舞い散る中で





 「桜が舞い散る風景とは、美しいものじゃ」


仕事の休憩にと、出された茶を啜りながら、夜一は、言った。
隣に座り込んだも、喉を潤す。


 「そうか?俺は、桜を楽しむ心ってのが、分からないな」

 「らしい答えじゃの」


微笑する夜一は、特に気分を害されたわけではないようだ。
庭にある桜を飽きることなく見つめていた。


は、ただ茶を飲むことしか出来ず、退屈し始める。
その様子を見て、夜一は笑った。


 「これで、酒でも飲めれば良かったか?」

 「勤務中は無理だろ。少なくとも、砕蜂の目がある時は」

 「そうじゃの。あれには、困ったものじゃ」


そのまま後ろへと倒れこんで、は欠伸をした。
何か余興になるようなモノはないかと考えた夜一は、顎に手を添える。
そして、手のひらをポンと打った。


 「。そんなに暇なら、舞ってみないか?」

 「誰の為に、そんな面倒なことを」

 「儂のためにじゃ」


は眠った体勢のまま、夜一を睨みつけた。


 「貴族であるお前も、踊れるはずだ。自分が舞え」

 「刑戦装束で舞うことは、難しいからの。嫌じゃ」

 「俺だって、死覇装で踊るのは、無理だ」

 「それもそうかもしれぬ。砕蜂、おるか?」


執務室にいる部下に声をかけると、彼女はすぐに近寄ってきた。
夜一の後ろで跪き、用を聞き入れる。


 「今から、舞のための衣装を用意して欲しいのじゃ。もちろん、男用でな」

 「畏まりました」

 「男用だけかよ」

 「言ったであろう?儂は、踊らぬと」




砕蜂は、さほど時間をかけずに二人の元へ帰ってきた。
手にした服を受け取ったは、諦めて別室で着替えを済ます。


帰ってきた彼の姿を見て、夜一も砕蜂も見惚れてしまった。
面倒だと言っていたにも関わらず、服を身にまとえば、はそれに相応しい表情をしていた。


 「なかなか、様になるではないか」

 「真面目にやらないで、怒られてた記憶しかないけどな」

 「で、ですが、様、お似合いです」

 「ありがと、砕蜂」


としては、舞いたくない気持ちでいっぱいだった。
しかし、砕蜂に褒められたことによって、少し浮かれた。


 「じゃあ、舞えば良いのか?」

 「庭で頼むぞ」


室内で舞を始めようとした彼を夜一は、止めた。


 「やりにくい所を指名するなよ」

 「何故じゃ?桜が舞い散る中での舞の方が美しいじゃろう?」

 「だったら、この縁側でも良いだろ」

 「襖に手が当たる事を分かっていて、言っているのかの?」


口答えをしても敵わないことを悟り、は黙って庭へ入った。


 「数百年ぶりに舞うから、苦情は、無しな」



彼の動きに、誰が文句をつけられただろうか。
舞うの姿は、男とは思えないほどにしなやかな物腰。
の動きに合わせて、聞こえない音楽が耳に流れるかのようだ。


一言も喋らず見守っていた夜一と砕蜂は、舞い終えた彼を感嘆した。


 「さすがじゃのう。の踊りがあれば、まだまだ退屈はしないで済みそうじゃ」

 「素晴らしかったです、様」


もう少し酔い痴れていたかったが、砕蜂は二人湯呑みが空なのに気づいた。
それを下げて、その場から彼女が離れた所へ、は腰をかけた。


 「まだ退屈はしないで済む、なんて言うなよ。季節が変わるごとに舞わせる気か?」

 「それも、良いかもしれぬな」


口を開いて笑う夜一に、冗談じゃないとは嫌がった。


 「まぁ、今度は、お礼の代わりに儂の舞を披露してやるかの」

 「それなら、大歓迎だ」



夜一は、茶はまだかと待ちきれない様子のを宥めながら、再び舞い落ちる桜へと目をやった。









-back stage-

管理:夜一さんの口調が、微妙に分からない!
夜一:開口一番に、それを言うのか。
管理:あ、そうでした。3万打記念フリー夢小説、夜一編です。
夜一:何故に、『舞』なのじゃ?
管理:貴女が踊る姿を書きたかったから。
夜一:・・・儂は、舞っていないぞ。
管理:うん、失敗。機会があれば、また夜一を書きたいな。

2006.04.10

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