進む道。








「隊長、ちょっと流魂街行ってきてもいいですか?」





だんだんと肌寒くなり始めた9月中旬。



陽射しが暖かく、眠くなるような午後、突然が言い出した。




「....勤務中ってわかってて言ってんのか?」






「もちろんです。非番と重ならなかったんで」





極上の笑みで微笑むこいつは、



多分、今日を非番にしなかった俺を暗に責めている。




ったく、適わねえな...







「....わかった。だが俺も行く。いいな?」




「子供じゃないんですから...」






最初は渋ったが、最後には了承した。




惚れた女の故郷くらい、見ておきたかった。




思い立ったが吉日って感じの性格をしているは、





思った通り、行くと決まった数分後には精霊廷を出発した。


















++++
















の故郷は、精霊廷からさほど遠くない場所にあった。



治安も良い方で、ガキでも外を遊び歩けるような、




俺ややちるには縁のないような場所だった。




別に羨ましいわけじゃなくて、




が育った場所が、ここで良かったと思った。







目の前を通り過ぎていくガキどもの中に




一人だけ、走らないやつがいた。




はそいつに近付いていって、しゃがんで目線をあわせてから話し掛けた。








「...まーだ走れないの?なっちゃんは」





おねぇちゃん!!何でここにいるの!?」






どうやら知り合いだったらしく、




顔を輝かせた「なっちゃん」とやらはに飛びついた。




はそいつを抱き上げたまま、同じく笑顔で





俺の方を振り向いた。








「隊長、この子、ここに住んでた時に妹みたいに可愛がってた子なんです」





おねぇちゃんのお友達?」





「そうよ。えらーい人なの。ほら、挨拶して?」





「初めまして、お兄ちゃん。なつみっていいます。」




「だからなっちゃん、つーことだな。更木剣八だ」





「剣ちゃんねっ!」







そう微笑んだなつみとやらの顔が






少しだけやちると被ったんで、驚いた。






なんとなく顔を見ていられなくなって、






くしゃっと頭を撫でて、背を向けた。









おねぇちゃん、剣ちゃん優しいね」





「...そうね。私達みたいな部下の事、とても考えてくれてるの」





「そっか、すごいね!...あっ!なつみ、そろそろ行かなきゃ...」





「お母さんが心配するもんね。走って行ったら?」





「でも....なつみ、転ぶの恐い」





「前にも言ったでしょ?本当に恐いのは、転ばないように歩くことなの。

転ぶのは、一生懸命走ってる証拠なんだから。

...痛いって思うことを忘れちゃったら、

きっとこれから...何をするにも恐くなっちゃうんだからね?」




「....わかった。なつみ、走って行くから、見ててね!」




「うん。また来るからね。ばいばい」





「ばいばい!」







背を向けていても、会話は聞こえた。





がやちるに慕われている理由が、わかった気がした。



それと同時に、なつみに言い聞かせていたことは




が、自分に言い聞かせていることでもあるように思えた。








「じゃ、私達も帰りましょうか」





「...おう。.........オイ





「はい?」







「お前も転んでいいんだからな」






「......は?」






「転ぶのは進んでる証拠だ。俺の隊にいるからって、

転んじゃいけねえなんてことはねえんだ。

お前は少し気張りすぎなんだよ」







こんなことを言うのは俺のキャラじゃねえが





のためならそれもいい。





暫く驚いた顔をしていたも、俺の言葉を理解すると嬉しそうに笑った。









「....帰りましょうか」





「....ああ」
















帰り道、握った手の暖かさが妙に現実っぽかった。





の暖かさを保つためなら、どんなことでもしてやる。




そう誓った。












=====To21のぼやき=====
相互記念で「kitchen」の恋から頂いた、剣八夢です。
あぁぁ、その寛大な貴方の胸に飛び込みたい!なんて夢見させてもらいました。
ありがとう、恋!素敵な夢をくれて、ありがとう!

須川恋様の「Kitchen」へは、escapeのページからドーゾ。