「初めまして。僕は、アレン・ウォーカー。アクマを救済するエクソシストです」
黒いコートに身を包んだ少年が、私に微笑みかけている。
誰も訪れようとしないこの家に来る物好きとしては、少し予想外だった。
可愛い子の訪問は、今まで無かった。
無言で彼を見つめていると、アレンと名乗る少年は戸惑いながら話をした。
「あの、さん、ですよね。実は、貴女の周りで起こる不思議な現象について聞きたいんですけど」
「アレンさん」
「は、はい」
「私の周りで何が起こっているか、町の人から聞いた?」
聞いているならば、こうして殺人犯に会いにくるはずも無いのに。
確認をしてみると、彼は深刻な顔をして頷いた。
「聞いています。だから、来たんです」
「私は喋れないわよ」
「それで構いません。まずは、僕の話を聞いてくれませんか?」
どうして、そこまで必死になるのか。
興味を惹かれて、つい私は彼を家の中へ招いた。
「つまり、さんの周りで起こってる現象は、イノセンスの可能性があるんです」
話の途中で腹の虫が鳴った彼の為に出された料理が、次々と無くなっていく。
その量とスピードに感心しながら、私は話を聞いていた。
「さんが言うことを、聞いた人が絶対に従ってしまうのは、貴女がイノセンスの適合者である可能性も」
「いったん、水を飲みなさい」
ひたすらに食べ物を口に詰め込む彼が、いつ喉を詰まらせるか不安で言う。
すると、いつもの現象で、彼は否応無く水分を取った。
もう大分前の話。
私が迂闊に喋れば、相手の行動を奪えてしまう現象が起こった。
最初は、まだ些細なこと。
だけど、それは友達を殺めてしまうまでになってしまった。
普通に友達同士なら起こりうる、喧嘩。
ついカッとなった私は、思わず口走ってしまった。
『大嫌い!あんたなんか、死んじゃえばいいのに!』
ただの言葉が事実になってしまってから、町の人は恐れて、もう私に話しかけようとはしない。
私も、口を開かないようになっていた。
満足に会話すらできない、この生活に嫌気が差す。
だけど、私は喋ってはいけない。
人を傷つけたくないから。
私の罪は、人と関わらないことによってしか償えないから。
「ぷはぁ。すみません、言ってくれなかったら、喉が詰まってたかもしれません」
苦笑したアレンさんは、感謝してくれるけど。
「それで、何が言いたいの?」
この質問だって、普通に聞いているだけなのに。
「イノセンスを見つけましょう。そして、貴女も僕たちの仲間になってくれませんか?」
彼は聞かれたから、答えてるんじゃない。
私が答えるように質問したから、答えている。
「今日は、宿をとってるの?」
「はい。考える時間が欲しいようでしたら、待ちます。でも、イノセンスは早く見つけるべきです」
そういう意味で聞いたわけじゃない。
私の答えはノーに決まっているから。
もう二度と、私の言葉で人を傷つけたくないから。
「アレンさん。今すぐこの家を出て、今日は町の外に居て」
「へ?う、うわぁぁ!?」
勝手に動く足が、彼を町の外へ向かわせる。
これで、日付が変わるまで彼は町の中に入れないだろう。
少しでも私の気持ちが分かってもらえたら、放ってくれるはずだ。
「すごいですね。本当に0時になるまで、町の中に入れませんでした」
にこやかに朝を迎えた彼が、また家の前に立っていた。
「この能力、後方支援には持ってこいですよ」
過去を知ってるからか、アレンさんは励ます言葉が多い。
放っておいて欲しいのに、彼は帰ってくれない。
アクマに襲われる?
別に構わないわよ、それで死ねるなら。
「町の人達も巻き込まれるんですよ?」
「どちらにせよ、町はいつか襲われるんじゃないの?」
その可能性はあります、と彼は答える。
「だけど、力があれば、救うことができます。さん、僕たちの仲間になってくれませんか?」
せめて、私が人を殺める前に来てくれたなら、仲間になったかもしれない。
でも、もう遅い。
「私が仲間にならなくても、イノセンスだけ持っていったら?」
「適合者が貴女なら、貴女以外の人には使えません。力を発揮するには、貴女も必要なんです」
「でも、イノセンスさえあれば、また適合者は探せるのよね?」
質問にしないと、間違って彼を操ってしまうかもしれない。
考えながら喋るのにも疲れてきた。
「それは、そうかもしれませんけど」
引き下がらない彼に、私は言う。
「それなら、私を殺して、イノセンスだけ持って帰って」
体が動かない。
少年の目に、血まみれになった自分が映った。
ああ、しまった。
すぐに帰れって言えば、彼が私の死を見届けることなんて無かったのに。
その気遣いを忘れてしまっていた。
二度と人を傷つけたくないと思っていたはずなのに。
ごめんなさい、貴方に罪を負わせて。
ありがとう、私を楽にしてくれて。
次に会うことがあれば、その時こそ楽しい会話ができることを願うわ。
何やら煌びやかなものが体内から出てくるのを感じつつ、私は意識を失った。
残酷な言葉
-back stage-
管理人:アレンが罪に苛まれる姿が好きなゆえ、思いついた話。
アレン:どういう苛めですが、それは。
管理人:つまりは、主人公にあまり力を注いd(殴
アレン:それ以上は言わないで下さい!
管理人:しかし、中途半端だよね。その後のアレンを想像するのが楽しかったから書いたけど。
アレン:書いた本人が言う台詞ですか、それ。
管理人:ふむ。私だから、言う言葉?
アレン:・・・もういいです。
2007.09.07
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