「いやー、本当にありがとね、子猫チャン!」
「騒がしいぞ、葛城。少しは黙ってろ……まぁ、気持ちは分かるがな」
「そうですよね〜。こうして一緒に飲みに来れたのは、悠里先生のおかげです」
感謝されているのに、どうしてか悠里は素直に喜べなかった。
彼女が純粋に仲良くなるきっかけが欲しくて、に声をかけてしまったのが原因かもしれない。
「念を押しますが、私はお酒に弱いので、あまり期待しないで下さい」
「もちろん、無理強いはしないよ。一緒に楽しめるのが重要なんだからね」
はお酒を飲まずにウーロン茶を手にしている。
唯一、アルコール飲料を一口もつけていないことが申し訳無いようだ。
しかし、鳳をはじめ、誰も責めることはしない。
「そうそう。無理をしないのが一番だって!」
「そう言って、自分が羽目を外しすぎてはいけませんよ、真田先生」
「うっ……き、気をつけます」
二階堂の忠告は、果たして真田に届いているのか。
悠里は心配になりながらも、隣に座るの様子を見る。
その視線に気づいた彼女は悠里に微笑んだ。
PLEASE be nice to us!
「What?を担任たちの飲み会に連れて行きたいだと?」
その日の放課後のバカサイユ。
悠里はを飲み会に誘う前に、彼女の雇い主である翼に許可を得に来ていた。
「ええ、たまにはどうかと思って。私、あまりさんと話をした事なかったし」
も成人ではあるのだから、お酒を飲む場に行っても問題はないだろう。
そう思って聞いたのだが、翼だけではなく永田も良い顔をしなかった。
「答えはNOだ」
「もしかして、何か用事でもあった?」
「そうではないが……行かないほうが、のためだ」
失礼ながら、と永田も話に加わる。
「私も遠慮した方が良いかと……実は、は大変、酒癖が悪いのです」
「え、そうなんですか?」
どれほど酷いものかを知らない悠里は呑気なものだ。
翼は頭を抱えた。
「あれは酷すぎたな、色々と……過激すぎる」
「一応、本人には酒が弱いのだから飲むなと念は押してますが……」
よく理解はできなかったが、つまり酒を飲むとは記憶も飛ぶらしい。
だが、それならに飲ませなければいいだけである。
そう解釈した悠里は、なんとか翼から許可を得て、しかし何度も酒を飲ませないよう注意された。
「大丈夫そうよね」
飲み会も大分盛り上がってきて、飲む人は飲み、騒ぐ人は騒いでいる。
だが、気を抜いた時に大変なことが起こるのである。
「飲み物は、他によろしかったでしょうか?」
店員に誰かが飲み物の追加を頼むことで、他の人も頼んでいく。
その中で、聞こえてはならない声がした。
「芋焼酎、ロックで!」
注文を聞き終えた店員が去っていく。
その場の全員が、を見た。
「なに、みんなして私を見て?」
日頃、敬語で接してくる彼女とは思えない話し方だ。
周りが慌てふためいた。
「さん、どうしたの!?」
「な、なんか違うよ?いや、可愛いけど……て、そうじゃなくて!」
「どういうことでしょうか。彼女がそう簡単に接し方を変えてくるとは思えませんが」
それぞれが状況を理解しようとしている間に、空気を読まない男が一人。
「チャ〜〜ン!やっと俺と深い仲になろうと思ってくれ……」
「うっさい、ケモノ」
が飛び掛ってこようとした葛城に飲んでいたものをぶっかけた。
「ぺっぺっ。ひでぇな〜……て、あれ?これ、酒じゃね?」
葛城の発言に驚き、鳳が彼の服を嗅いでみる。
確かに、微かにアルコールの匂いがした。
「南先生。君の今が飲んでるのは、ウーロンハイじゃなくてウーロン茶かもしれないよ」
「え?……あ、本当だ。お酒じゃない。てことは……」
「完全に酔っ払ってるようですね〜、さん」
静観していた衣笠が決定的な発言をする。
しかし、当の本人は否定した。
「はぁ?どこ見て、そんなこというわけ?この通り、酔っ払ってませんけど」
「……完璧に酔ってるよな?」
「酔ってるでしょうね」
九影と二階堂は聞こえぬよう、声を潜める。
酔っていないとしたら、ここまで態度が変わるはずがない。
悠里は、翼が懸念していたことが何なのか、ようやく理解した。
「あれ。でも、翼くん、『色々』って言ってたわね……まだあるのかしら」
「悠里ちゃん、何考えてんの。そんなことより、パーッと騒ぐよ!」
「きゃっ!?さん?」
「ほら、とっとと食べる物、注文して」
悠里の肩を組みながら、は衣笠に命令する。
酔っ払っているとはいえ、かなりの命知らずである。
「はい、分かりました。ではお願いしますね、真田先生」
「って、俺かよ!?」
「早くしませんと、さんが怒ってしまいますよ〜?」
「もう遅い」
現状に戸惑って行動していないうちに、は真田の背中を蹴る。
酔っ払っているからといって、全てが許されるわけではない。
キレた真田がに抵抗しようと怒鳴りつけた。
「なんなんだよ!何もしてねえってのに!」
「何もしてないのが悪いのよ。私がやれって言ったら、すぐにやれ」
「おまえ……何様のつもりだ!」
「女王様に決まってるでしょ。ああ、悠里ちゃんはお姫様だからね」
にっこり笑顔で答えるに、もはや敵なし。
その後、彼女に振り回される男性陣は、彼女が満足するまで帰りたくとも帰れなかった。
「久しぶりに飲んだ、飲んだ!」
気分良さげなは、確かに彼女を知らない人ならば酔っているとは判断しないだろう。
衣笠以外の疲れ果てた男性陣は、ようやく解放されると一安心した。
「もう遅いから、私が指名した人はボディガードよろしくね」
「さん。それって、つまり誰かを家まで送らせるってこと?」
「そういうこと。あ、ちゃんと悠里ちゃんも送らせるから、安心してね」
どこまで振り回されるのだろうか。
彼らが指名されないことを切に願いながら、彼女の判断を待つ。
「じゃあ、悠里ちゃんは、衣笠に任せるわ」
「はい、分かりました。ちゃんと全うさせて頂きますね」
一番、に動じなかった男が候補から外される。
誰が貧乏くじを引くことになるのか、他の男共はハラハラした。
「私は……九影、よろしく」
ボディーガードとしては最適な面構えである男が選ばれ、彼は問答無用で連れて行かれた。
「明日……ちゃんと学校に来れるのかな、九影先生」
心配する真田だったが、彼らは後に別の意味で彼を心配することになるのだった。
次の日、九影は時間通りに職員室に入ってきた。
誰もが昨夜の出来事を気にする中、彼は挨拶もせずに席につく。
「九影先生?大丈夫だったかい?」
やんわりと鳳が訊ねるが、心ここにあらずといった様子の彼は答えない。
そこへ永田が現れた。
「失礼致します。昨夜は、がご迷惑をおかけしたこと、誠に申し訳ありませんでした」
「あ、永田さん。九影先生がさんを送ったんですけど、何があったか知りませんか?」
ちょうど良いタイミングだったので、悠里が質問をぶつける。
永田は一人で納得すると、笑顔で返した。
「恐らく、大丈夫でしょう。彼女の態度の豹変ぶりに驚いているだけのようですから」
説明になっていない答えを出して、帰っていく。
「本当に何があったんだよ、昨日の夜!」
気になって仕方ない真田の叫びが職員室内に鳴り響いた。
- back stage -
管理:本当は分岐夢で、それぞれ大人な恋愛する予定だった。けど、止めちゃったww
葛城:なんでそれを書かなかったんだよ!俺の出番、かなり減ったじゃないの!
衣笠:確かに、平等さが減った感じはしますね〜。
真田:出番がそこそこあっても、優遇されてなかったりするけどな……。
管理:文句言わない!ちなみに、九影さんに起こったことは、B6で酒の話を書く時にでも確信できるかと。
衣笠:本当に書くんですか?その話。
管理:さぁ。
葛城:言ったんなら、書こうよ!
2009.02.21
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