笑う
ベッドの上で細長く伸びる煙。
それは、灯りが灯されていない部屋でもはっきりと見えた。
隣で煙草を吸う恋人の手からそれを奪い、は口に銜える。
「苦い」
「これは、お前が吸うもんじゃねえよ」
ティキが寝ているから煙草を取り返す。
吸えなかった事が悔しいのか、彼女は不貞腐れてティキの体に手を回す。
彼はそれに答えるようにの肩を抱いた。
「煙草、禁止ね」
甘えることを許されたが言う。
言われた側は、苦笑いだ。
「俺から楽しみを奪うなよ」
「実際、煙が私の体に染み付いちゃって困ってるの」
機嫌を損なわないよう彼の頬に口付けを贈る。
上手く丸められたティキは、彼女の言うことを聞いた。
煙草を灰皿に擦り付けて火を消す。
両手が自由になると、彼はを腕の中に包み込んだ。
「怪しまれた?」
薄く笑みを浮かべ、に囁く。
「同僚の一人が、『臭えから近づくんじゃねえよ』って」
特徴のある黒い服をまとった同僚の真似をしているのだろう。
彼女は、眉間に皺を寄せながら喋った。
「なら、問題は無いな」
問題があったとしても微笑んでいそうな相手が、顔を近づかせる。
互いの舌が絡み合った後、ティキが見つめたの目は真剣だった。
「バレたのか?」
彼の目が、見開く。
は莞爾として笑い、質問を返した。
「どうする?」
「そいつを殺せよ」
さも当たり前かのごとく答える。
彼女は首を横に振った。
「無理だよ。バレたのは違う人だったけど、その人は自殺しちゃったから」
「へえ。どうして?」
「急に精神的に可笑しくなったみたい」
くすりと笑うの言葉で、ティキの余裕の笑みが戻る。
「残酷な女だねぇ、は」
「ティキだって同じ事するでしょう」
「俺は、もっと苦しませてから殺るさ」
「恐い男だねぇ、ティキは」
彼の口調を真似たの言葉がきっかけで、二人の笑い声が部屋の中に響き渡る。
話に一段落ついたところで、は彼の腕から抜け出した。
その体は、シャワー室へ向かっている。
「こんな怖い人が、私の恋人なのね」
「別れたいか?」
後ろから優しく包み込まれたが、顔を見上げる。
ティキは変わらず笑みを浮かべていた。
も微笑み返す。
「それなら、もう貴方を殺してたよ」
キスの雨が降り注ぐ中、も聞いた。
「ティキは、私のことを愛してる?」
「愛してるさ。お前を殺したいほどに」
「じゃあ、私達の仲がバレる時は、ティキが私を殺すの?」
「誰かにを取られるくらいなら、自分でやるに決まってるだろう」
向き合った二人が、唇を重ねる。
は悲しげに笑った。
「一緒に死んでくれないんだ」
「愛する人の命を奪った罪を背負って生きる、というのも面白そうだろ?」
「そうかもね。だったら、その時が来たら、私がティキを葬るよ」
バレるバレないの問題ではなく、敵同士として。
楽しそうに告げたに、ティキは呆れた。
「さっき、一緒に死んで欲しいとか泣いてた奴と一緒とは思えない台詞で」
「泣いてないでしょ。だけど、悲しむのも人間として楽しいところじゃない?」
「なら、お前の仲間の前で俺が死んだ時。泣いてくれるのか?」
「そこで泣いたら、私は教団側に殺されるわよ」
「それは、困る。やっぱ、俺がを殺るしかないな」
「そして、自分は生き残る?」
嘗められたものだ、エクソシストも。
が心に思っていたことをティキは読んでいた。
「選ばれた人間である俺達に、お前らが勝てるわけ無いだろ」
「分からないわよ。私達は、イノセンスを授けられた人間なんだから」
言い返したは会話に飽きて、シャワー室に入った。
「お前は、俺に殺られるさ。絶対に」
心が張り裂けそうで、でもこの状況を楽しんでいる彼の笑みが零れたのを、彼女は知らない。
-back stage-
管理人:ティキとの禁断の愛、というテーマで考えてみました。
ティキ:全くもって、そのテーマらしくないように見えるな。
管理人:うーん、何でだろう。ヒロインの性格が冷めすぎ?
ティキ:それを言っちゃ、俺の性格はもっと冷めてるってことか?
管理人:え、そうじゃないの?(即答)
ティキ:・・・そんな風に思ってるから、こんな話しか浮かばないんじゃね?
管理人:精進します。
2007.01.05
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