「シンク!」


わざわざ気配を消してシンクに歩み寄ると、は彼の耳元で叫んだ。
彼女の声にさほど驚いたような態度を見せないシンクは、静かに答える。


 「毎日、同じ事をしてて、飽きないわけ?」

 「楽しいよ?」


ほら、と言ってが指し示すのは、彼の下半身に生えてしまった尻尾。


 「猫って、驚いた時は尻尾が大きく膨らむんだよ」


彼の反応を嬉しそうに語る。
シンクは苛立ち、その怒りをある人物へと向けた。


 「あの馬鹿の部屋にある物を疑いもせずに飲んだ、僕も馬鹿だった」

 「確かに、何で、ディストがあんな物を作ったかは、不思議かも」




数日前の事。
任務から帰ってきたシンクは、ディストに頼まれた資料を渡しに彼の部屋を訪れた。
その際、喉を潤したかったシンクは、机に置いてあったコップを取り、口にしたのだ。


ディストが止めた時には、すでに遅かった。
しばらくして、シンクの耳は猫の耳へと変化し、尻尾も生えた。
それをディストの悲鳴を聞いて駆けつけたに見られたのだ。


そして、何を思ったのか、はそれ以来シンクを驚かせては、楽しんで帰る。
いつ治るか分からないこの格好では外に行けないので、シンクには逃げ場が無かった。




 「一体、いつになったら元の姿に戻れるんだか」

 「え?ずっと、その姿でも良いじゃない」

 「よくない」


可愛いのに、と頬を膨らませるの頭をシンクは叩いた。
そうやって遊ばれるのが嫌で、早く元の姿に戻りたい気持ちでいっぱいだった。


だが、同時に元の姿に戻れば、とこうして話す事もなくなるだろうか、という考えが浮かぶ。
彼が猫耳と尻尾を生やすまで、彼はと会話をしたことがなかったからだ。
シンクは、何故だか、それを思うと胸が締め付けられる気がした。


 「ところで。何で、いつも僕を驚かそうとしてるわけ?」


と喋られなくなるのが、寂しいなんて思ってない。
心の中で考え直して、話題をふってみた。


 「シンクが感情を表した事無いから。いつも仮面つけてて、表情見れないでしょ?おまけに、驚かせてみても反応しないし」

 「それだけ?」

 「それだけ」


それだけのために、僕は驚かされてるのか。
ただ、僕が何かしらの反応を示すがために。


相手に聞こえるほどの大きなため息を吐くと、シンクは口を開いた。


 「ってさ。分かっちゃいたけど、馬鹿だよね」

 「し、失礼ね!それだけ、シンクの事が気になるのよ!」


あ、と彼女が口を閉じようとしたが、シンクにはハッキリと伝わっていた。
今度は、鼻で笑って、やっぱり馬鹿だ、と言葉を漏らす。
しかし、彼の声色は優しかった。


 「今、僕が何を考えてるか分かる?」


に近寄って、シンクは問う。


 「分からない」


それに対し、は彼のふさふさな耳に触れた。
くすぐったいんだけど、と不貞腐れた声を聞いても、触り続ける。
すると、シンクは耳に触れる彼女の手を掴み、放させた。


 「何で、僕の事が気になるわけ?」

 「私、猫大好きだから。その耳と尻尾が、かなり魅力的なのよ」


どうせそんな事だと思った。
シンクは、微笑みながら答えるを仮面の下から見つめた。
嬉しいやら哀しいやら分からない感情が、生まれる。


 「悪いけど、これ以上に付き合えないよ」


くるりと彼女から背を向け、シンクは去って行く。
その後姿を見て、は彼には分からないように微笑んだ。


言っている事と、示している態度が違う。
彼がに近寄った時、ちらりと尻尾を見てみれば、ピンと上に立っていた。


猫の尻尾が示す気持ち。
それは、相手に甘えたいと思っている時の動きだ。


 「素直じゃないんだから、シンクも」


彼女の呟きは、誰に聞かれることもなかった。







不可解な鼓動の理由






-back stage-

管理人:「シンクねこみみ企画」にて提出した作品です。
シンク:また訳の分からないものを書いたね。
管理人:ぐっ・・・わ、分かってよ、無理矢理にでも。
シンク:無理に決まってるだろ。
管理人:とにかく、猫耳をもつシンクをイメージするのが、楽しかった!
シンク:うわ、悪趣味。
管理人:・・・・ひどい言い様、ありがとう。

2006.05 提出