「何で笑ってるの」
頬が緩んでいた織姫に、が声をかけた。
彼女は驚いていたようだが、周りからすれば当然の出来事である。
「お、おはよう、君!」
「そうじゃなくて。何で人の顔を見ながら笑ってるのか、聞いてるんだよ」
その質問に、彼女は変わらぬ笑顔を見せた。
「だって、君も笑うじゃない」
何を言ってるのか、訳が分からない。
理解することを放棄したは織姫を無視して、自分の席につく。
織姫は、最後までずっと笑顔だった。
「おはよう、君!」
彼が織姫に声をかけてから、織姫は毎日挨拶をしてくるようになった。
しかし、は無視して教室を出て行く。
その後を織姫が追った。
「君は、今朝なに食べた?あたしはね、今日は奮発して食パンと生クリームを食べたよ!」
どこへ行こうとしても、彼女が付きまとう。
一人の時間が確実に減ってしまったは、最終手段に出た。
「おまえ、この中までついてくる気か?」
男子トイレの前で立ち止まる。
さすがの織姫もそれには慌てた。
「ごめんね。じゃあ、先に教室に戻ってるから、またあとでね」
手を大きく振って、去っていく。
それを見届けてから、彼はトイレには入らず、校舎の裏側へ出て行った。
HR、昼休み、放課後に必ず向かう場所だ。
何故か誰もいない時間帯なため、一人になるには最適だった。
「あ、やっぱり来た!」
そのはずなのに、先程撒いたはずの織姫がそこにいる。
帰ろうとしたを彼女は袖を掴んで離さなかった。
「一緒にいさせてもらうだけでいいから!」
「それが嫌だから、帰る」
「お願い!邪魔はしないし、君がここでサボってるの、誰にも言わないよ!」
痛いところをつかれてしまい、は黙って座り込んだ。
「どうして、俺がここにいるって分かったんだ?」
初めて言葉を交わした時以来、彼からは話そうとしていなかった。
その進歩に感動した織姫は、話を逸らす。
「君、やっと喋ってくれたね!どれだけ無口なのかと思ってたよ」
「人の話を端から聞く気無いんだな、おまえ」
「だって、黒崎君もちょっと無愛想だけど、君ほどじゃないんだもん」
「あいつは、無愛想じゃないだろ。俺と違って、笑うんだから」
腕を頭上で組み、背筋を伸ばす。
肩の疲れを感じていたは、腕を軽く回した。
「あ、マッサージしてあげようか?」
「いい。大したことないから」
パソコンを長時間やりすぎた、と後悔しながら訊ねなおす。
「それで、何で俺がここにいるの知ってるわけ?」
「うわぁ、可愛い!猫だよ、君!」
またしても、話が逸れる。
織姫が懸命に猫に触れようと、鳴き声を真似て手招いていた。
だが、猫は近寄ってこない。
「怪しすぎるから、近寄らないんだ」
見ていられなくなったが軽く手招きすると、猫はすんなり歩み寄った。
彼に抱えられて、気持ち良さそうにしていた。
「ほら、触るなら触れ」
「あ、うん。ありがとう」
織姫が猫の頭を撫でる。
猫は目を瞑るほど、居心地が良く思えたようだ。
ふと、織姫はの顔を覗く。
「可愛いね」
「動物が好きなら、そう思うかもな」
「そうじゃなくて、君の笑顔」
予想していなかった言葉に、の顔が一気に赤くなる。
織姫は、ただ笑っていた。
「そういうことかよ」
それだけで、全てを理解したが呟く。
「うん。でもね、きっかけはここで君を見たからじゃないんだ」
きっかけは、もっと身近にあったの。
その時のことを思い出して、彼女は楽しそうに微笑む。
「授業中に窓の外にいた小鳥が戯れてるのを見て、笑ってる君を見たから」
「それで、俺が笑うからって言ってたのか」
授業中ということは、無意識にしてしまったことだろう。
今後は気をつけておこうと思ったを織姫が止めた。
「ねえ、もっと笑った顔、見せて?」
あたしは、もっともっと、あなたに笑顔を見せるから。
- back stage -
管理:最初は、ここまで甘い雰囲気になるはずではなかったです。
織姫:え、じゃあ最初はどんな感じだったの?
管理:もう少し、甘酸っぱいの酸っぱい要素が強かったはずなんだ・・・
織姫:へえ。じゃあ、大分変わってるんだ。
管理:変わったな。織姫のせいで。
織姫:すごい影響力あるんだね、知らなかった!
管理:・・・うん、まぁ、そういうことでいいよ。リクして下さった珀様のみ、持ち帰り/返品可能です。
2009.02.21
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