おサボりは許しません!
…なんてのは建前で
今日はいつもの借りを万倍返しするつもりなのでお覚悟を!
只管打坐
天気も上々、修行をするには良い日です。
しかし、太公望にとっては修行よりも昼寝をしたくなるような、そんな日―――
「ぬぅー…修行などかったるくてやっておれぬわ!」
太公望は、一応これでも道士だ。
修行をして仙人の免許を取ることを目標に、日々鍛錬すべき身なのだ。
しかし、やはりと言うべきか…
修行嫌いな太公望にとって、今日の様な天気の良い日に修行などと言うはずもなく…
さっさとサボって昼寝でもしようとしたその時…
「まぁーた修行ほっぽり出して逃走する気ですかな?太公望殿?」
「む…その声は……」
後ろから飛んできた聞きなれた声。
揶揄するようなこの声の持ち主を、太公望は一人しか知らない。
「お察しの通り、ちゃんですよぉー」
太公望が振り向くよりも早く、は軽やかに太公望の前に飛んできた。
そのままストンと座り、太公望に目線を合わせた。
太公望はというと、サボる機を逸し、ため息混じりにに訊ねた。
「………何をしにここへ来たのだ?」
「望ちゃんに修行をサボらせない為、ちゃんが見張り役なのですよ。なんとも迷惑な話ですね」
「まったくだのぅ…」
「はぃ?望ちゃんじゃないよ、私が迷惑してるんですよー」
はまったく、と言いながら掌を上に向け首を横に振った。
「迷惑だ」と言う単語に太公望もうんうんと頷いた。
が、しかし。そこじゃないでしょうとの突込みが入る。
それにムッとして太公望、負けじと静かに言い返す。
「迷惑なら断れば良い事であろう?」
「そうなんだけどねぇ。ふふふ、実はねぇー。見張り役だけじゃないんだよねー目的は」
「…?」
チッチッチ、と人差し指を立てて太公望に言った。
そもそも目的とは何ぞや、と太公望の頭上には疑問符が数個飛んだ。
「望ちゃんをね、修行にかこつけて苛め抜けるというね、うん。素敵な条件で承諾したのですよ」
「は……?」
「いいもの手に入れたのよね。で、早速誰かで試したいなーとか思ってたら…
あら偶然。私のもとに舞い込んできたチャンス!で、そのモルモットが…」
「わしかい!」
身体を左右に揺すりながら活き活きと話す。
それを心底嫌そうに見ながら聞いていた太公望。
そして、ついにの目的が分かりそれ相応に反応。
勢い余って立ち上がったことを補足しておこう。
「ピンポンピンポーン!大正解!!」
「正解しても嬉しくないわい!とっとと帰らぬか!」
わーすごーい、と座ったまま拍手をする。
それを見て更に怒鳴る怒鳴る太公望。
まぁそうだろう。こう言ってやって来たに何度も痛い目を見せられてきたのだから…
「やだもーん。せっかくちゃんが君の精神を鍛えてあげようって言ってるんだから、素直に聞き入れたまえ!」
「それに言ったでしょ、見張りだって」、とは言う。
何が見張りだと思いながらも、先程修行をサボろうとしていた自分を思い出し返す言葉に詰まる。
「ぬー……」
「ま、逃げると容赦なく背中に宝貝攻撃ぶちかますのであしからず」
今にも隙をうかがって逃げ出そうとする太公望に、は釘を刺す。
完全に逃げる機会を逸した太公望は、深い溜め息を吐きながら呟いた。
「はぁ…どの道わしは可哀相なネズミと言うわけか……」
「そゆこと。じゃ、話が分かった所で早速ですがちゃちゃっと座禅組んで、望ちゃん」
「うむ…」
これ以上何を言っても逆らっても逃れられないので、素直に言う事を聞く事にした太公望。
ここで本気で逃げなかった事を、後でとてつもなく後悔することを、まだ彼は知らない…
はいそいそと何処からともなく長い板のような物を取り出し、口の端を吊り上げ意地悪く笑った。
そして笑った顔はそのままで太公望に言った。
「では今から1時間無心でいてください」
「は…?」
突然何を言い出すと太公望は抜けた声を出した。
しかしいたって不真面目に真面目なはもう少し詳しく太公望に告げた。
「考え事をしないの。頭を空にするの。雑念を払うの。寝てもダメだよ?姿勢を崩してもダメー。
で、できてないと私が容赦なくこれで肩をひっぱたきます。オッケー?」
「良いわけなかろうが!第一そんな確認し難い事でビシバシやられてはたまらん!」
「えー。別にいいじゃない」
「良くないっちゅーに!」
良いや悪いやの押し問答。
これではしたいことも出来ないとはぶーっと頬を膨らませた。
そして、あることを思いついた。
それは…
「むー……。じゃぁ、私の手料理食べる?」
「…………………」
太公望、のたった一言に顔面蒼白。
滝のように汗が流れている。
は更に笑顔を増して太公望に詰め寄る。
「ん?どっちがいい?それともどっちも?」
「……手料理だけは勘弁してくれ」
「ふんだ。なら始めから叩かれてりゃいいじゃないのよ、まったく」
「選択肢の意味がまったくなかったがのぅ…」
「何か言った?」
「い、いや、何も言うておらぬよ」
ギロっと恐ろしい目で見られ、太公望は慌てて口をふさいだ。
そもそも何故の手料理をそんなにも嫌がるのかというと、それにはやはり訳がある。
は割りと何でもそつなくこなすのだが…たった一つだけ不得手なモノがある。
それが料理だ。
何度普賢が手ほどきしても無理だという致命的なまでの料理音痴なのだ。
幾度と無くその殺人的料理を食べさせられた太公望やその他諸々は、の料理を心底恐れているのである。
補足終了。
「では改めて開始します!雑念を振り払えー!」
やっとこさ自分がしたかったことが出来るとはウキウキしている。
太公望はそんなを後ろにし、若干恐怖を感じながらも言われたとおりにしていた。
5分経過。
「………………ピクッ」
「喝ーーー!!!」
「ぎゃあー!な、何をする!」
「おしゃべり禁止―!」
バシッ
「雑念を感じたのですよ、それだけ」
僅かに動いた太公望を見、は凶器と化したそれを鬼人の如く太公望の右肩めがけて振り下ろした。
本来のマニュアルはまったくの無視である。
そして太公望はそのあまりの痛さに振り返りながら抗議した…が、それさえも私語とみなされもう一発お見舞いされる。
「く、くぅー…」
「いつも面倒ごとばっかり押し付けられてますからね、その分きっちり返させてもらうから!」
「………」
にっこりと、とても綺麗で顔で、物凄くどす黒いオーラをかもし出しながら、は笑った。
それを見た太公望は、先程よりも更に顔を青くし、これはもう覚悟を決めるしかないなと胸中で泣いた。
出だしの一発がきっかけとなり、その後太公望は何度も何度も、繰り返し繰り返し叩かれまくった。
「喝ー!」
「ぎゃあー!」
「喝ーー!!」
「ぐぇえーー!!」
「喝ーーー!!!」
「ぎやぁあぁあーーー!!!」
こうしての実験&報復は、1時間みっちり続けられた。
終わった後には、肩を真っ赤に腫らした太公望が、精神よりもむしろ打たれ強さを学んだかもしれないと
一人痛みを堪えながら思うのでした…
Fin
=====To21のぼやき=====
相互記念で、「天空の孤城」の天宮月様から太公望夢を頂きました。
普段は苛めっ子である太公望が、逆に苛められるのを見て喜んでるのは私です。
そんなリクを引き受けて下さった月様に万歳。
天宮月様の「天空の孤城」へは、escapeのページからドーゾ。