『とりあえず、各隊に挨拶をしてきて下さい』
零番隊副隊長とは初対面。
の、はずだが、いきなり命令された。
挨拶なら一緒に行けば良いのに、と思ったことを口にすれば、
派手なことは隊長がすることだと言って早速集まった仕事に手をつけ始めた。
こっちが何を言っても、聞かない。
仕方ないから、俺は一人で顔を出しに行くことにした。
一番隊・・・は、別に行かなくてもいいか。
<十三番隊>
先に十三番隊に行っておこう。
ここは、去りたくても去れない歓迎のされ方をするからな。
隊長が起きてるかも分からねえし。
「失礼しまーす。浮竹隊長、生きてます?」
「生きてるよ、。そんなに心配しなくても、今日は気分が良い方なんだ」
珍しく起きて仕事をしている浮竹隊長の脇には、席官が二人。
俺が来たことによって、どっちが美味い茶を淹れるか喧嘩し始めた。
いつもの事である。
「お構いなく。今日は、ちょっと挨拶しに来ただけなんで、すぐ帰ります」
「そう言うなって。ちょうど美味い菓子が手に入ったんだ。食べていけばいい」
「いえ、本当に他の隊に行かなくちゃならないんで」
「さん、遠慮なんて必要ないですよ!」
「そうだぜ、ほら、茶も淹れたしよ!」
これも恒例の一つ。
だから、良いって言ってるのに。
サボる時にここを訪問するのは良いが、用事がある時には来たくない場所だ。
結局、茶も菓子ももらって、一時間ほどそこにいる羽目となった。
<二番隊>
「失礼しまーす」
恐る恐る入った、二番隊。
砕蜂が待っていたかのように、そこに居た。
「零番隊など要らない」
いきなり、厳しい意見。
当たり前か、自分の隊と似た仕事もあるもんな。
「それは、上の者に言って下さい」
「言っても却下されたから、直接文句を言っている」
そう仰られても。
俺だって、好きで隊長になったわけじゃねえっての。
「だが、が実力相応の位に達したことは、祝ってやる」
「俺、隊長の実力、無いですよ」
「卍解ができていただろう。だから、認められた」
さすが、隠密機動部の隊長さん。
色々と知られたくないことも前から知ってたわけだ。
「公には、言ってなかったはずなんですけど」
「今回の件で、多くの人に知らされた。観念するんだな」
柔らかい笑みを向けられたことに驚いていたら、用が済んだなら出て行け、と追い出されてしまった。
・・・もしかして、照れ隠し、か?
あ、大前田副隊長に挨拶するの忘れてた。
<三番隊>
「あれ、市丸隊長。仕事中ですか」
昨日まで自分の上司だった人への敬語は、抜けにくい。
その上司は、珍しくも書類に目を通していた――泣きながら。
「、よう来た!ほれ、イヅル。が来たし、ちょいと休憩しよ」
市丸隊長が許しを請うが、吉良は容赦ない。
そりゃあ、隊長を無事に捕まえられた間でないと、仕事が進まないからな。
「駄目です。これの他にもやらなくちゃならない仕事があるんですよ」
「・・・お邪魔みたいなんで、もう帰りまーす」
「ああ、待って!行かんといて、ー!」
すみません、隊長。
キレた吉良を相手にするほど、俺も馬鹿じゃないんです。
<四番隊>
お、ちょうど休憩してる時に来たみたいだな。
先に用件だけ済ませておこう。
「失礼しまーす。新しくできた零番隊をよろしくお願いします」
「あ、さん。昇格、おめでとうございます」
勇音が最初に歓迎してくれる。
卯ノ花隊長も、笑って迎えてくれた。
「ちょうど良い時に来ましたね。お茶を淹れたんですが、如何ですか?」
「もらいます」
花太郎が淹れてくれた茶を飲んで、一息いれる。
落ち着くな、この空気。日当たりも良いし、眠りそうだ。
・・・その前に、先に挨拶だけは済ませておかなきゃ副隊長に怒られそうだが。
それを想像したら恐ろしくなって、重い腰を上げることにした。
「まだ回らなくちゃならないんで、これで失礼します。ご馳走様でした」
「ああ、さん」
「はい?」
「貴方も隊長になったんですから、敬語など使わずに接して下さって構いませんよ」
呼び止められるから、何かと思ったら。
優しい言葉が、心に沁みるね。
「心がけておきます」
だからといって、すぐに敬語が抜けるわけない。
<五番隊>
「おめでとう、君。君が卍解できるとは、知らなかったよ」
仕事中に邪魔したというのに、藍染隊長は気にせず、手を休める。
座って、と言われた椅子に腰を下ろすと、彼は隊員を呼んで、雛森を探すよう伝えた。
「言ってませんでしたからね、昇格に興味が無かったんで」
「もう私達は対等な立場なのだから、敬語は使わなくてもいいんだよ」
「すぐには抜けませんよ、この習慣は」
卯ノ花隊長と同じことを言われても、困る。
・・・あんまり、藍染隊長が好かないから、余計に。
「藍染隊長は」
「『隊長』は、君もだろう?」
「・・・藍染さんは、俺なんかが隊長になっても良いんですか?」
「君は、それほどの実力を持っていたということだろう。構わないよ」
微笑まれても、こっちは苦笑いでしか返せねぇ。
雛森、早く来てくれ!
「失礼します。藍染隊長、お呼びですか?」
「ああ、君が挨拶に来たんだよ」
「お邪魔してます」
助かった。
俺の祈りが通じたのか、雛森はすぐに現れた。
「君、すごいね。新しい隊を任されるなんて」
「雛森。俺、隊長だぜ?もう君付けで呼べねえぞ」
にやりと笑ってやれば、間の抜けた顔が膨れていく。
「日番谷君と同じこと言わないでよ」
「悪い、悪い。ていうか、あいつのは同情するぞ、誰でも」
なんせ、『シロちゃん』だもんな。
成長した男なら、誰だって嫌がるさ。
さて、二人に顔をあわせたし、次に行くか。
<六番隊>
朽木隊長を相手に喋るのは、緊張するよな。
隊首室に入るのを躊躇っていると、ちょうど良い時に阿散井が現れた。
「何やってんだ、」
「零番隊の宣伝をしにきた」
「宣伝って、店じゃねえだろ」
笑いあいながら、中へ入る。
騒がしいと思われたのか、入っていきなり睨まれた。
「あ、えっと、零番隊隊長に任命されたです。これからよろしくお願いします」
頭を下げるが、反応が無い。
朽木隊長の様子を窺うと、彼は書類に目を通していた。
「隊長、挨拶ぐらいしたらどうですか」
阿散井が助け舟を出す。
それで、ようやく口を開いた。
「それだけのことで、来る必要は無かろう」
・・・帰れってことだな。
悪いな、と仕草で表した阿散井に口パクで気にするなと答えて、静かに退出した。
<七番隊>
「失礼します、零番隊のです」
そっと襖を引くが、中には誰もいない。
狛村隊長は留守にしてるらしい。
ということは、副隊長も一緒にいるはず。
挨拶に来たことだけは書き記してから出ようと机を借りると、その上に留守の理由が書いてあった。
『毛の手入れ中』
・・・それだけのために留守にしてるのかよ。
狛村隊長って、どれだけ毛があるんだ?
<八番隊>
「昇格おめでとう。はい、これ持って」
猪口を渡されたと思えば、酒がそこに注がれていく。
絶対にそれを理由に自分が飲みたいだけだろ。
俺も飲むけどな。
「何だ、こりゃ。安物じゃねえか」
「不満かい?美味しければ、何でも良いじゃない」
「祝ってくれるなら、もう少し高い酒を飲ませろよ。あるんだろ」
「駄目駄目、それは僕一人で楽しむから」
嘘でもいいから、無いって言えよ。
猪口を使うのも面倒だから、酒を直接飲む。
すると、ここのしっかり者が現れた。
「二人とも、昼間から何飲んでるんですか!」
「おかえり、七緒ちゃん。お酒だよ、見て分からない?」
「分かってます。だから、勤務中に何でお酒を飲む必要があるんですか」
「怒るなよ、七緒。俺の昇格祝いなんだから」
「昇格祝いなら、今晩、宴会を開くと聞いていましたが?」
おおっと、そうだった。
酒は後でたっぷりと飲むことにしよう。
持っていた酒を京楽に返して、出る事にした。
後ろで怒鳴り声が聞こえたあたり、自分は間一髪で危機を逃れたようだ。
<九番隊>
「新しくできた零番隊をどうぞ宜しくお願いします」
失礼のないように挨拶を済ませると、東仙隊長は特に表情を変えることもなく答えた。
「くれぐれも問題を起こしたりしないように注意してくれ」
俺の評判って、そんなに悪いのか?
東仙隊長にそう答えられるとは思わなかった。
「当たり前だろ、お前が市丸隊長と同じように吉良をいつも困らせてるって話は聞いてる」
顔に考えていた事が表れてたのか、檜佐木がご丁寧に説明してくれる。
そこまで迷惑かけた記憶はないんだが。
やるべきことをやってからのサボりだから。
「自慢するようなことじゃねえ」
「まあ、これからの君に期待しておこう」
どこか刺のある言い方を東仙隊長は止めない。
それが何か分からないまま、俺は次の隊へと足を運んだ。
<十番隊>
「あら、。昇格おめでとう」
「これからは、真面目に仕事に就くんだな」
日番谷隊長まで、そんな事を言わないで下さい。
仕事なんてしたくねえんだから、俺は。
「考えとくよ、冬獅郎」
「・・・何?」
眉間に皺を寄せてたのが、さらに深くなる。
別に問題発言は、してねえぞ。
「冬獅郎って言ったんだよ。立場が同じなら、呼び捨てしても構わねえだろ?」
「あら。だったら、あたしのことも乱菊って呼んでくれて構わないわよ」
「前から乱菊って呼んでたろうが」
冬獅郎が俺と同じタイミングでツッコミをいれれば、気まずそうに仕事をし始める。
なんだよ、その態度は。
そんなに俺と同じに思われるのが嫌なのか?
<十一番隊>
正直、ここにも来たくなかったな。
どいつもこいつも血の気が多い、多い。
「ああ、。何、自分が隊長になった事を自慢でもしに来たわけ?」
「相変わらずな歓迎感謝するよ、弓親」
これぐらいで事が済むなら、かなり楽だ。
いっそのこと、こいつに用件だけ伝えて帰った方が良いかもしれない。
「更木隊長とやちるは?」
「隊長は昼寝、副隊長は一角と遊んでるよ」
うん、こいつに伝言を頼んで帰ろう。
誰かに勝負を申し込まれる前に帰れて助かったぜ。
<十二番隊>
最後は、十二番隊だな。
ここで休ませてもらおう。
「マユリー、遊びに来たぞ」
「何だネ、この忙しい時にノコノコとやってくる馬鹿がいるヨ」
口は悪いが、マユリはネムに茶と菓子を用意させる。
何だ、暇なのかよ。
「それで?私は何かを聞かなければ、ならないはずだろう?」
温い!
ネムに受け取ったばかりの湯呑みを返し、また淹れさせる。
そんな会話に慣れてる俺は、自分の分を手にした。
熱くて飲めねえ。
「零番隊をどうぞご贔屓に」
「ふん、それを先に言うべきだったんじゃないのかネ。意味は大分違うが」
「別に俺等の仲なんだから、いいだろ?」
頭を掻いて、ようやく飲める温度になった茶を口に含む。
マユリは新開発の品を出してきた。
「これが何か分かるかネ?」
こうして、十二番隊で過ごすのが俺の日常だった。
挨拶をしに回ったことを副隊長に報告せずに留まっていると、
次の日、説教をくらってしまったのは、言うまでもない。
-back stage-
管理:まずは、挨拶です。それをしなければ、何も始まらない。
弓親:若干、誰と仲が良くて誰と仲が悪いかが出ているね。
ネム:ですが、私達、女性の出番が少ないです。
管理:し、仕方ないやん、隊長格は男が多いから出しにくい・・・
恋次:ゆっくりやっていくしかねえな、それは。
管理:フォローどうも!ちなみに、が藍染さんを嫌ってるのは、あくまでも性格の問題です。
藍染:原作の話の流れとは、全く関係ないということだね。
2007.03.31
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