「妊娠しました」


ある日の夜のこと。

自室で恋人との時間を過ごそうとした翼は、動きが止まった。
ソファに座りかけた彼をは、じっと待った。


 「なんだと?」

 「だから、ニ・ン・シ・ン。プレグナント、だっけ?」


すでにソファの半分を占領しているは、クッションを抱いて翼の反応を待つ。


 「ニンジンが何だ?」

 「動揺してるのは分かるけど、ニンシンね」


三度目にして、ようやく翼が頭を抱える。
立っていられなくなり、の隣に座り込んだ。


 「本当にpregnantの妊娠か?」

 「うん、ベイビーがお腹にいるんだよ」

 「そうか、俺は……父親になるのか」


不安と喜びで、翼は押しつぶされそうになる。
滅多に見せない弱気を見せていた。


 「俺は、父親から愛し方を教わらなかった」


彼の過去は決して良いものではない。
赤ん坊に関して相談しようと思っていたは、ハッとした。


 「俺は……自分の子をちゃんと愛せるのか?」


もし、自分が同じ事をしてしまったら。
将来を怖がる翼に、は微笑んだ。


 「大丈夫だよ。翼が私を愛してくれるように、子どもを愛せばいいだけだから」


ね、と彼女は控えている永田に同意を求める。


 「ええ。翼様は、きっと素晴らしい父親になれますとも」


どんなことがあろうと、きっと二人が支えてくれる。
その優しさで恐怖をぬぐえた翼は、途端に態度を変えた。


 「そうだな。まずは、新居の心配をせねばなるまい」


話が飛びすぎて、は何かが可笑しいことに気づいた。


 「永田」

 「はい、翼様。こちらのファイルに相応しいであろう物件をまとめさせて頂きました」

 「ちょっと待ってよ、何で新しい家なわけ!?」


彼女が必死で会話を止めれば、当然のように翼は答える。


 「俺とお前のbabyにも部屋が必要だろう?」


その前に重要なことを忘れてるのに。
そんなことをが思っている間に、翼はさらに話を進める。


 「Cribは、もちろんgoldで作ったものを用意しないとな」

 「くりぶ?」

 「赤ん坊用のベッドでございます、若奥様」

 「それは赤ん坊の体に良くないから却下!」


金属を幼児の傍に置くだなんて、とんでもない。
永田の冗談にも気づかず、は注意した。
彼女が怒るので、翼は渋々諦めてくれた。


 「ていうか、赤ちゃんのことより、先に考えることがあるでしょ!」


さらに怒鳴ると、やっと翼は問題点に気づいた。


 「そうだったな。俺としたことが……おい、永田。結婚式の下取りを」

 「それでもない!いや、そりゃそうなんだけど、でも違うの!」


は、クッションに顔をうめて自分の殻にこもる。
結婚することすら当たり前に思っている翼は、一人で幸せをかみ締めている。
答えを分かっている永田は、はなから指摘する気がなかった。



 「翼様も様もご在学中ですから、まず結婚するのも前途多難でございますね」






幸せなら、それでいい













- back stage -

管理:随分と昔に書いておきながら、放置してた話。
真壁:出し惜しみするくらいなら、さっさと出しておけば良かっただろう!
管理:別にB6の中で翼が特に好きってわけでもないしー。
真壁:なんだと!この俺に興味がないだなんて……ふん、所詮は庶民ということか。
管理:まぁ、庶民ですね、私は。
真壁:そうだろう、そんなお前に俺の素晴らしさなど分かるはずもない。
管理:(この子、やっぱ面白いわぁ)
真壁:何か言ったか、管理人?
管理:うんにゃ、何にも。とりあえず、子どもができたら、翼はこんな風に暴走しそうだ。

2009.02.21

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