人と触れ合うことが、こんなにも嬉しい事だなんて思わなかったのに
私は、また人を殺めてしまうのだ
唄に残す想い
〜He is here〜
「好きだ・・・と、思う。」
それが、ネジに起こされて聞かされた、彼の台詞。
木の葉の里に来て、一ヶ月半。
私が関わっていた事件も未解決のまま、時間が経っていた。
そして、私も記憶喪失の設定のまま、木の葉の皆と仲が良くなっていた。
「何、言ってるの?」
寝ぼけているのだろうかと思考をめぐらせながら、聞いてみる。
だけど、ネジは真面目に答えた。
「だから、好きなんだと思う。」
唐突に何を言うんだ、この人は。
驚きはしたけど、話の内容は何となくつかめた。
きっと彼も言っておきながら混乱しているのだと思い、丁寧に聞きなおした。
「誰が誰を好きなの?」
「俺が、お前を。」
そこで、初めてネジの顔が赤くなる。
それを見た私も、つられて赤くなってしまった。
「えっと・・・でも、『思う』んだよね?」
「あ、ああ。」
静寂になるのが嫌で、何か話してみる。
今まで、こんな風に歯痒い感情になった事は無かった。
「確信はしてないんだよね?」
「そう、だな」
心境的には、好かれてても可笑しくないんだけど。
本人は、まだ自覚がないらしい。
「じゃあ、とりあえず部屋を出て行ってもらえる?着替えたいの。」
そう伝えれば、自分が何をしたのかを今、初めて気付いたようで。
悪かった、と一段と顔を赤くして、部屋を出て行った。
ネジは、私の事が好きらしい。
私が狙っていた通りに事が進んでいて、喜びの気持ちはあった。
もう少しすれば、私はこの里を出て行かなければならないから、彼には可哀想な事をするが。
だけど、私も変な思いを抱えていた。胸が締め付けられる感覚がする。
彼が好いてくれる事を嬉しく思う半面、私の事を好きにならないで欲しかったと今更願った。
着替え終えると、私はネジがいるであろう居間に向かった。
案の定、私を待っていたのか、ネジはお茶を飲んで待っていてくれた。
「ねぇ、ネジ。今日は、お仕事ある?」
湯呑みを手にしながら、甘えた声を出してみる。
彼は、無表情で答えた。
「いや。今の所、無い。」
「じゃあさ、デートしようよ。」
飲んでいたお茶を喉に詰まらせて、咳き込む姿を見守る。
落ち着きを取り戻した彼に、再度聞いてみた。
「それで気持ちを確認してみるのも、良いんじゃない?」
「・・・止めておく。」
我ながら、上手な誘い方だと思ったのに。
仕方ないから、ありきたりな方法を使ってみた。
「そっか。じゃあ、今日はキバと遊んでもらおうかな。」
「勝手にすればいい。」
逆効果。
乱暴に湯呑みを置くと、ネジは立ち上がる。
私は思わず、部屋を去ろうとするネジの服を掴んだ。
「何だ?」
「あ・・・なんでも、ない。」
一瞬でも、相手にされない事を寂しいと感じてしまった。
だけど、ネジの相変わらず表情のない顔を見て、手を離す。
そんな私が、ネジの目にどう映ったのか分からなかったが、頭を撫でられた。
「そういえば、今夜は祭りがあるな。」
「祭り?」
「一緒に行くか?」
ああ、私も自分の気持ちを確認する必要があるんじゃないだろうか。
その一言で舞い上がるなんて、あってはならない事だというのに。
「行きたい。」
私が微笑むと、彼も微笑み返してくれた。
「お祭りがあるって、知らなかったなぁ。」
屋台で賑わう中、私はネジに話しかけた。
彼は、私の顔など見ずに答える。
「火影様が、祭りを施したんだ。急すぎて、あまり話題にのぼらなかったんだろう。」
「なるほど。」
お祭りだなんて、もう記憶にないものを目の前にして、心が浮かれる。
一つ一つのお店が出している物が何なのかをネジに尋ねると、説明していってくれた。
それどころか、彼は私が興味を持ったもの全てに代金を出してくれた。
手にした水ヨーヨーを見つめていれば、何時の間にかネジの背が遠く離れている。
はぐれないよう、急いで駆けつけようと歩き出した時、見知らぬ男に声をかけられた。
このお祭りでは相応しくない、その雰囲気に警戒をする。
「失礼ですが、北の方向はどちらでしょうか。」
警戒するだけでは、駄目だった。
大蛇丸様は、やはり私を放っておいてはくれないらしい。
彼の合言葉の一つである問いに、静かに答えた。
「私の主が示す先が、北だと信じております。」
その答えに満足した男が、頷く。
このまま此処にいればネジに見つかってしまうので、私はその男を連れて裏道へ入った。
「何の用ですか。」
「これは、これは。分かっていらっしゃるでしょうに。」
様、とお呼びすれば宜しいですか。
笑顔の似合わない男だ、と思いながら、それには返事をせずに聞きなおした。
「大蛇丸様には、すでに連絡を入れましたが?」
「しかし、あの方は様の早いお帰りを望んでおられます。」
それは、そうだろう。
帰りを望んでいなければ、わざわざ私を探させる事などありえない。
だけど、私はまだ帰りたくない。
私は、頭の中で唄を歌い始めた。
我は願う
己の翼が羽ばたくのを
「私を見つけた事、大蛇丸様には伝えた?」
「いえ、まだでございます。」
なかなか愚かな使者をよこしてきた。
あと数日は、この里にいられそうだ。
我は願う
己の心が休まるのを
「さあ、行きましょう。我々の主が待つ所へ。」
「遠慮しておきます。」
さすれば、我は舞おう 己の為に
永久に眠りにつかせよう、我の唄で
誰にも邪魔されずに安まる事を 我は願おう
歌い終われば、男は何も言わずに裏道を出て行った。
そして、彼は里の外へと向かって行く。
明日の朝にでもなれば、道端で心臓発作を起こして倒れた男が発見されるだろう。
しかし、彼が大蛇丸様から使わされた者であれば、身元など分からずに捨てられるはずだ。
しばらくしてから、私は祭りを楽しむ人混みの中に紛れた。
-back stage-
管理:いよいよ、次は最終話!
ネジ:早過ぎないか?
管理:何を言ってるんですか、結構長かったじゃないですか。
ネジ:無駄な所で話を伸ばしたからじゃないのか。
管理:・・・なんで、私の書くキャラって皆、冷たいのかなぁ。
ネジ:そんな事、俺が知るはず無いだろう。
2006.06.19
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