室の扉を蹴破ってやった。
だというのに、部屋の持ち主は私が元気にしてると勘違いする。
・・・この不機嫌なオーラが見えないとは。
「元気そうだな、。倒れたって聞いて驚いたぞ」
「ええ、体は元気です。心は荒れてますが」
「何だよ、俺の部屋にいる時ぐらい敬語を止めたっていいだろ?」
「いいえ、陛下。仕事中だというのに、自室におられる貴方が可笑しいんです」
「は不機嫌そうだな。ああ、そうか。ジェイドにでもからかわれたか?」
やっと、こっちの気持ちに気づいたかと思えば。
ジェイドと二人で私をからかっているようでもなかった。
「違います」
「そうなのか?なら、あれだ。女の子の日か?」
駄目だ、やっぱり仕事中とはいえ、この感情は抑えられない。
ジェイドがピオニーに悟らせようとする前に手が出てしまった。
おかげで周りにいたブウサギが騒動に驚いて、部屋から逃げ出す。
「いきなり何を・・・」
「妊娠三ヶ月って、どういうことだ、こらぁ!」
まだ暴れ足りない私をジェイドが後ろから抑える。
それでも、私はピオニーを蹴り続けた。
「妊娠?子供ができたのか?」
「そうよ、ありえない事が起こったの!」
ありえない事だからこそ、私も不機嫌になるというもの。
確かに、三ヶ月の間、来るべきものは来てなかった。
それでも、可能性は無に等しかった。
何故なら、半年前から先月まで、私はピオニーに会っていなかったんだから。
「お前、まさか浮気でもしてたんじゃないだろうな」
「そんな事をする暇が欲しかったわね。仕事に追われて、それどころじゃなかったんだから」
「そうか、そうか。そんなに俺が好きか」
「・・・今のを聞いて、どうやったらそんな解釈がとれるわけ?」
この男のペースに巻き込まれないように注意しながら、会話をする。
半年前、私は遠方へ仕事の為に赴いていて。
ろくに仕事ができる人がいなかったから、全部自分が抱えてやってた。
寝る間も惜しんで頑張ったから、やっとグランコクマに戻れた。
それなのに、どうして働くことしかしてなかった私が妊娠してるわけ?
徐に口を開いたジェイドは、やっぱり確信犯ではないかと、後で思った。
「そういえば、陛下。三ヶ月前といえば、陛下が我慢しきれずにに会いに行きましたよね」
「ん?・・・あ、ああ。そういえば、そんな事があったかもしれない」
「あの時は、に顔を見せに行ったはずでしたよね」
「行った、な」
三ヶ月前にピオニーが訪れていたなんて知らないよ、私は。
それぐらいの時期といえば、疲れがピークにきて二日間寝込んでたはず。
「最低」
結論付けた答えに、思った事を口にしてしまう。
それなら、私が浮気してた方がマシじゃない。
「最低ですって、陛下」
ピオニーを苛めるジェイドの言葉に、彼はさらに落ち込む。
でも、それは一瞬のことで、すぐに開き直った。
「俺が忘れてたのも悪いかもしれないが、にも責任はあるぞ」
「ふうん。どうして?」
「あの時、お前だって起きてたんだからな!・・・そりゃ、意識は朦朧としてたみたいだが」
人の意識がはっきりしてないと分かってたのに、寝込みを襲わないで欲しい。
何が、『にも責任はあるぞ』よ?
ジェイドまで呆れるような言い訳しちゃって。
「、十分だけ時間を差し上げます。陛下を煮るなり焼くなり、自由にして下さい」
「ありがとうございます、大佐。ですが、三十分に延ばせませんか?」
「それ以上与えたら、お腹の子が可哀想です」
「ちょっと待てよ、ジェイド。俺を助けないのか?」
「自業自得です。では、またあとで」
倒れた扉の上を通り去る彼を名残惜しそうにピオニーが見送る。
私は、腕を鳴らした。
「それじゃあ、じっくりと甚振ってやりますね」
-back stage-
管理人:なんか阿呆な話を書いてしまった。
ウパラ:酷い扱いだな、俺は忘れたりしないぞ、そんな大事なこと?
管理人:してそうだから書いたのに。
ウパラ:どういうイメージを持ってるんだ、俺に。
管理人:そんなイメージ。
ウパラ:・・・しかも、この話って、ジェイドと絡ませたかっただけなんじゃないのか?
管理人:(ギクッ)
2006.01.31
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