南悠里が高等部に赴任してから、一ヶ月が経った。
しかし、彼女の担当するB6は相変わらずホームルームに出なかった。
「きっと、朝からこのバカサイユにいるんでしょうね」
無駄に大きくてセンスを疑う建物を前にして、悠里は意気込む。
朝からこのバカサイユを張っていれば、B6を捕まえることができると考えたのだ。
「一応、開いてないと思うけど……」
その手は、ドアノブを掴む。
少し動かすと、簡単に開いた。
また鍵を閉め忘れていたのだとすれば、かなり無用心である。
「入っちゃおうかな……えーい、入っちゃえ!」
不法侵入だと問われる心配を構わず、入室する。
そこに、見たことのない姿を目にした。
綺麗にまとめられた髪はキャップに収められ。
黒く丈の長いワンピースの上に、腰で巻いてるエプロン。
どこからどう見ても、メイドである。
それも英国式の、ということは筋金入りだ。
「あの……もしかして、新しい翼様の担任の南先生ですか?」
「は、はい!えと、すみません、勝手に入ってきたりして」
「いいえ、構いませんよ。あ、ですが、翼様に見つかる前に、出られた方がよろしいかと」
彼女の忠告に従い、悠里は外でB6を待とうとした。
しかし、その前に翼が入ってきた。
「貴様……朝っぱらから何をやっている」
「あ、おはよう、翼くん。その、実は……」
「おはようございます、翼様。大変申し訳ありません、私が南先生を招いたのです」
真実を告げようとする前に、メイドの彼女が悠里を庇った。
意外そうな翼は彼女を見る。
「おまえが……?」
「はい。翼様の新しい担任に是非、ご挨拶をと考えまして」
「勝手なことをするな。は自分の仕事にだけ専念していろ」
と呼ばれた彼女が再び謝る。
仕方ないといった具合に、翼が彼女の紹介をした。
「こいつは、だ。このバカサイユ専用のメイドとして雇っている」
「はぁ……あ、私は南悠里です、よろしくお願いします」
「いいえ、こちらこそ。紹介するのが遅れてしまって、申し訳ありませんでした」
丁寧な振る舞いに感心しながら、悠里はその場を退場せざるをえなかった。
不機嫌になった翼が、永田に彼女を放り出すよう命じたのだ。
「子猫チャ〜〜ン!今日の放課後こそ、ぜひぜひデートしに行かな〜い?」
「落ち着け、この野生動物」
「ぎゃー!」
職員室で繰り広げられる葛城と鳳のやり取りは、いつ見ても驚かされる。
悠里が下手に近づかないよう気を遣ってから、ふと今朝の出来事について彼女は喋った。
「そういえば、先生が来てからは、彼女が職員室に来ることがなかったね」
「というより、あのバカサイユを出入りしていながらも会わないことの方が珍しいかと」
面識がある言い方をするT6は動じていない。
鳳と二階堂がそれを代表していた。
「それは、どういうことですか?」
「ちゃんはメイドとして雇われちゃいるけど、B6のお姉さん的存在でもあるんだよ」
「だから、バカサイユにいれば、B6と一緒にいるところを見てても可笑しくないってこと」
葛城と真田が答える。
「子猫チャンもちゃんと仲良くなりたいなら、6時過ぎに声をかければいいゼ」
「6時……放課後の?」
「そうそう。バカサイユ専属メイドだから、働いてる時間も一応決まってるわけ」
彼女にも目をつけている葛城が妄想の世界に入る。
そして、勝手に雄叫びをあげる彼の頭に鳳はいつものアイテムで黙らせた。
「そういや、って幾つなんだ?」
唐突な九影の疑問に葛城が手をあげる。
「はいはーい!銀児様、この間聞いてて知ってます!26だってさ、いい女だよね〜」
「え?俺が去年聞いた時、21だって言ってたけど?」
「可笑しいですね。私が訪ねたのは三日前ですが、24だと仰ってましたよ」
意見の食い違いには、T6も動揺が隠せない。
謎が生まれたとろこで、それまで黙っていた衣笠も口を開いた。
「そういえば、さんの名字を誰かご存知ですか?」
「……聞いたこと、ありませんね」
二階堂の言葉に、他の者は頷く。
さらに謎が深まってしまった。
彼女は彼女で侮れない人間のようだ。
「まあ、はB6と違って常識人だし、付き合うのに問題はないはずだから!」
真田は問題なしとするが、悠里はなんとなく不安になりつつ、それを信じることにした。
who's she?
- back stage -
管理:実は脳内にいたもう1人のヒロイン設定を軽く紹介。
真田:本当に軽すぎて、B6ともT6とも絡んでねぇじゃん!
管理:それはこれからだよ、これから。
衣笠:そうでなければ、意味がありませんよね〜。ふふ。
管理:……さりげに自分を推すの、やめてくれませんか。
衣笠:おや、そういうつもりではないんですけど……そう思いました?
真田:……俺、そこまで図々しいことできないや……
2008.07.11
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