「夕飯の準備が整いました、さん」
永田さんが部屋にまで迎えに来てくれる。
彼のエスコートで辿り着くのは、翼の部屋。
同じマンションだというのに、部屋の中の広さは大分違う。
翼に遠慮して小さめな部屋を取ったから、そう思うんだろうけど。
そもそも、比べてはならないということも分かってる。
「喜べ、今日はが希望していたイタリアンだ」
「本当!?あれ、でも今日のお昼の時は、フレンチだって言ってなかった?」
「気が変わったからな。Cookを変えさせた」
気まぐれな翼に付き合う大人が哀れに思える。
でも、それは永田さんがこっそり私に教えてくれたことで印象が変わった。
「さんのために変えられたんですよ」
翼が忙しくない時は、いつもこうして一緒に夕飯を食べる。
ただでさえ、翼には寝泊りする部屋をこのマンションから無料で借りてもらってるのに。
これ以上、甘えるわけにはいかないと、最初のうちは断っていた。
だけど、彼にとっては一人増えても、痛くも痒くもないことだ。
私の借りてる部屋は彼のポケットマネーで支払われてると聞くと、なぜか納得できる。
それに毎日一緒に食べれるわけではないから、私はその好意に甘えることにしていた。
「どうした?俺に見惚れてるのか?」
美味しいコースも、既にドルチェ。
私のために用意されたジェラートを口に含みながら翼を見ていると、声をかけられた。
「えーと、どっちかというと……」
「分かっている。こっち、だろう?」
そう言って翼はティラミスをフォークですくい、私に差し出してくる。
もしかして、最初から私が欲しがるのを分かっていて、ドルチェは別にしたの?
「口を開かなければ、食べられないぞ?」
仕方ないから口を開くと、そっと舌の上にフォークがのる。
「美味しい……」
幸せに浸っていれば、翼が手招きをする。
「今度は、俺がもらう番だ」
「はいはい。あーん」
ジェラートをスプーンで差し出す。
だけど、翼は一口だけでは満足してくれなかった。
「もう一口もらおう」
「え、まだ?それなら、翼もジェラート作ってもらったら良かったじゃない」
「ただ普通に食べるのもつまらないからな。口移しでやれ」
一瞬、自分の耳を疑う。
「ほ、ほら、翼。あーん」
「の口からでなければ受けつけないし、帰さないぞ?」
先に逃げる手を防ぐとは、卑怯だ。
永田さんが助けてくれないかと思ったけど、見当たらない。
多分、『翼様のプライベートを邪魔しないのも、秘書の仕事ですから』ということだろう。
「早くしろ」
勝ち誇った笑みが憎らしい。
やけになって、ジェラートを口に含むと、翼の胸倉を掴んだ。
口の中で溶けるジェラートを吸い取ったあともキスは続き、吐息が漏れる。
「Well done。今日はこれぐらいで帰らせてやる」
「……これが目的でイタリアンにしたんじゃ……」
確かに私が昼にイタリア料理を食べたいとぼやいてはいた。
正確にいえば、美味しいジェラートを食べたいと口にしていた。
「ふん。この俺がのために、わざわざするはずがないだろう」
「へー、そう。じゃあ、私、もう食べに来るの止めておくね」
素直じゃない人を相手にすると、どうしても自分も捻くれてしまう。
わざとそんなことを言ってみると、案の定、翼は慌てて止めてきた。
やっぱり、子供っぽいね、翼って。
「冗談だよ。ああ、でも最近は自炊してるし、数を減らそうかな」
「……冗談ではなかったのか?」
「今は本気」
なんとなく、その方がいいのかもと思えてきた。
うん、翼のお世話になるのは、控えておこう。
「じゃあ、おやすみ、翼」
おやすみのキスを頬にして、部屋を出て行く。
最後まで彼は私の言葉を信じれず、動じることができなかった。
デザートはお預け
- back stage -
管理:基本、自由奔放なのがヒロイン1の特徴なので、それをあからさまに出しました。
真壁:出しすぎだろう!この俺が押され気味なのは可笑しい。
管理:そうか?君って子供だから、こんなもんだと思うよ。
真壁:違うから言っている。今すぐ直せ。
管理:えー。これはこれで有りだって。
真壁:無い。絶対にあってはならん!
管理:面倒な子だなぁ……それなら、もう書かないよ?
真壁:ぐっ……卑怯だぞ、管理人!
2008.08.04
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