傷口
暗やみの中だと、普段自分が乗っているナイトメアが恐ろしく見える。
勝手に動きだして、攻撃されたらどうしよう。
だけど、今日はそんな心配なんて要らない。
彼らは今から始まる喜劇の観客なのだから。
私は、その乗り物を前に立ち尽くす男に近寄った。
「何をやってるの?」
きっと、降格した事を思っていたんだろうけど。
でなきゃ、誰もいないこの場所には来ないだろう。
一応は恋人である彼に声をかけると、返事をされた。
「こそ、わざわざ何をしにきた」
「あら、珍しい。仕事中はファミリーネームで呼ぶのに」
「勤務時間は、終わっている。だから、お前は来たんだろう」
仕事から解放されたなら、眉間に皺を寄せる必要もない。
よほど、傷ついたのか。だいぶ思い詰めてるようだ。
だけど、私はこれからそれで遊ぶつもりだった。
「オレ・・・ジェレミアの姿が見えたから来たの」
「今、何て言い間違えそうになった?」
早速、問い詰められる。
彼は、すっかりあの言葉に敏感だ。
「さあ。忘れちゃった」
「嘘を吐くな、」
「いえ、本当ですって、オレンジ卿・・・ジェレミア卿」
あ、とうっかり言ってしまったかのように、私は口に手を添えた。
ジェレミアは良い顔をしない。
うぐ、と声を詰まらせないようにすることに精一杯で、私が故意的にやったとは思わなかった。
私にはその声が聞こえてしまってたけど、言わない方が良いのだろう。
「も私の居ない所で、それを言っていたんだな」
「表向きにだけよ」
軍の組織は上下関係に厳しいのは、貴方も知っているでしょう?
苦笑いで返せば、納得したのか、黙ってナイトメアに向き合った。
私は、ワイングラスを手にしてることを彼に音を鳴らすことで知らせた。
「それで機嫌をとろうとしても、そうはいかないぞ」
そんなことを言ってるわりには、グラスを奪う。
素直じゃないんだから。
「理由はどうあれ、共に戦えることを祝福したかったから」
もっともらしい事を言って、油断させる。
この気持ちは本物だけど、既に開けられていたワインから注ぐ味は偽物だ。
暗やみだからこそ、できる仕掛け。
「祝うのに、新品じゃないのか」
「私は、お金持ちじゃないの。文句を言わないで」
そう、ワインなんて滅多に飲まない私に、これ以上無理をさせないで。
勿体ないから、入っていたワインは全部一人で飲み干したのよ。
ただの酒飲みに渡すなんて、言語道断。
「では、ジェレミアが再び一パイロットになったことを祝して」
「祝ってもらうようなことじゃない」
くいっと、勢い良くワインを飲み干す彼は、突然むせる。
中身が何であるか、ようやく分かったようだ。
私は問題なく自分に注いだ分を口にした。
「!私をそこまで怒らせたいのか!」
「そんなつもりは無いわよ」
酸味のきいた飲み物で喉を潤す。
ジェレミアの顔が真っ赤なのは、部屋が暗くても分かった。
「だっだら、何だ、これは!」
「オレンジジュース」
「私を愚弄しているだろう」
「まさか。たまたまワインのビンにジュースを入れてただけよ」
何時も忙しいとか言って相手をしてくれなかったんだから、これぐらいの仕打ちは許してよね。
グラスに入ったジュースを飲み干して、笑った。
「喧嘩を売ってるなら、買ってやる」
ああ、これでしばらくは口をきいてくれない。
そう思った私は、まさか彼に腰を抱き寄せられるとは考えなかった。
密着した彼が、私の顎を掴んで上に向ける。
ジェレミアは、不敵な笑みを浮かべていた。
「嫌とは言わせないぞ」
仕方ない、ここは黙ってされるがままにしておこう。
相手にしてもらえて嬉しいわけじゃない。
この男に力で適うはずが無いから抵抗しないのだ。
「オレンジのくせに」
それ以上貶された気分になりたくないのか、彼に口を塞がれてしまった。
-back stage-
管理:愛ゆえに書いてしまった、ジェレミア夢でした。
オレ:ちょっと待て、何故ここの名前表記が『ジェ』でない!
管理:そういう運命に生まれたから。
オレ:意味が分からんぞ。
管理:別にいいじゃん、おれんj・・・
オレ:あー、聞こえない、聞こえないぞ!
管理:聞きたくないなら突っ込まなきゃ良いのに。
オレ:だったら、最初から私で遊ぶな!
管理:内容の解釈として、傷口=オレンジネタ。
オレ:言わなくても分かっている!
2006.12.20
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