補習



 「良い天気だね、播磨君!」

 「おう、そうだな、塚本!」

 「こういう日ってさ、外でパーッと遊んで、汗をかいてみたくない?」

 「そうだな。そんでもって、アイスとかカキ氷を食べて楽しむのが良いな!」

 「お、良いねえ、それ!じゃあ、今から皆で遊びに」

 「行かせるか!」


外からは部活で学校に来ている生徒達の声しかない。
たった三人しか存在しない教室で、は天満と播磨の前にある机を蹴った。
現実逃避をする彼等の補習のために学校に来ているは不機嫌だ。


 「ったく。紘子の頼みじゃなかったら、お前の勉強なんて見てやんねえのに」


貴重な夏休みが潰れた。
そのことに対して怒っているようだ。


 「ごめんね、君。あたしが馬鹿なせいで」

 「別に、塚本は責めてないから」


その視線は、播磨へと向く。


 「男に教えることなんて、なに一つ無えのにな」

 「てめぇ、その女好きな性格、どうにかした方が良いぞ」

 「はあ?男として生まれたなら、綺麗な女を見逃す手は無いだろうが」


当然のように返したに手が出そうになった播磨は、すんでのところで止める。
天満の前であることを思い出したのだ。
それを分かっているは、勝ち誇った笑みを浮かべた。


 「おう、よ。俺に教えるのが嫌ってんなら、とっとと教えて帰ればいいだろ」

 「やけに優しいじゃねえか、播磨。何を企んでる?」

 「別に企んじゃいねえさ。親切で、早く帰れるって言ってんだよ」

 「悪いけど、今日は一日学校にいる予定だぞ、俺は」


天満だけじゃないんだよ、学校に来てるのは。
が播磨の後ろを指すので、振り向いてみれば晶が居た。


 「どぅわ!?」

 「あれ、晶ちゃんも、講師としてきたの?」

 「まあね」


見つかってしまったことが悔しいのか、彼女はと距離を置くように天満の隣へと移る。


 「男二人が天満に変なことをしないかと思って、隠れて見張ってたんだけど」

 「露骨に顔を出していたくせに、隠れてたっていうのか?」

 「・・・ちなみに、美琴と愛理も、もう来てるはずだよ」

 「マジ!?」


嬉しそうなとは裏腹に、播磨は眉間に皺を寄せた。
天満は、純粋に友人が講師であることを喜んでいた。


 「お嬢に教わるだなんて、嫌な話だぜ」


それを発した途端、漫画のように播磨の体が飛び、窓から外へ出て行った。
誰が酷い仕打ちをしたのか、天満以外は理解している。
彼女は呑気に言った。


 「播磨君、あんなに慌ててトイレにでも行ったのかな?」

 「だとよ、沢近。良いのか、このままで」

 「良いんじゃないの、あんなヒゲ」


欠席扱いにして、あとでもっと恐ろしい補習を受ければ良いわ。
言い放った愛理に苦笑すると、同じ心境であった美琴が耳打ちしてきた。


 「今日、あいつ機嫌悪いから、お前も注意しておいた方がいいぞ」


迂闊に手を出せないことを肝に銘じながら、肝心な勉強を始めようとは天満を見る。
しかし、机には姿が無かった。


 「君、何やってるの。八雲がお茶淹れてくれたから、飲もうよ」


いつのまにか床で茶会を開いている塚本兄妹に、晶とサラ。
美琴が怒鳴った。


 「のんびりしてる場合か!」

 「で、でも、美味しいよ、ケーキも」

 「先輩達は何を食べますか?」

 「あ、俺、余ったので」

 「美琴はカルシウム不足かもね。こういう時は、リラックスしやすいハーブティを淹れようか」

 「あ、あの。そういう理由で怒ってるわけじゃないと思いますけど」


愛理も茶会に参加しようとしている当たり前な雰囲気に、美琴が飲まれそうになる。
かろうじて、を怒ることはできた。


 「お前、塚本の勉強見るように頼まれたんだろ」

 「美女に囲まれて茶飲む方が楽しいに決まってる」


どこかの金髪馬鹿を思い出させるようなことを言うな。
美琴が脱力していると、その発言でが携帯を取り出す。
数分後には、かれんが教室にやってきた。


 「よお、一条。俺のハーレムへようこそ」

 「え?」

 「私のハーレムよ」


ケーキの皿を手にした晶と火花を散らす。
かれんは訳が分からぬまま、天満に座らされた。


 「今ね、茶会を開いてるんだ。カレリンも食べてってよ」

 「姉さん、食べるじゃなくて飲むのが目的だから、一応」

 「お茶、淹れますね」

 「頼むから・・・誰か、まともな人間はいないのかよ」


美琴が嘆いてしまい、さすがには真面目さを少し取り戻した。


 「塚本。食べながら勉強でもいいから、少しだけやっておこうぜ」


天満が騒ぐ辺りを見れば、いつのまにか参加していた紘子がいる。
カップを持ちながら、彼女は微笑んだ。


 「まあ、少しぐらい休憩しても良いんじゃないか。あの様子じゃ聞いていないだろうし」


見ずとも聞こえるその騒ぎに、美琴はまた普通さを失うことになる。


 「ちょっと、天満!勝手に人のケーキをつまみ食いしないで、先に言いなさいよ」

 「美味しいね、愛理ちゃんのケーキも。八雲のも食べさせて!」

 「良いけど、他の人にもちゃんと聞いてから食べてね」

 「お茶のおかわり、お願い」

 「はーい」

 「あの、もう練習に戻っても良いですか?」

 「ダメだよ、カレリン。まだまだケーキはたくさんあるんだから!」

 「はあ?どんだけあるんだよ」

 「36個」

 「多すぎだろ、それ!買ったのか?」

 「人から貰ったんだけど、私一人じゃ食べれないから。皆、思う存分食べて」









 「元気であるのは良い事、てことかね」

 「君もまだ若いだろう」


静かにその様子を見守るは、紘子に負けないほどに落ち着いていた。















-back stage-

管理:で、結局、補習はどこにいったのか自分でも分かりません。
美琴:おい!?
愛理:これだけゴチャゴチャしてたら、そうなるに決まってるじゃない。
管理:だけど、皆を出すには大変だったからなぁ。
天満:そういえば、播磨君、帰ってこないままだね。
愛理:それでいいんじゃない?
管理:それで良いと思うよ。
美琴:お前ら・・・もう少し、労わってやれよ。

2007.08.13