ため息を吐く瑞希は、相当怒っているようだ。


「前に、ああいう生徒に襲われたことがあるんだから、気をつけてって言ったはずだよね?」


と、その短い間に言っている。
トゲーも私に怒鳴った。


「はぐれた時は、すぐに他の誰かと一緒にいることって言ったはずだよ」


と、言ってると思う。
……ああ、そんな説明つけるのが面倒になってきた。
つまり、私は一ほどではないけど、なんとなく彼らが言わんとすることが分かるのだ。


「本当にごめん……瑞希にもトゲーにも迷惑をかけて」


文化祭が近づくにつれ、皆が私の心配をしてくれていた。
過去のことを再び起こさないために気を遣ってくれていた。
それなのに、私は自ら危険に飛び込んだんだ。


泣きたくなってきたけど、泣いたらもっと迷惑がかかる。
だから、涙を堪えていたのに、瑞希が優しく抱きしめてくれた。


「ごめん……もっと早く見つけてたら、が泣かなくても良かったのに」


瑞希の柔らかい声が耳に入る。
滅多に聞けない長さを喋ってまで、私を慰めようとしてくれる。


と、思って感動してたのに。


「……ねむい……ぐぅ……」

「や、あの、寝ていいけど、このままだと私が倒れ」


なんとか起こそうとする前に、自分の体が潰れた。
しっかりと抱きしめられて離せないおかげで、衝撃を受けた背中が痛い。
呻き声をあげてると、トゲーが心配そうに私の顔を覗いてくる。


「ねえ、トゲー。私を助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、そんなに疲れるようなことかな?」


いつもより余分に喋ったのもあるかもしれないけど、これは酷すぎる。
これじゃ動けないうえに、きっと私を探してくれてる他の皆に無事を伝えられない。


「クケー。クケケー」


もっと早くにが一人になったことを知ってたら、あんなことにはならなかったと思ってたんだよ。
だから、きっと緊張がとけたっていうのもあったんじゃないかな。


……本当に、どうやったらその短い間に、それだけ喋ってるんだろう。
不思議に思うけど、それを言うなら、私がどうしてなんとなく分かるかも不思議だからきりがない。
せめて、携帯があれば良かったけど……着替えた時に置いてきちゃった。


「本当に、皆優しいね。私なんかのために、探し回ってくれて」


暇だから寝るのもいいかもしれないけど、そうすると誰も見つけてくれなさそうだ。
誰かがこの部屋の前を通ってくれるのを待ってる間、トゲーと話すことにした。


「このメイド服だって、必要ないのに作ってくれたし」


絶対にClassAの生徒からより、B6のファンから怨まれる方が当たり前だと思う。
なのに、そういう子からのイジメとかの問題は起きたことがない。
永田さんや山田さんの話を聞くと、それも彼らが私を事前に守ってくれているからだと言う。


「甘えすぎてるよね、私って」

「そんなことはない……僕たちだって、に甘えてる」

「あ、起きた?」

「……ぐ〜……」

「寝たふりするなら、喋るな!」


トゲーが私の代わりに退くよう言うと、瑞希はゆっくりとした動作で動く。
背中を摩るために上半身を起こすと、膝の上に頭を置いてきた。


「瑞希。何をしてるのかな?」

「膝枕……これで、も苦しくない……」

「苦しくないけど、動けないでしょ!私は自分のクラスに戻らなきゃならないのに!」


きっとクラスメート達に怒られるだろうなぁ。
遊んでるわけじゃないけど、戻るのが遅いのは事実だし。


「皆にも無事だってことを伝えなきゃいけないし」


ぴくりと瑞希が動いた気がして下を見ると、瑞希は私を面白く無さそうに見ていた。


は覚えてる?僕たちにその姿を見せた時に言ったこと」


今日は本当に珍しい。
ここまで瑞希が喋るとは思わなかった。


「うん、ご主人様って、遊びで言ってた」

「そう。だから、今日は一日、僕のメイドさん」

「……そういうことにしたいの?」


嬉しそうに頷くから、つい言うことを聞く気になってしまう。


「では、ご主人様。膝枕でよろしいですか?」

「あ……あと、頭を撫でて欲しい……」

「畏まりました。他には?」

「……ずっと……傍にいて……」


寝たら遊びに付き合うのを止めて、いなくなると思ったのかもしれない。
自分のクラスに戻ったって、逆に迷惑をかけるだけだろう。
瑞希の頭を撫でながら了承した。


「今のは……一生の命令……ぐう〜……」

「……さりげに爆弾発言だけして寝ないでよ!」















- back stage -

管理:選択肢、瑞希バージョン!
瑞希:本当に……頑張って喋ってる……
管理:や、それを自分で言ったら駄目だってば。
瑞希:でも……これ以上、喋れない……
管理:が、頑張って喋ってくれー!
瑞希:ぐー……
管理:ああああ、終わっちゃった……

2008.07.11

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